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異世界探偵『上終終』の愚考録  作者: 城宮 斜塔
File 2「偽りの弾丸」
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File 2-3

 その城は、東と西の境界に堂々と立っていて、東半分であるフレジャラビからも入れるようになっているようだった。ちょうどフレジャラビからみて中央に正門があったので、おそらく反対側のチンチラビにも同じ正門があるのかもしれない。そしてその門にも龍と騎士の模様が描かれていた。


「それじゃあ、入ろうか」


 終はそういうと門番に何やら話を通すと、いとも簡単に中に入れるように取り計らってくれた。そんな終に続いて僕も中に入った。扉の中も外から見たように豪華な作りになっていたが、それに見とれているうちに終はどんどんと奥へ進んで行く。僕は置いてけぼりになりそうになりながら終に必死に付いていった。


 終が向かったのは一番奥の厳重に騎士たちが守りを固めている部屋だった。騎士達は、皆西洋風の鎧を着ていたが、皆揃って獣人ではなく人だった。


「騎士が人しかいないのが気になるかい?」


 終は僕が騎士達を注視しているのを見て僕に小声でそう問いかけてきた。


「まぁ・・・。人しかいないのかとちょっと疑問に思っただけです」


「別に規律で獣人が入れないようになっているわけではないのだがね。伝統的に騎士団には人間種が多いんだ。というかほとんどが人間だね。そもそも王家が人間だから、それを守る役目の騎士たちも人間になるのは至極当然というわけさ」


「でも警察は獣人なんですね?」


「それはバランサーとしての役割さ。騎士に人間が集中していては獣人からの批判が集中するだろう?そこで街の治安を守る役割を獣人に与えたというわけさ」


「なるほど・・・この世界も難しい役割が多いんですね」


「まぁ今はそう構える必要もないさ。今日来たのは単に騎士団のメンツを思ってのことだからね。特に用事はないから挨拶したら帰るさ」


 そういうと終は門番に話を通し、そしてドアは開かれた。


 ドアの向こうは絢爛豪華な装飾が施されていて、正直少し悪趣味だと思った。高級そうな椅子に腰掛け、机の上の資料に目を通していたのはおそらくここで一番偉い人物だろう。その人物は僕たちが部屋に入ると顔を上げた。


 驚くことに、ここまで人しかいなかった空間の中心にいたのは、うさぎの獣人だった。


「やぁ。久しぶりだね。ラパン。うさぎの都市の王よ」


 終はその人物にそう話しかけた。


「これはこれは上終殿。こんな辺境の街へようこそいらっしゃった。それにしても王はやめてください。私はいわば、市長のようなものです。それに、私を守ってくださっているのは皆ヒトなのですから。うさぎの王とは言えますまい」


「いやいや。あなたは見事に街を治めていると聞いていますよ」


「・・・そんなことはありません。上手くいかないことばかりですよ。とりあえずここではなんですから、迎賓の間に。お茶を出させますから」


「それではお言葉に甘えて」


 それから僕たちは迎賓の間に案内され、ラパンの話を聞くことになった。終に促され、僕も椅子に座ってラパンの話を聞くことになった。


「あなたがこの街に来たということは・・・この街に危機が迫っているということですかな?」


「いやはや、直球ですな。でもそれに応えるとするならば、答えはわからないですね」


 終は珍しく弱気な返事をした。


「ほう。わからない、ですか。ならあなたほどの人がなぜこんな街に?」


「それを語るにはまず、ここにいるこの男の話をせねばなりますまい。付き合ってくださりますかな?」


「??ええ。時間のことならお気になさらず」


「では。語るといたしましょう。この不肖の助手と私との出会いの物語を・・・」


 それから終は僕がこの世界に来てから終に助けてもらうまでの話をかいつまんで話した。ラパンは絵本でも読み聞かせられているような子供のような目でその話を聞いていた。


「・・・というわけで私がこの男、道連れの濡れ衣の事件を解決したと・・・そういうわけで私はこの町に来たというわけです」


「なるほど。そんなことが。・・・ではすぐにここを発たれるのですか?」


「いえ。少しゆっくりしていこうかなと思います。恥ずかしながら、次の依頼も入っておりませんでしてね。それでまだ次の予定地を決めていないので、とりあえず次に行く場所を決めるか依頼が入るまでは滞在しようかと」


 終の話す内容は初耳だった。少しはここでゆっくりできるのか。そんな甘いことを考えもした。「そうですかそうですか。では、何か困ったことなどあればおっしゃってくださいね。上終さんには色々助けてもらいましたから」


 ラパンは頭を下げてそう言ったが、ラビの王様とも言える人がそうやすやすと頭を下げていいものなのかと疑問に思った。


「いやいや、あれぐらいは助けたうちに入りませんよ。ですが好意は素直に受け取っておきます・・・それでは早速ですが、一つ聞いてもよろしいですかな?」


「はい・・・何でしょう?」


「この町、いえ、この町に限ったことではありませんが、何か変わった出来事などはありませんでしたか?例えば何かの事件だとか」


「事件・・・ですか。そうですねぇ。ラビは治安がいいのでそう言った話はあんまり。ですが・・・」


「何か気がかりなことでも?」


「ええ。恥ずかしいことに、この双子町はラビの中心地でありながら、東側と西側で軋轢が生まれているのです」


「軋轢・・・ですか。それは種族間の?」


 終は何を見通しているのか、予想していたような口ぶりだった。僕はというと話には入れないので二人の話に黙って聞き入っていた。


「はい。騎士団とは別にこの町の治安を守る警察なんですが・・・」


「東と西で違う種族、それが仲が良くなくて衝突が起こる・・・と?」


「まだ大きな衝突はないのですが、火種がくすぶっている状態ですね。いやはやお恥ずかしい限り」


「いえいえ。それは大変でしょう。・・・私も様子を見ておきます。何かわかればお伝えします。それでは私たちはそろそろこれで」


 終はそういうと出て来たお茶をぐいっと飲み干すと踵を返し出口へと向かった。


「あ、し、失礼します!ちょっと待ってください終さん!!」


 僕も続いて部屋から出て言った。終はそのまま騎士団の城を出て、再び街に散策に出かけた。そして次の行き先は、東と西の町の境界らへんだった。


 らへんという曖昧な表現を用いたのは、その通り境界らへんをぶらぶらと歩き回っていたからである。そして日が沈みかけた頃のことだった。


 僕はすでに歩き疲れ、また言葉になれていないので街の人との会話に疲れてきていた。そんな時、たまたま東と西の境界付近の店で窃盗事件が起こったようだった。


「泥棒だーーーー!捕まえてくれぃーーー!!!」


 事件は西半分、チンチラビに属する店で起こった。しかし、犯人はネズミの獣人のようですばしっこく逃げていき、ついには東半分のフレジャラビへと逃げ込んでいった。たまたま近くにいたであろう西のチンチラビの警官数人がそれを追っていった。


 騒ぎを聞きつけ、駆けつけたのは東のフレジャラビの警官数人だった。その体はとても大きく、動きはチンチラビの警官に比べれば鈍重だった。


「おい!ここはチンチラビの管轄じゃないだろう!下がれ!」


「何をーーー!!??事件はチンチラビで起こったんだからチンチラビの管轄だろう!!」


「何だとぅ!?」


 一触即発という場面だが、当然そんな不毛な争いをしている間にネズミの獣人は逃げて行く。


「おやおや。逃げられてしまったようだぞ?」


 終は他人事のようにそう言った。いや、確かに他人事ではあるんだけど。


 しかし、チンチラビの警官はそんなにヤワではなかったようで。


 ネズミの獣人が逃げる方向にもう一匹どこからか回り込んで来て、逃げ道を防ぐ。手柄を取られまいとフレジャラビの警官達もそれを追うが、泥棒はすばしこくうまく捕まえられない。泥棒は路地裏に逃げ込んだが、それを読んでいたチンチラビの警官は回り込んでいて、とうとう泥棒はチンチラビの警官の手によって逮捕された。


「悪いが、この手柄はわがチンチラビ警察のものだ。うさぎのくせにウスノロさん」


「何だとぉ!?バカにしやがって!!このチビ女!!」


「あぁ?やんのかぁ?このおばけ胸!!」


 見事泥棒を捕まえたチンチラビの警官(リーダーと思われる)と、領土内で泥棒を取り逃がしたフレジャラビの警官(こちらもおそらく有力者)がバチバチと火花を散らしていた。両方ともヒトに近い獣人のようだが、それぞれがその種の特徴を体に持っていた。前者は体が小さく、胸も小さかった。後者はというと、他の獣に近い獣人ほどではないが身長は高く、そして胸にその種の”大きさ”という特徴を色濃く残していた。要するに超巨乳だった。


「これはおもしろ・・・もとい大変なことになったね。大事にならないといいんだが」


 そう言う終の目はキラキラし始めていた。いや、あんた事件起きて欲しいと思ってるだろ。こいつに人の心はあるのだろうかと不安になる。


「まぁまぁリスケさん。こちらが手柄を立てたんだから落ち着きましょう」


「まぁまぁフーコさん。ここの治安は守れたんだから落ち着きましょう」


 それぞれのリーダー格の隣にいたサブリーダーポジションの警官達が止めに入った。それぞれ獣、うさぎに近い男の獣人のようだ。


 そしてどうやらチンチラビ側のリーダーはリスケ、フレジャラビ側のリーダーはフーコというらしい。


「だがね、アルゴ。私はこいつが気にくわないの」


「でもね、リース。私はこいつが気にくわないの」


 仲良いじゃんという言葉を飲み込んだ僕は、それぞれのサブリーダーがアルゴとリースというらしいことを知った。


「やぁやぁ君たち。私は上終終。ある程度名の通った探偵と自負しているが知っているかね?」


 そんな争いごとの最中、終は突然会話に割って入って言った。急に声をかけられた警官達はぽかんとした顔をしていたが、チンチラビ側の一人が発した「上終ってあの有名な、異世界探偵の!?」という言葉を皮切りにざわざわとその場はちょっとした騒ぎになった。


「静粛に。静粛に」


 終がそれを鎮めると、チンチラビ側のリーダー、リスケは声をあげた。


「あの有名な上終探偵がこんなところで警備もつけずに何をなさっているのでありましょうか!?」


 リスケに負けじとフレジャラビ側のリーダー、フーコも声をあげた。


「そうです!そうだ!ぜひフレジャラビ警察に警備をさせていただきたい!」


「はぁ!?いえ!警備をつけるならぜひチンチラビ警察に!」


 またもや喧嘩が始まりそうになったところで、終が収集をつけるために言葉をかける。こういう場を納めることに関して、終は一流のスキルを持っているらしい。というか詐欺師じみた話のうまさを感じる時があるぐらいだし。


「ふむ。それもそうだ。この私の助手一人では警護は心もとないと思っていたところでね。どちらかに警護を頼みたいのだが・・・」


 そこまで言うと終は両者を測るように視線を動かした。それに反応して両方とも目がきらめく。ぜひうちにと声を出しているかのようだ。


「あいにく今日はチンチラビ側のホテルに泊まる予定でね。と言うわけで今日はチンチラビ側に警護をお願いしたいと思う」


 その言葉を聞いてリスケはガッツポーズをしてフーコに勝利の視線を送る。一方フーコは悔しそうにリスケの方をにらんだ。


「た、だ、し。それは今日の話だ。明日はフレジャラビ側に泊まろうと思っていたので、明日はフレジャラビ側が警護をするって言うのはどうだい?」


 終は人差し指を立ててフーコに向かってそう提案した。さっきと逆の構図で喜ぶ側と残念がる側が交代する。結局その場はそれで収まり、また終はラパンに電話一本で実際に警護してもらう許可を得てしまったのだから、それも驚くべき点であった。


 そして、そろそろ日も沈もうとしていたのもあり、そんな成り行きでリスケとアルゴの警護のもと、僕たちは呉服屋に頼んでいた服を取りに行ったのだった。また借金が増える・・・と言う悲しい気持ちで受け取りに行ったのだが、存外かっこいい服でまんざらでもない気持ちになった。これがクレジットカードを使い込んでしまう人の感覚なのか!?などとふざけた思考を凝らしたりもした。


 そしてその後は、チンチラビのホテルに警官とともに戻ってきた。


 終の計らいで警官達も同じホテルに泊まることになり、僕と終は自分の部屋に荷物を置いた後、ホテルのレストラン兼バーでリスケとアルゴ、そしてたまたまそのホテルに泊まっていた吟遊詩人のセーヌ、狩人のザシュルとともに食事をとり、お酒を飲むことになった。まぁ僕は未成年だから飲めないんだけど。


 そのすべては終のすべてをおもしろがる性格が災いしたと行っても良い。成り行きは簡単で、まずはリスケとアルゴを食事に誘った後、レストランに行くとカウンター席で座っていたセーヌとザシュルに声をかけたというわけだ。



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