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異世界探偵『上終終』の愚考録  作者: あまた せい
File 2「偽りの弾丸」

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File 2-5


 その日の夜。パァン!!と響き渡る大きな音で僕は目を覚ました。


 寝起きの悪い終はというと、こういった時だけはちゃんと目を覚ますのが彼らしく、僕よりも早く反応し、いち早く現場に向かおうとしていた。


「道連れ!!急ぐんだ!!」


「は、はい!」


 珍しい終の大声にハッとして僕も終に引き続いて飛び起きて部屋の外に出た。


「さっきの音、どこで聞こえたかわかります?」


「誰にものを言ってるのかね。階段の下の方から聞こえたとも」


 急になった音、しかも部屋の中から聞いた音の方向がわかったとは、さすが探偵と言ったところか。僕と終は二階に泊まっていたので、音が下でなったとすれば音が聞こえたのは一回ということになる。そんなわけで僕と終は急いで階段で一階へと降りた。そして階段を降りたところで、同じく二階に泊まっていたアルゴが降りてきた。そしてそれに続いてセーヌとザシュルも降りてきた。


「一体何があったんでしょうか!?」


 アルゴは警官のくせに慌てているのが丸わかりだ。


「不穏な空気を感じます・・・」


 ポロンと楽器を弾きながら登場したのはセーヌ。なんで楽器持ってんだよ。


「嫌な匂いがするぜ・・・」


 意味深なセリフを吐いたのはザシュルだった。寝間着でも野性味溢れる毛皮を羽織っていた。


「うん。これは硝煙と血の匂いだね。そしてこの匂いが続いているのは・・・」


 終はそういうと一直線にホテルの裏口へと向かっていった。スタッフ以外立ち入り禁止の場所にヅカヅカと入っていくと、裏口のドアが開いていることに気づいた終は急いでその向こう側へと走っていった。


 僕もそれに続いて裏口から外に出ると、終が立ち止まっているのが目に入ったが周りの状況はまだうす暗くてよく見えない。太陽が登ってくれていればよかったんだけど。


「終さん!!一体何が!?」


 僕は終の隣に立って終が見ていたものを目の当たりにした。


 そこにあったのは・・・さっきまで一緒にテーブルを囲んでいたはずの・・・リスケさんの変わり果てた姿だった。


 リスケさんは胸から血を流して道路に仰向けに横たわっていた。先ほどまでお酒を飲んでいたためかまだ顔は赤く、死んでいるとは思えない状況だった。しかし、僕も素人なので、見た目だけではリスケさんが死んでいるとは判断できなかった。


 だが終が脈を調べて「これは・・・死んでいる。確かに息を引き取っているね」と現実を言葉にしてくれた。そう。僕の目の前で殺人事件が起こったのだ。この世界に来て二連続で事件に巻き込まれるなんて、僕はなんていう悪運。いや、なんていうスキルなんだ。


 だが終の顔を見ると殺人事件を目の当たりにしている人の顔とは思えないほど興奮しワクワクしているようだった。全くこいつは・・・。とはいえ僕も、そんな終を見ているからこそ冷静でいられるのかもしれなかった。


 いや、死んでいるのが獣人だからというのもあるかもしれない。僕はまだ、獣人が確かにここに存在するという実感が湧いていないのだ。だから前にリマティさんが殺された時も正気で入られたのかも。いや、あれは自分が疑われていたからそれどころではなかったのか。


「死因はあの音と胸から血を流していることから察するに銃で撃たれたことが原因だろう。この血の量はただ事ではない。それにこの硝煙の匂い・・・旧式の火薬を使う銃だな。おそらく」


「火薬ですか!?」


「うむ。君が来た日本では一般的に使われていたものだろう。この世界では最近は魔法銃の出現により、魔法銃に比べると使い勝手も悪く警察や狩人ぐらいしか使っていないものだが・・・。む・・・これは・・・。弾丸が貫通していたようだ。証拠品として押収しておこう」


「そんな、勝手に。いいんですか?」


 僕は何の権限もなく勝手に証拠品を押収するその姿に不安を覚えたが終の方はというと全く気にしていないようだ。


 終は弾丸を透明な袋に入れ、それを眺めながら手を顎に当てて何かを考えるポーズをとった。そしてそのすぐ後、後ろからセーヌ、ザシュヌ、アルゴが慌ててやって来た。そのタイミングで終は押収した弾丸を隠した。


「これは・・・!?」


「ひでぇ・・・」


「せ、先輩・・・!?」


 3人は3人ともそれぞれがショックを受けたようなリアクションをしていた。


「とにかくこうしているだけではダメだ。すぐに警察を呼ぼう。・・・と思ったが警察ならここにいたな。早く通報してくれ」


 終はアルゴにそういうが、アルゴはというとリスケに駆け寄って「先輩、しっかりしてください!先輩!」と声をかけていた。


「アルゴくん!!辛いのはわかるが早く警察に。そしてリスケくんの死体には触らないでくれ給え」 


 終が静かにそういうと、半泣きのアルゴはホテルへと戻っていった。そして僕たちは警察が来るのを待っていたのだが・・・。なかなか来ない。おかしいなと思い始めた頃、ホテルからアルゴが戻って来た。


「みなさん!こっちへ来てください!電話が!!」


 慌てた様子のアルゴに皆でついていくと、受付の電話もどの部屋の電話もコードが切られていた。


「これは・・・ひどいですなぁ。私の楽器類は無事のようで何よりです」


 と能天気な心配をしていたらしいセーヌ。セーヌの部屋の電話も切られていたらしい。


「俺の部屋もダメだった。誰か電話を自分で持ってるやつはいねぇか?」


 ザシュルの部屋もダメだったらしく、連絡できる手段は・・・。


「僕の部屋もダメでした・・・」


 アルゴもまだ半泣きのままでそう報告して来たため、残る手段は終の個人の電話だけとなった。幸い、終の電話は隠してあったためか見つからなかったらしく使うことができそうだった。


 そうして僕たちは全員集合して終の電話を使ってロビーで警察に電話した。深夜にもかかわらず、警察は来てくれるようだった。


「よし。それじゃあ現場で警察を待つとしようか・・・」


 終はようやくひと段落といった雰囲気で再び裏口へと向かった。僕たち3人もそれに引き続いてホテルの裏口から外へと出た。


 そこで僕たちは二度目の驚愕をすることになった。


 リスケの死体がその場から綺麗さっぱり無くなっていたのである。綺麗さっぱりというのはその文字通り、おびただしい量の血が染み付いていたはずの地面ですら、シミ一つ無くなっていた。「は・・・?」


 会って間もないとはいえ終の驚く声は初めて聞いた。


「え・・・?」


 とはいえ僕もにたような声を出していた。


「ウェ?」


「オイオイ」


「そんな・・・」


 アルゴ、ザシュル、セーヌの反応も同じだった。誰もがこの状況に困惑していた。周りには遮蔽物は少なく、今死体をどこかへ持っていったというのは無理な話だった。もし僕が知っている車だったとしてもここから見えない場所に運ぶまでそこそこ時間がかかるだろう。それに運べたとしてもこの血が綺麗になっている理由に説明がつかない。


「はははははははは!!!」


 突然終は気が狂ったかのように笑い出した。それを見て僕らは本当に終がどうしたのかわからなくて恐怖を感じていた。


「いやはや、面白い。箒でも使って死体を運んだのか?魔女の箒なら血も掃除できるかもしれんしなぁ」


 終は独り言のようにそういうと再び声を出した。


「リムくん!!出番だ!!」


 終の声に反応して終の髪からリムが登場した。すごく眠そうに。


「こんな時間に起こすとはそりゃないぜ。姉御。時間外労働も甚だしいぜ」


「いやぁ。すまない。でも残業代は弾むとも。魔法感知を頼むよ」


「範囲はここら辺でいいのかい?」


「ああ。適当で構わない。もし移動させたのであればここに何らかの痕跡が残っているはずだ。場所はここで間違いなく会っているはずだ。歩数で距離は完璧に測っていたからね」


 さりげにスペックが高いというかできることが多いというか一芸が多いというか・・・。終は平然とそういうと、リムはこの前僕を救ってくれた時と同じく魔法感知を始めた。


 リムの尻尾から不思議な光が出てあたりを包み込んだ。


「これは・・・それにあの生物は・・・?上終さん?」


 セーヌはこの不思議な光を見て終にそう尋ねた。よっぽどこの光が珍しいのか、リムのことを物珍しそうに見つめていた。


「あれは私の使い魔でね。今行なっているのは・・・詳しくは説明しないが、ここで使われた魔法の痕跡を探しているのさ。彼は政府にも認められた1級魔道士でね。ちゃんと公式な証拠になるのさ」


「へぇ・・・そんなすごい使い魔を・・・さすがですな」


「上終さん?今の話は本当ですか!?」


 セーヌと同じぐらい話に食いついて来たのはアルゴだった。もともと上終を知っていたらしいアルゴもといチンチラビ警察では終は割と人気なのだろうか。


「・・・ああ。本当だとも」


「どれぐらい前の魔法まで感知できるのですか?」


「・・・いやね。あの魔法はとても高度なものなのだがね、高度なものでも読み取れるのはせいぜい一日分ほどなんだよ」


 終は何かを考えながら返事をした。完全に上の空じゃないか。まぁこの状況だし仕方ないかもしれないけど。


 しばらく待っているとリムの魔法感知が終わったようで、ふわふわと浮きながらリムは終の近くまで戻って来て結果を伝えて来た。しかしリムの口から告げられたのは驚愕の結果だった。


「姉御・・・。ここいらで魔法が使われた痕跡は・・・一切なかったぜ」


「・・・何だと?それは本当か?」


「いや、姉御。本当なんですよ。それが」


「いやそんなはずは・・・なら犯人は一体どうやって・・・?」


 終の抱いた疑問は、そのまま僕たちが抱いた疑問と重なっていた。僕らも当然何でしたいがなくなったのか理解ができなかったし、おそらく今の時点ではそれは犯人しか知り得なかったかもしれない。


 終はブツブツと喋りながら歩き回ったが、しばらくするとふと立ち止まった。何かわかったのかと思い皆黙ってその様子を見守っていると・・・。


「いや、さっぱりわからん!」


 終ははっきりとそう言ってのけた。


「推理をするだけの材料が足りなさすぎる。とりあえず今は警察に事情を説明しよう」


 それから警察は到着したが、状況を説明すると本当か?酔っ払いの戯言じゃないのか?という対応をされかけたが、アルゴがこの場にいて説明してくれたことで信じてもらえたようだった。


 おそらく明日から本格的な調査が始まるだろう。でも、死体もないのにどうやって調査をするのだろうか。僕らの話だけでは到底調査をしようがないような気もするのだが。


「道連れ!」


「は、はい。何ですか終さん」


「とりあえず事情を話したら帰るぞ。明日からも忙しくなることが決定したからな」


 終はニヤァと嫌な笑みを浮かべた。こんな状況だっていうのに本当に楽しそうな人だ。


「・・・わかりましたよ」


 終の言いつけ通り、警察に事情を説明した後はアルゴにその場を任せ、僕と終は自分の部屋に戻って再び眠りについた。



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