File 2-9
「まず、最初の事件。あの時何があったのか。そこから説明することといたしましょう。昨日私と道連れとセーヌ、ザシュル、リスケ、アルゴは一緒にディナーを取った後、酔い潰れたリスケをアルゴが介抱し、私たちは各自自分の部屋へと戻った。一時は確かにみんな自分の部屋に帰って行ったのです。しかし、アルゴは転移魔法装置をつけ酔い潰れたリスケを連れて裏口からホテルの外に出ました。そしてアルゴは・・・そのまま自分の部屋に帰ったのです」
「へ?アルゴさんが撃ったんじゃないんですか?」
僕は間抜けな声を出して終に質問した。
「バカか、道連れ。アルゴは確かに私たちの後から裏口を通って死体を見に来たろう」
「確かに・・・」
僕の疑問は一蹴された。
「話を続けましょうか。そして連れ出されたリスケは訳も分からずその場で倒れ込んでいたことでしょう。相当酔っていましたからね。そしてその場に現れたのは・・・リース。あなたなはずです」
終はリースを指差し言った。そしてつづけて言う。
「最初の事件の犯人はリース。裏口のドアを開けたままリスケさんを自前の拳銃で撃ったのです。フレジャラビのホテルの裏口でね。そしてホテルの陰に隠れたリースは私たちをやり過ごし、アルゴは一芝居打って私たちをホテルの中に再び連れ戻した。電話が切られていると言ってね。そしてその一芝居の間にアルゴは自分の部屋の転移装置を切り、チンチラビの裏口とフレジャラビの裏を繋げる道を除いた。そう。一つ目の事件は最初からチンチラビではなくフレジャラビで起きていたんです」
「じゃあ弾丸がチンチラビ警察からなくなっていなかったのも・・・?」
「そう。最初からフレジャラビ警察の警官であるリースが撃ったものだったからだったの」
「なるほど・・・それなら説明がつきます!!」
僕のその言葉に終はご満悦のようだった。割と承認欲求が強い人間なのかもしれない。いや、そもそも人間なのか怪しいところではあるけど。
「ふむ。そして転移がなくなったフレジャラビのホテルの裏ではリースが現場の血を魔法箒で掃除して死体を下水道へと捨てた。チンチラビ側の下水道は調べられたりもしたみたいだけど、そもそも探す街が間違っていたのだ。見つかるはずもあるまいな。その後、リースは悠々と去っていき、私たちは何もないはずのチンチラビのホテルの裏でチンチラビ警察に必死に事件だと説明していた訳だな」
僕は終の推理に圧倒されていた。それは他の者たちも同じなようだった。弾丸が見つからないのはザシュルさんが実は銃に精通していてスキル、弓矢作成で生成したからでは?なんて考えてた自分が恥ずかしかった。御免なさいザシュルさん。
一つ目の終の推理が終わったが、スキルは発動しない。どこか間違っていたのかと僕は不安になったが、終の自信満々な様子を見るとどうやら違うらしい。
「道連れ。心配しなくてもいい。私のスキルは現在、二つの事件について発動しているから、二つの事件両方とも解き明かさない限り、スキルは成功しないのさ」
「そうなんですか・・・」
初耳だった。なんだか楽しそうな終を見ていると自分が心配したのがバカらしく思えてくる。きっと終の中では、今は犯人をじわじわと追い詰めている一番楽しい時間なのだろう。彼女は嫌な笑みを浮かべ始めていた。
「それでは二つ目の事件について。答え合わせだ。二つ目の事件も基本は転移魔法装置と、この瓜二つな二つの街の街並みのせいでややこしくなったのさ。今日、私と道連れ、フーコ、それにリースは共にフレジャラビのホテルでディナーを取った後お酒を飲んでいた。そして酔い潰れたフーコをリースが介抱し、各自部屋へと戻った。そしてリースは自分の部屋の転移魔法装置を発動させ、フーコをフレジャラビのホテルの裏口から、チンチラビのホテルの裏へと連れ出した」
僕たちはもはや終に口を出さず、黙ってその考えを聞いていた。
「チンチラビのホテルの裏で待ち構えていたアルゴは、フーコを自分の銃で撃ち、1回目の事件でリースが隠れたのと同じようにホテルの陰に隠れてやり過ごした。そして私たちが死体を発見した後、今度は一度目の事件とは違い、チンチラビのホテルに隠れていたアルゴが銃声を鳴らした。そのせいで私たちはまんまとフレジャラビのホテルの中に戻って来たって訳だ。そしてその混乱に乗じてリースは転移魔法装置を切り、私たちは一つ目の事件の現場であるフレジャラビの裏に案内された訳だ。しかしそこで犯人たちの予想外の出来事が起こった。私が撒いた罠にすっかりとはまってくれていたんだね」
ニタァと嫌な笑みを浮かべ終は解説を続ける。
「私は昨日、アルゴにとある嘘をついた。その時点では私は彼が犯人だとは、いやその時点ではまだ犯人ではなかったのか、まぁ犯人になると確信を持っていたわけではなかったが、一応嘘をついておいた。リムの魔法感知が一日分の残留魔力しか感知できないと言う嘘をね」
そう終が言うとアルゴとリースははっと何かに気づいたようだった。
「うんうん。そうだよね。だから君たちは二つ目の事件の後、無防備に一つ目の事件の現場であるフレジャラビのホテルの裏を晒してしまったんだよね」
終はだんだんと彼らを追い詰めていく。詰みはすぐそこまで迫っていた。
「フレジャラビのホテルの裏で魔法感知をした結果、一つ目の事件の決定的な証拠が出て来てしまったと言うわけだ。そしてその間にアルゴはチンチラビのホテル裏でせっせとフーコの死体を片付けていたと言うわけだ。死体は改めてチンチラビとフレジャラビの警察がそれぞれ自分の治める街の下水道を調べれば出てくるはずさ。これがこの事件の真相ってとこかな。さて。これで私の愚考も終わりと言ったところだよ」
終が喋り終わると、アルゴとリースはスキル探偵の力に効果によって拘束された。これで終の推理が正しいと言うことが証明された。
「でも・・・なんで?アルゴさん。リースさん。あなた方はリスケさんとフーコさんを尊敬していたんじゃなかったんですか?」
僕は思わず二人にそう聞いていた。
「尊敬?馬鹿げてる。なんであんな女を」
「そうだ。あんな女、死んで当然だったんだ」
二人は揃って故人であるそれぞれの上司をけなした。
「はぁ。私が代わりに説明しよう。道連れが傷つくだけだろうからな・・・」
終は珍しく悲しげな顔をして言った。僕が傷つく?
「あの二人は、この二つの街、チンチラビとフレジャラビの対立を深めていたんだよ。そしてそこのアルゴとリースはそれを望まなかった。きっと・・・どこかのクソ野郎に吹き込まれたんだろうさ。あの女たちを始末すれば、自分たちも昇進できてこの双子町の対立を解決することができる。ってね」
「へ・・・そ、そうなんですか?アルゴさん、リースさん・・・」
「・・・」
「・・・」
それらの沈黙は答えに等しかった。僕は虚しさと切なさが込み上げて、声にならない叫びをあげた。目からは不思議と涙が込み上げて来ていた。
「そんな・・・街を思って人を殺すなんて・・・間違ってます・・・間違ってますよ・・・」
「そうだな。道連れ。間違っているとも。だから私たちはそれを正さねばならないのだよ」
終はそう言って僕の頭を撫でた。そして僕が泣き止むのを待ってくれた。
「・・・でもこれでひと段落ですね。終さん。お疲れ様でした」
泣き止んで僕が終にそう声をかけると、何を言っているんだこいつはみたいな顔をされた。さっきまでの優しそうな感じはなんだったのかって感じだ。
「道連れ。お前は何もわかってない。お楽しみはこれからじゃないか。リム」
終の掛け声でリムは魔法を発動させた。リムの尻尾から溢れ出た強い光はアルゴとリースを包み込むように広がった。
「ふむ。これで獲物を横取りされる心配もあるまい。・・・では、お楽しみの時間と行こうではないか」
終はまだ何かを続ける気らしかった。
終はアルゴとリースの目の前に行くと、ぐいと二人に顔を近づけ、そして問うた。
「お前たち、誰にそそのかされた?」
「・・・」
「・・・」
「問題ない。今は結界でお前たちを守っている。お前たちは無事に警察に送り届けられるさ」
終がそう言うと堪忍したのか、アルゴから先に喋り始めた。
「赤い目の女・・・フードを深くかぶった赤い目の女だよ。俺たちにこの計画を持ちかけて来たのは」
「ほう。その女、名をなんと言っていた?」
「確か・・・インウィディア。そう名乗っていたよ」
「リースの方はどうだ?何か思い出せることはあるか?」
終に聞かれリースも喋り出した。
「なんだか、夢を見ていたみたいだったんだけど・・・インウィディアが俺たちに話を持ちかけてから・・・フーコ先輩が羨ましくなって・・・そしてそれと同時に憎ましくなったんだよ。不思議な感覚だった」
そのリースの言葉を聞くと、終は笑った。
「はははは!ようやくだ!!これも道連れのおかげか・・・?おい、お前ら、その女はどこで会ったんだ?どこに現れるかわかるか?」
終のその問いに答えたのはアルゴの方だった。
「会ったのは・・・そう。酒場だ。チンチラビの酒場に満月の夜に現れ、私たちに殺害方法を託した。そして・・・次の満月の夜。魔石と転移魔法装置を回収しにフレジャラビの酒場で再集合することになっている」
「次の満月の夜ってぇと・・・今日だぜ姉御!!」
リムは大声で終にそう告げた。終も興奮した様子で答えた。
「ああ。わかっているさ。震えが止まらないよ。長年尻尾すら捕まえさせてくれなかった、魔王の七幹部のうちの一人、嫉妬のインウィディアと対面できるなんてね・・・」
僕はなんだかよくわからなかったが、自分がすごいことに巻き込まれていっていると言う自覚だけは芽生えてきた。
そしてそれから、アルゴとリースはそれぞれの街の警察へと送られていき、リムは疲れたと言って終の髪の毛に戻り休むことになった。僕と終は今日酒場に現れると言う魔王の幹部を捕まえるための策を考えるため、フレジャラビのホテルの僕と終の取っている部屋へと帰っていった。




