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異世界探偵『上終終』の愚考録  作者: あまた せい
File 2「偽りの弾丸」

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File 2-4

「それでは、今宵の出会いに祝杯を」


 終のその臭いセリフからお酒の席は始まった。豪華な食事と高い酒を皆に振る舞う終。なんだか、違和感を感じる。僕に多額の借金をふっかけてきた終が、豪勢に食事を振る舞う?それも見ず知らずの人に?そんな疑問が解決する前に、僕は目の前の会話に集中することになった。


 終が最も興味のなさそうな世間話をし始めたのである。当然僕と終は昨日の今日の関係であり、そこまで終のことを知っているとは思わなかったが、それでも勝手に僕は終はそう言うものに興味のない人間だと思い込んでいた。いや、実際そうなのかもしれないが情報収集のためならなんでもできないといけないのかもしれない。


「それではセーヌさんは吟遊詩人として世界を渡り歩いているのですか?」


「いや、世界というほどではありませんが、いろいろな地を移動しながら演奏をしてはいますね」「ほほう。ぜひ演奏を聴いてみたいものです」


「いえいえ、そんな大層なものでは」


 和やかに終と他の人が会話をしているというのはなんだか不思議な感覚だった。セーヌは吟遊詩人というジョブ通り、不思議な格好をしていた。白いハットはまるで魔女のかぶる帽子のような形をしていて、服装もこの町で見るものとは随分と違っていた。ゆったりとしたシルエットの白い服はなんだか魔法使いのようでもあり、踊り子のようでもあった。終と似たような不思議な美しさを身にまとっていた。


「吟遊詩人、という職業は戦えるのですか?」


 僕はついセーヌに聞きたかったことを聞いてしまった。というのも、この世界にはジョブというシステムがあり、そのジョブに応じたスキルなどによって魔法が使えたりスキルが使えたりすると聞いたので、なら吟遊詩人は何ができるのかと思ったのだ。戦いに向いているジョブだとは思えない。


「え?ああ、そうですね・・・私は戦えません。しかし当然街から出ると魔物に襲われる可能性があるので旅の途中は困ります。だから私は旅の度にいろんな人とパーティを組んで街から街へと移動するのです。幸い支援にはもってこいなジョブなので」


「そうなんですか」


 旅の度にパーティが変わるというのも大変そうなものだが。第一毎回参加するパーティが見つかるというのもすごいな。やはりサポート系は人気なのだろうか。


「そうよ。だから珍しいジョブや魔法も見たことがありますよ」


「ほほう!例えばどんなですかな!?」


 終が興奮した様子で会話に割り込んできた。よっぽど興味が湧いたんだろう。


「そうですね。珍しくはないですが、最近ここらの町では認識阻害の魔法がかけられた武器が流通しているようです。ですよね?」


 セーヌはチンチラビの警官であるリスケとアルゴに尋ねた。二人は終に緊張しているのかほとんどしゃべっていなかった。もう一人、狩人のザシュルさんは緊張というよりかは何も聞かれないから何も答えないという無骨な感じだった。


「ええ。困ったものなのですが、認識阻害魔法をかけられた武器は多額で取引されています。そのせいで事件の解決が難航する事件もあるものですから困ったものです」


 リスケは頭をかきながらため息を吐いてそう言った。うさぎの耳がピョコピョコと動くのは可愛らしい。ヒトに近いからそう感じられるというのもあるかもしれないが。バニーガールが好きな人にとっては、この街の警官はどストライクなのではなかろうか。


「ですねぇ」


 アルゴもそれに同意する。


「それもこれもフレジャラビの奴らがちゃんと取り締まらないから・・・」


「先輩!ここではそれはやめときましょうよ」


 リスケが文句を垂らそうとしたところをアルゴがたしなめる。どうやら慣れた様子なのでいつもこうなのだろう。


「・・・そうだな。上終さんの前だったな」


 リスケとアルゴのその会話から東と西の軋轢が十分に想像できた。ラパンが警戒するわけだ。


「それでそれで?他の魔法は?」


 終は警官の話には興味がなかったのかセーヌさんに話の続きをさせようと躍起になった。


「は、はぁ。あ、そういえば、随分前の話になるのですが、相当高位の魔法使い系のジョブの方に転移魔法というものを見せてもらったことがありましてね」


「ほう?」


 終は片眉を上げてセーヌの話に聞き入った。


「前にいた人が突然後ろに現れたりするもんですから相当驚きましたよ。でも、近くの移動だけでもたくさんの魔力を消費するらしく、あまり実用はできないらしいです」


「うむ。ですが、近頃世間を賑わせている、魔法道具を用いれば可能なのではないですかな?」


「・・・その話もしましたが、何分魔法道具には箒という便利なものがありますからね。転移魔法を使うぐらいなら箒で飛ぶ方が早いらしいですよ。魔法効率的にもね」


「なるほど。なかなか難しいのですね」


 終はその話を聞くとため息をついた。何を期待していたのか知らないが、かなり残念そうだ。終が魔法にも興味があるとは、これまた新たな発見だった。


「ザシュルさんは狩人というジョブな訳ですが、何か特殊なスキルなどお持ちで?いや、言いたくなければいいのですがね?個人情報ですから」


 今度は終の興味はザシュルの方に向いたようだった。


「・・・いや。別に構わんが・・・」


 ザシュヌは狩人という職業に似合った雰囲気を持っている男だった。帽子も服も革製品が多く、全体的に茶色い印象だった。顔もいかつく、社交的とは思えない雰囲気を纏っている。終の提案を飲むとは予想できなかったが、話して見ると案外友好的なのかもしれない。


「ほほう。ではお聞かせ願えるかな?」


 終はお構いなしだった。ザシュルが友好的じゃなくとも情報は引き出しそうな女だからな。


「ああ。・・・オレが重宝しているのは、弓矢作成というスキルだ。狩りの際は飛び道具を使うからな。例えば弓矢なんぞだと弓矢自体にコストがかかってしまうからてこずってしまうと魔物を倒した時の利益が大幅に減ってしまうんだよ」


「なるほど。ならばその弓矢作成というスキルは名前通りのものなのですかな?」


「・・・ああ。武器にあった弾丸にあたるものを生成できる」


「それは重宝するでしょうなぁ。狩人というジョブにはもってこいのスキルですな」


「・・・ええ。だが、このスキルにも条件がある。無限に弾が作り出せるわけではない。一応俺の魔力を弾丸に変えているからな。あと、武器自体は生成できない。それに加えて使い慣れた武器でないとその弾丸を生成できないという制限がある」


「ほう、結構制限があるんですなぁ」


 終は少し驚いたリアクションで対応したが、本当に驚いているようには見えないのは気のせいだろうか。


「ああ。だがそれを補ってあまりある恩恵を受けさせてもらっているさ」


 ザシュルは杯に入った酒を飲み干すとそう終に返した。


「今はなんの武器を使っているので?」


「弓矢だ。やはり一番使い慣れているからな」


「弓矢・・・ですかな」


 終は眉を寄せて何かを考えるようにして言った。弓矢をバカにされたと思いムッとした様子のザシュルはややムキになって返した。


「弓矢作成のスキルは武器に精通していないとできないんだ。銃なんかだと内部構造を理解しないといけねぇからな。弓がちょうどいいんだよ」


「いや、失礼。別に弓が悪いと言いたかったわけではなかったのです。でも、近年は魔法銃なんていう便利なものも発明されたわけですから。そちらに移行しようとは思わなかったのです?見た所狩人を熟達していられるようですから、上級ジョブに転職し魔法銃なんかを使った方がいいのではないかと思ったわけですよ」


 その終の言葉でさらにザシュルはムカッと来たのが顔に出ていた。僕は慌てて喧嘩にならないように話題をそらそうと試みた。


「上級ジョブってなんですか?終さん」


「道連れは黙っていたまえよ。私は今ザシュヌさんと話しているのがわからんのかね?」


 そのザシュヌさんがやんごとないことになってるから話題をそらそうとしてるんだろうがと言いたいのをこらえて下手に出て場をなんとか整えようとする。


「いいじゃないですか。ザシュルさんに色々聴き倒すのも失礼ですよ」


「む・・・それもそうだ。では、上級ジョブというものについて説明してあげよう。とは言ってもそのシステムは極めて簡単なものだよ。ある下級ジョブを二つ、あるいは三つ熟達した状態で転職すると上級ジョブに転職できるのだ。上級ジョブでは使える魔法やスキルもレベルアップするから、皆上級ジョブを目指して切磋琢磨しているのさ」


「そうなんですね〜」


 終が得意げに解説してくれている間にザシュルの怒りもひとまず落ち着いたようだった。とりあえずはお酒を飲んで落ち着いているようだ。


「そうだよ。そして魔法銃というのは最近発達した武器で、上級職の」


「ちょちょちょ、わかりましたけど、その続きはまた今度でいいです!」


 せっかく落ち着いていたのに話を蒸し返さないでくれ。気になる話ではあるがザシュヌさんの前ではやめてほしかった。


「なんだね」と不満げな終をなんとかやり過ごし、また和やかに話は進んだ。


 しばらくして、話題はチンチラビとフレジャラビの仲の悪さの話になった。


「あいつらは図体のでかいだけの役立たずなんですよ。特にフーコ!あの女は胸がでかいだけのポンコツのくせにリーダー面して部下に命令してやがるのよ。あれに従う部下も部下ね」


「まぁまぁ。その通りですけどね。でもそう怒らずに。お酒が美味しく無くなりますよ」


「そうは言ってられるか!私ぁねぇ。私ぁねぇ!」


「まぁまぁ」


 アルゴはもはや慣れたように上司、リスケの怒りをいなしていた。しかし、終はそんな場の雰囲気など読みはしない。あるのは自分の好奇心、謎を解きたいという欲しかない。


「なんでそんなにフレジャラビを嫌悪しているのです?ラビという街を守る両翼として一緒に働く同じ民族でしょう?」


「あんな奴らと一緒にしてくれるな!同じ民族なんかじゃない!それにあいつら・・・でかいからってメスにはモテるんですよ。フーコはその・・・胸がでかいし、そのおかげでモテるみたいだけど・・・そのくせ!中身はポンコツときたもんだから。・・・とにかく一緒にされちゃ困るんですよ!」


 なんだか仲の悪い理由が見えてきた気がした。根本からこの二民族は性が合わないんだろう。というよりかは、あの二人が、か?アルゴの方はそんなに嫌っているようには見えない。むしろこのリスケの相手をする方が大変そうだ。


「でも、この間自慢してたじゃないですか。私の彼氏はフーコより私を選んだって言ってたじゃないですかぁ。ならそんなに目の敵にする必要なくないですか?」


「今となってはあいつが私の彼氏に手を出そうとしたこと自体が気にくわねぇってもんなのよ!・・・もう別れたから関係ないんだけど・・・うう」


 二人のこの会話には、終は「なるほど、どうでもいい!」と言った清々しい顔をしていた。いや、一応大事な情報のうちの一つなんじゃ?と思ったが、そもそもまだ事件は起こっていないのだから別に必要な情報ではないと思いとどまった。


 二人がしばらくそんな話を続けていると、さすがにもういいと思ったのか、終が話題を変えてきた。結局その日は遅くまで話が続いたが、フレジャラビ、もといフーコへの怒りを吐き出しながら飲み続けたリスケがベロベロに酔っ払ったところでその場はお開きになった。セーヌとザシュヌと別れ僕たちは各自自分の部屋に戻り休むことになった。


 終はそんなによっていない、というか全く酔っている様子は見せなかった。僕も当然お酒は飲んでいないので酔ってはいなかった。部屋に変えると一日中歩き回った疲れからか、すぐに眠りにつくことになった。



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