File 2-6
翌朝。
目をさますと珍しく終は僕よりも早く起きてすでに出かける準備を済ましていた。いつもの白装束を着て、出かける気満々だった。
「ああ、ちょうどよかった。そろそろ出かけるぞ。道連れ。さっさと準備をしたまえ」
終のその声に、僕はならもうちょっと早く起こしてくれればよかったのにと言いたくなるのを我慢した。急いで服を着替えて出かける準備をするが、終はホテルにある荷物をすでにまとめきっていることに気づいた。というのも、このホテルに今日も泊まるのならその必要はなかったのである。だから、チェックアウトを済ませようとしているのかと僕は疑問に思った。
「あれ?終さん。このホテル、チェックアウトするんですか?」
「ん?ああ。言ってなかったかね?今日はフレジャラビの方のホテルに泊まるから、今日の朝このホテルはチェックアウトするぞ」
「言ってません・・・」
「ふむ。そうだったか。まぁそれは些細な問題だ。さっさと用意したまえ。道連れ」
「・・・」
あまりの傍若無人さに僕は言葉を失いつつも、終の命令に従うために大急ぎでチェックアウトの準備をした。とはいえ、僕がこの世界に持ってこれたものは少なく、僕のなけなしの持ち物といえば終に借金して買った服とこの世界に着て着た服とその時持っていたスマホぐらいだった。結果として僕はさっさと準備を済ますことができた。
「ふむ、では行くか。道連れ」
「はい」
終はアルゴに話を通すと、アルゴは自分一人だけでもフレジャラビに入るまでの護衛をさせてくれと申し出たので、フレジャラビまではアルゴも同行することになった。
「それで、昨日の事件の展開はどうなりましたか?アルゴさん」
フレジャラビのホテルへと向う途中、僕はあの事件の展開をアルゴに尋ねた。
「それが・・・死体もなく殺された痕跡さえなかったものですから・・・そもそもそんな事件は本当に起こったのかとチンチラビ警察も半信半疑でして・・・」
「まだ進展は一切なしというわけか」
終はその言葉を吐いた後、なぜか笑った。僕はさすがに不謹慎だと思ったが、今指摘したところで目の前の女の態度は変わらないだろうと諦める。しかしそこで、僕は終の歩いている方向がおかしいことに気づいた。フレジャラビに行くのなら東に向かって歩かなければいけないのに、終は南に向かって歩いていた。
「ちょっと、終さん?どこへ行こうとしてるんですか?フレジャラビはこっちでしょ?」
「ふむ。確かにフレジャラビはそっちだな」
僕の言葉にそうとだけ答えると終は変わらずつかつかと歩き続ける。
「どこへ行くんですか?」
「そんなの決まっているだろう。チンチラビ警察だよ」
「昨日の事件について・・・ですよね?どう考えても。でも、今は何も進展がないからフレジャラビに向かうんじゃなかったんですか?」
「道連れ・・・君はバカなのか」
終はため息をついて僕を小馬鹿にしながらそう言った。悔しいが終に言われると反論しようにもできない。
「バカって・・・」
「バカはバカだろう。忘れたのか?私が取っておいた弾丸。あれを渡せば多少の進展は見せるだろうさ」
終は僕の耳元で小声でそう言った。
「なんで小声なんです?」
つられて僕も小声で返す。
「今回の事件、謎が多すぎる。まだ誰も信用するわけにはいかないんだよ。たとえ警察でもな」
「なのに警察に証拠を渡してしまってもいいんですか?」
「ふ、それこそ愚問だ。すでに解析は終えてある。一級魔道士の診断書付きだ。たとえ何かを細工してきたとしても問題あるまいさ。それよりそろそろ離れたまえ。怪しまれる」
終に言われそういえばそうだと気づき終から離れてこそこそ声での会話をやめる。
「アルゴさん。チンチラビ警察はどこにあるんですか?」
「チンチラビ警察ですか?本庁はもうすぐ近くです。さっきのホテルはほぼ町の中心部なので本庁も近いんですよ」
「あー。そうなんですか。どうりで立派なホテルだと思いました」
「私が取るホテルなんだから一流に決まっておろう」
終が茶々を挟んできたが無視してアルゴと話を続ける。
「リスケさんってどんな人だったんですか?」
「え?」
「いや、リスケさんですよ。昨日はお気の毒でしたけど、どんな人だったのかなって。ちょっと気になっちゃって」
無視をしたにもかかわらず終はそれ以上追求することなく僕の言葉を黙って聞いていたので、それはそれで気持ち悪かった。アルゴの方もいきなり聞かれて戸惑っているようだった。
「あ、ああ。リスケさん・・・ですか。昨日見た通りの方でしたよ。とにかくフーコさんと仲が悪くて。フレジャラビ陣営とも同じく・・・でしたね。でも、チンチラビ警察の後輩には厳しくも優しく接してくれていました。いい上司だったんです・・・それがあんなことになるなんて・・・」
「すいません、蒸し返すようなこと言っちゃって。厳しくも優しい先輩・・・か。惜しい人を亡くしましたね・・・、ね、終さん」
そこで僕はつい終に話を振ってしまったが、すぐにそれを後悔することになった。しかし、さすがの終とはいえ、故人に失礼なことを言うとは思っていなかったのである。
「それはどうかな?」
「え?」
終の一言にアルゴがすぐに反応する。
「リスケはフレジャラビ対立の筆頭者ではなかったのかね?」
「・・・確かに、先輩はフレジャラビと率先して争っていましたが・・・というかフーコさんとが正しいですけど」
「チンチラビの代表とフレジャラビの代表が争っていたのでは和解も進むまい。ならむしろ死んでしまってよかったと考えることもできるのではないか?」
「え・・・?」
「ちょっと!!!終さん!!!それはダメでしょ!!!倫理的に!!」
僕は流石にその言葉を許容することはできなかった。しかもリスケさんの後輩のアルゴさんの目の前で。
「道連れは黙っていたまえ。で、どうなんだね?アルゴくん?」
「それは・・・確かにそういう話が出たこともありましたが、実際にやろうとする人なんていないはずです!」
それは僕が思っていたのとは違う反応だった。仮にも先輩が死んで、死んで良かったと言われたら普通怒るのではないか?そう思っていたからである。
「やはりか・・・。この町でチンチラビ警察とフレジャラビ警察が対立しているのは見たが、町の様子を見ると思ったほど対立が濃くないことに気づいたのだよ。もしかしたら、この対立は警察に根強く結びついているものではないのかと思ってね」
「そんなことを・・・?」
「ああ。だが、アルゴくんの話を聞いていると警察全体でいがみ合っているというわけでもなさそうだったし、対立候補のリスケとフーコがいなくなれば対立が緩まるという考えが浮かんでもおかしくない」
終の言葉にアルゴは黙ってうなづいた。うさぎの耳がピクピクと動いた。
「ということはその関係で命を狙われた可能性が・・・」
「その通りだ。道連れ。・・・お、チンチラビ警察が見えてきたぞ」
終が指差す先にチンチラビ警察の本庁が確かにあった。アルゴの仲介で僕たちは警察に証拠品の銃弾を提出した。なぜ勝手に押収したのかについては死体が影も形もなくなったこと、終がこの世界では超有名な探偵であること、警察上層部、政界関係者に知り合いが多いことからお咎めは全くなかった。
死体も血痕も一切見つからなかったため本当にそんな事件があったかどうかさえ疑われていた事件だったが、銃弾が証拠として上がってきたことで捜査は大幅に進むことになったようだ。捜査の進展に関してはアルゴから終に連絡が行くようにしたようで、僕たちはとりあえずフレジャラビに行くことになった。もちろん終の意向で。
フレジャラビまでは相変わらずアルゴが警護についてくれたが、もちろん何も起こることなくフレジャラビとの境界までの道のりを進んだ。アルゴが連絡していたからか、フレジャラビの境界にはすでにフーコとリースが終の警護をしにわざわざやってきてくれていた。
フレジャラビ警察の実働部隊の上司、フーコはリスケの死を知って何を思うのだろう。僕はそんなことをふと考えたが、そっと心にしまっておいた。
「おお、上終殿。チンチラビなんてしょうもない町で事件に巻き込まれてさぞ苦労の多かったことでしょう。でも安心ください。フレジャラビはわがフレジャラビ警察がいる限り治安は守られていますので!!」
元気にそう言うフーコに言い返すリスケはすでにいない。その言葉はその場に虚しく響くだけだった。アルゴも黙って言い返そうとしない。
「あれ?そういえばあの生意気なだけが取り柄のリスケはどうしたの?まさか仮病?」
どうやらフーコは昨日の事件について知らないようだ。まぁ隣町の事件だし仕方ないか。
「それが・・・リスケさんは・・・昨日、亡くなりました」
「え?」
アルゴの返答にフーコは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。が、すぐにハッと顔を元に戻し再び口を開いた。
「そうかそうか。あのリスケ・・・チビ女が死んだか。ああ、せいせいするな。これでチンチラビの質も知れると言うもの。警察が殺されるなんてね。情けない」
口ではそうひどいことを言っているが、明らかに顔は寂しげだった。それは虚勢。争い続けていたとはいえ、長年の知り合いが死んだのだ。ショックでないわけがない。それも警察という正義を志す者なのだから。
「まぁ、フーコさん。死んだ人を悪くいうのは」
「・・・わかってるよ。いやすみませんね、上終さん。それではフレジャラビをご案内しますよ。アルゴ・・・チンチラビは帰っていいわよ。せいぜいリスケ殺害の犯人を早く見つけることね」
フーコにそう声をかけられたアルゴはトボトボと帰っていった。その背中はなんだか寂しそうだった。それもそうだろう。
「それでは、行くとしようか。道連れ」
「はい・・・」
「そんな顔をするな。心配しなくても昨日の事件はこの街に滞在している間に片をつけるさ。昨日いたセーヌとザシュルにも連絡先を聞いておいた。というかそもそも彼らには気の毒だが、おそらく彼らは一応警察の監視下にあるだろうからな。街から出ないようにとも言われているはずだ」
「そうだったんですか。なら、安心ですね。必ず、解決してください。目の前で人が殺されてそのままなんて、胸糞悪いですから」
「ふふ。君は正義感が強いんだね。だから生前はすぐに死ぬことになったのかな?」
終は僕の耳元で小声でそう囁きかけてきた。
「え?」
僕の言葉に終は何も返さない。それ以上追求はしてくるなということだろう。勝手な女だ。自分は言いたいことを言って僕には何も返させないなんて。
それから僕と終はフーコとリースに案内されてフレジャラビを案内された。が、結論から言うとそこまで楽しい観光にはならなかった。気分が乗るはずもなかったというのもそうだが、チンチラビとフレジャラビは点対称にほとんど同じ構造をしていたために二度目に訪れたような気持ちになって新鮮味にかけたのだ。
「ふむ。では街の風景も見飽きたことだし、ホテルへ向かうとしようか。なんならフーコくんとリースくんも泊まりたまえ。話は通しておこう」
「いいのですか?」
「ああ。私の警護をするのだから、それぐらいはしてもらわないとね?」
終はそういう風に人を丸め込んでいく。そんな成り行きで昨日とは違いフレジャラビ陣営と寝食をともにすることになったのだが・・・
ホテルに着いたとき、僕は本能的にその場所を嫌だと思った。なぜならそこはつい昨日殺人事件が起きたホテルとほぼ同じ外観の建物だったからである。終は昨日チンチラビで泊まったホテルの真反対側の全く同じ建物に泊まることに決めたのだ。趣味が悪いというかなんというか。僕なら他のホテルにするものだが、終はむしろもっと事件が起こってほしいとすら思っていそうだった。
「ほー!素晴らしいホテルですね」とフーコは何も知らずにそんなことを言った。昨日リスケが殺されたホテルと全く同じ作りですよとは言えるはずもなかった。
僕と終はいつもと同じように同じ部屋で寝ることになった。今になって思うのだが、終も一応女なのだから男である僕と同じ部屋というのはいかがなものだろう。しかし、多分そんなことを言えばきっと終にバカにされるだけなので何も言わない。
そしてまた夜になると、フーコとリースとともにディナーをいただくことになった。しかし、あいにくディナーを食べようとした時に電話が入り、ディナーは少しの間お預けとなった。
「もしもし。上終ですが。どちら様ですか?」
終はディナー前にかかってきた電話を取るとそう応答した。こちらからは向こうの声は聞こえないため、電話の内容はわからない。
「はい、はい。ええ。ああ!!そうでしたか。なるほど、なるほど。わかりました。連絡ありがとうございます。また、進展があれば教えてください。はい、では、では」
終は電話を切るとこちらに向き直った。
「さぁ。ではディナーといきましょうか」
「いや、終さん。今の電話については?」
「ああ、いう必要があるかね?」
「あるでしょ!」
「うーん。それじゃあ、フーコさんとリースさんは少しその場でお待ちいただいてもよろしいですかな?」
終はフーコさんとリースさんの席に向かってそういうと、返事を待たずに再び僕の方に向き直った。そして小声で耳元で説明をしてくれた。耳元で囁かれるのはこそばゆく、動揺してしまいそうだったが、終にバカにされそうだったので死ぬ気で我慢した。
「昨日の事件について少し進展があったそうだ。私が押収しておいた弾丸は、チンチラビ警察が携帯している38口径の銃のようでね。それがわかってからチンチラビ警察の全署員の銃と弾丸が調べられたそうだよ」
「その結果は?」
終に続いて僕も小声で聞き返した。
「誰の銃にも異常は認められなかったらしい。薬莢の跡もなければ弾丸が足りないなんてこともなかったようだよ。だから、結局のところは、何もわからないことがわかったってところかな」
「そんな。それじゃあ振り出しに戻ったってことですよね?」
「それは違う。わからないことがわかったんだ。これは大きな進歩なんだよ」
「???」
僕はその終の言葉の意味がどうしても理解できなかった。結局わからないだけじゃないか。
「まぁ道連れにはわかんないか。・・・さ!食事にしよう!」
僕の思考など置き去りにして終は話を進めた。僕は結局何もわからないまま、ディナーの席に着いた。
「フーコさんはリスケさんの死について何か思うところはありますかな?」
飯を食べ始めてから、開口一番で終が放った言葉がそれだった。正直信じられないと思ったが、終に常識を当てはめても無駄だということはもうすでに実感しているので黙って話を聞く。
「リスケ・・・ねぇ。本当に死んでしまったのか、今でも実感が湧かないってのが今のところの感想ね・・・」
「やはり思うところはあると」
「んなわけないでしょ!?あんなチビ女。これでフレジャラビの力が強くなっていいことづくめよ。本当!」
「まぁまぁ先輩。そう言わずに」
興奮するフーコをリースがたしなめる。アルゴと同じように、こちらもたしなめるのに慣れているようだ。
「それにしても、彼女はなんで殺されてしまったんでしょうねぇ」
終は白々しくフーコにそう問いかけた。
「そんなの知りゃしないわよ。どうせあんなの、誰かの恨みでも買ってたんでしょうよ」
「そうですか?とてもいい上司だったとの話を聞いていますが」
「へ?・・・そうなの?あのアルゴとかいう金魚の糞の話?」
フーコが使った金魚の糞というワードが自分の部下についても当てはまるということに彼女は自分で気づいていないのだろうか。まぁそんなこと指摘しないが。
「そうです。厳しい一面もあったようですが、優しさもありとても良き上司だったと」
「へぇ。あいつそんなとこもあったんだ。私たちから見たらただの頭でっかちのクソ女だったけど」
「そうなんですねぇ。でもフーコさんからしたらヒトよりの獣人として何か共感する部分もあったのではないですか?」
終はどんどんフーコに言葉のナイフを切り込んでいく。心に傷がつくかどうかなど彼女にはこれっぽっちも関係ないのだろう。
「そ、そうね。いや、そんなことはないわよ・・・あんなチビ女の話よりもっと他の話をしませんか?その方が上終さんも楽しいでしょう?」
「・・・そうでもないがねぇ」
それで昨日の事件についての話はようやく終わり、やっと平和な話ができるかと思っていたが、そうは問屋がおろさないらしく。
「上終さんはこの街にはびこり始めている武器商人の話をご存知ですか?」
フーコが始めたのは又しても物騒な話題だった。
「武器商人?」
「ええ。武器商人です。魔王の手の回った者だという噂もありますが、厄介なのはそいつが扱う武器なんです。その武器はどれも魔法が付加されていて、特に認識阻害の魔法をかけられた武器が犯罪に悪用されるケースが増えてきているんです」
「ほほう。それは耳にしたことがある」
耳にしたことがあるというかまさにそれは僕が最初に巻き込まれたというか濡れ衣を着せられそうになった事件に関係するものだった。
「最近それで武器が見つけにくいケースが多くて困っているんですよ」
「それはフレジャラビもチンチラビもですかな?」
「・・・お恥ずかしいことに。というかラビ全体ではびこっているのが現状なのです」
「なるほど。それは調査しがいがありそうですな。昨日は武器ではなく死体が消えるなどという奇妙な事件も起こったぐらいですから、このラビという都市に危険が迫っているのかもしれませんな。全く嘆かわしい」
終は白々しくそう言うが、それが本音のようには全く聞こえなかった。僕には目の前の女が、奇妙な事件という餌を待っている猛獣にしか見えなかった。きっと心の中ではその黒幕を追い詰めるのを楽しみにしているに違いない。
「そうなんです・・・それもこれもチンチラビの奴らがだらしないからで!!あいつらはもっと体を鍛えんといかんのですよ!!」
「先輩、まぁまぁ。これでも飲んで落ち着いてください」
リースはまた始まったという感じでお酒をフーコのグラスになみなみとつぐと、フーコはそれを一気に飲み干した。
「落ち着いていられるかっての!あいつら頭でっかちでチビのくせに体も鍛えないで・・・そのくせ偉そうなんだから!!」
「そうですよね。先輩。でも今は上終さんの前ですから」
リースはうまくフーコをたしなめようとするがフーコの興奮は収まらないらしい。結局興奮は収まらないまま終がその場を打ち切るまでフーコの愚痴は続いた。リースは私がなんとかしておきますのでと僕らを部屋に帰らしてくれた。昨日のことがあったので、ベロベロのフーコを残して行くのは不安があったが、このままでは延々愚痴に付き合わされそうだったので、終の忍耐も持たなかったため僕たちは部屋へと戻った次第だ。
「終さん。ほっておいてよかったんですか?フーコさん。今日アルゴさんと話していたのが本当ならフーコさんも危ないんじゃないですか?」
部屋に帰ると僕は終にそう問いかけた。それは必然の発想であり、当然終も気づいているはずだった。
「まぁ、そうかもしれないね?」
「ならなんで防ごうとしないんですか!?」
僕が大きな声でそういうと、終は嫌な顔をした。そして僕に近づいてくると、ずいと顔を近づけ、僕の目をその大きな青い瞳で睨みつけてきた。しかし、その美しさから僕はビビるのではなくドキドキしてしまう。
「道連れ、お前には昨日の事件が解けるのか?」
「え?」
「昨日の事件が解けるのかと聞いている」
終は珍しく威圧するような力強い声でそう言った。
「解けない・・・ですよ。終さんに解けないのが解けるわけないじゃないですか」
「なら口出しをしないでくれ。道連れ、お前の役割は”巻き込まれること”。ただそれだけだ。私の勘が当たれば、今日何かが起これば全ての点が繋がる気がするんだ」
僕はそれに反論できなかった。だって僕には事件が解けないから。何を言っても遠吠えにしかならない。いや、違う。僕にだってできることはある。フーコさんを無事に部屋に送り届けることぐらいなら僕にだってできるはずだ。そう思い僕はやっぱりフーコさんを送ることにした。
「終さん・・・」
「なんだ?さっきの私の言葉を聞いていなかったのか?」
「僕が勝手に行動する分には構いませんよね?」
「なんのことだ?」
「ちょっとフーコさんを部屋まで送ってきます!!」
僕は終の返事を聞かずに部屋を出た。終が少し笑ったような気がしたのは気のせいだったのだろうか・・・。
僕は部屋を出てフーコさんとリースさんがいた場所まで戻ってきた。しかし彼女らの姿はなく。僕は思わず彼女たちに何かあったのではないかと思い心配になったが、リースさんの部屋に行くともうすでにフーコは部屋に送り届けたと言うので僕は安心して自分の部屋に帰っていった。
「何かあったかね?」
部屋に帰ってきた僕に終はそう聞いてきた。
「いえ。もう送り届けたらしいです」
「そうか」
終はそうとしか言わなかった。何を考えているのだろう。僕が勝手に行動したことについて何も思っていないのだろうか。
「あの、終さん」
「なんだね?」
終は僕の顔を見ずに新聞を広げて読みながら返事をした。
「僕のこと、怒っていないんですか?」
「何を怒ると言うんだ?道連れ、私が嫌いなのはな。人に自分の考えを押し付けることだ。だから逆に私はお前がどう考え、どう行動しようと構いやしないさ。私に考えを押し付けない限りはな」
その言葉になんだか救われた気がした。勝手に思い込んでいた終の人間らしからぬ性格に人間らしさを見れた気がした。要するに彼女は自由にやれと言ってくれたのだ。僕が誰を助けようと、僕の勝手だと。
「ありがとうございます」
「ただ、その結果君が事件に巻き込まれてくれれば私としては嬉しいかぎりだがな?」
一言多いのも彼女の特徴なのだ。だが、それに物申すことはやめておいた。彼女は彼女なのだから。
「物騒なこと言わないでくださいよ」
「ふふ。そうだな」
その日は比較的和やかに一日が終わった。このまま何も起こらなければいい。などと言うのは甘い妄想でしかないと言うことは、すぐに実感することになるのだが。僕はその日も、一日の疲れを癒すため深い眠りについたのだった。




