聖女は清楚である、というのはただの偏見だ。
「なぁシキ。なんであいつのこと助けたんだよ。痛いの、嫌いなんだろ。」
どこで話したか、親友がどんな顔をしてたのかも思い出せない記憶。
「なんでって、仮にその場にいたのがお前だったとしても、いじめられてる奴いたら助けるだろ?」
「それはそうかもしれないけどさ、今はお前の話だ。」
確かにな。俺は真面目に答えることにした。
「自分が痛いのは嫌だけどさ、人が痛そうなのはもっと嫌なんだよ。」
俺の本音。
「俺を頼ってくれよ。俺が強いの知ってるだろ。」
確かこいつはなんかの武術で有名だったはず。
「お前は有名人だ。面倒ごとにわざわざ首を突っ込ませる真似しねえよ。」
両方黙る。
「まぁでもそうだな。少しは人に頼ることを覚えようかな。」
「少しか、お前らしいな。その優しさで自分のことを殺さないようにしてくれよ。」
もちろんだ、結局のところ自分の命が一番大事だ。
「もう夜遅いし帰るよ。」
「そうか。またな、シキ」
「あぁ、またな。」
それからというもの、俺がトラブルに巻き込まれたとき真っ先に助けてくれるようになった。何度も何度も俺なんかを助ける必要はないって言ったのにそれでも親友は助けに来た。そのせいで停学になったこともあった。
そこまでして俺を助ける理由を聞くと
「人が苦しんでるのを見るのは耐えられないだろ。」
といつも答える。
俺はいつしかその優しさに甘えてしまっていた。
◇
ベッドから起き上がる。俺に残された親友との僅かな記憶。やっぱり名前は思い出せない。
親友は優しい奴だ。たくさんの迷惑をかけてしまっていた。親友にも忠告されていたのに、恩を返す前に死んでこっちの世界に来てしまった。
俺が死んだあの時、親友が助けに来なくてよかったよ。最後まで迷惑をかけるわけにはいかないから。
もう一度だけ会いたい。だけどそれはもう叶うことのない願いだ。
......今日は仲間を探すんだったな。前向きに生きていこう。
◇
ギルドに着くと何やら騒々しい。どうしたんだ?
「あの勇者が例の悪魔を倒したらしいぞ!」
「やっぱり勇者の名は伊達じゃないな!」
「この調子で全部の悪魔をぶっ倒してくれ!」
俺は近くに座っている昨日のハゲたおっさんに話しかける。
「これはどういう騒ぎなんだ?」
おっさんは答えてくれた。
「なんでも勇者があのアシュメデウスを倒したらしい。」
「誰だ?そのアシュメデウスとかいう奴は。」
「お前知らないのか。」
そう言うとおっさんはいろいろ教えてくれた。
まず、この世界には悪魔と天使が存在すること。天使の方は祝福の話を聞いたときに会ってみたいとは思ったがマジで実在するんだな。
次に、悪魔を率いる四つの柱が存在し、それらはビレート、ベリヤアル、アシュメデウス、ガプという名前であること。その中でも特にビレートが魔王と呼ばれる存在らしい。
最後に、王がビレートに代替わりしてから人類に徐々に害をなすようになったこと。魔王がいい奴であるという望みが薄くなったな。討伐......できるかな。
あとこの国の名前がソロモンだということが分かった。今まで知らんかったのやばいな。
で、今回そのアシュメデウスとやらを倒したのは俺の知ってる勇者で合ってるかな。
「つまり悪魔の上位らへんの奴を倒したと。で、倒した勇者ってのは?」
「ヴァザリーだよ。これも知らないとか言うなよ。」
知らない奴だった。ヴァフィヤだったかな。あの勇者くんも強いのかな。というか何人いるんだ勇者。個人のことを指しているのかと思ってた。
というかそもそも勇者ってなんだ。
「ごめん、知らない。」
そう言うと教えてくれた。
「七人の勇者の中でもファンの中で順位があってな......非公式ってことだが、ヴァザリーは三位だったかな。勇者同士で戦ったとして、四位以下相手ならかなり差がつくくらいの強さだと考えられているらしい。勇者も全員Sランクってわけじゃないからしょうがないことだが。」
まじか。会いたくはないかもな。覇気だけで死んじゃいそう。
「俺の知ってる勇者はヴァフィヤだけなんだけど、彼は何位なのかな?」
「確か一位だ。次元が違う。」
マジか!?
そんな奴に職業あります~?とか聞いてたのかよ。めっちゃ申し訳ねぇな。覇気だけで死ななくてよかった。
「そういえば、勇者ってそもそもなんなの?」
「それも勝手にファンが言い出したことだから、はっきりとは定義されていない。実力のある人間のことを勇者と呼ぶ場合が多いな。今ではギルドが認知して肩書として使えるようになってる。」
肩書ってなんのことだろう。
「あぁ、肩書ってのは冒険者カードに登録される、まぁ職業みたいなもんだ。それによって優遇されることもあるらしい。いろいろな肩書があるが勇者が最上位であると考えてもらって構わない。」
ファンが決めたってことは、もしかしたら戦闘面では強くない勇者とかもいるのかな?
「あ、あともう一つ重要なことがあるんだが、管理者には気をつけろよ、と言ってもわかんないか?」
「すいません!教えてください!」
「管理者は何人いるのかすらわかっていないが、観測されているのは今のところ三人。これらは人類が勝てる相手じゃない。遭遇したらまず死ぬか、それと同程度の苦痛を味わうことになる。」
単位は人、なのか。人型ということだろうか。
そんなことはどうでもよくて。
「まず死ぬ......って回避できないのか?」
「回避する方法は一つ、悪寒がしたら逃げることだ。なんでも彼らが出現するときはどんな鈍い人間でもわかってしまうらしい。その瞬間、つまり出現する前に逃げれればもしかしたら見逃されるかもな。」
その情報を持ち帰ってくれた先駆者に感謝だな。悪寒がしたら逃げる。これは胸に刻んでおこう。
「それぞれの能力とか、詳しい出現条件とかは?」
「今のところは何も。研究段階だ。」
「なるほど、ありがとな。」
「ところで、今日は何しに来たんだ?」
そうだった、忘れるところだった。
「今日は仲間を探しに来たんだ。」
「ならあっちの掲示板にパーティ募集の張り紙でも出すといい。初心者を助けたいって奴はまあまあいるからな、すぐ見つかると思うぞ。」
「何から何までありがとう。さっそく張り紙を出してくるよ。」
「あぁ気をつけろよ。」
ということでこの世界についての理解が深まった。
とりあえずパーティのメンバーを募集しよう。
”パーティ募集!つい先日この国にやってきました!初心冒険者です!最終目標は魔王!”
その下に俺の基本性能とかを書いておいた。カスみたいな情報しか書いてないけどね。再生のことはそれに頼られて痛い思いをするのが嫌だから黙っておいたし。信頼できる仲間ができたら直接言おう。
あとで気づいたけど魔王とか書かないほうがよかったな。魔王にビビって人が来なかったらどうしよう。
しばらく待っていると一人の男がこちらに近づいてきた、と思ったら、まさかのヴァフィヤだった。
「え?ヴァフィヤ?こんなところで何してるんだ?」
「その驚いた顔が見たかったんだ、っていうのはおいといて俺は勇者ではあるけど冒険者でもあるからね。依頼を受けに来たんだ。」
ほお、勇者は特別な依頼ばかり受けるのかと思ってたけどそうでもないのか。
「えっとヴァフィヤのランクってなんなの?」
「一応Sだよ。まぁSランクの中では弱い方かな。」
そんなご謙遜を。勇者の中で一位なんでしょ?そりゃ強いでしょ。
「またまたぁ、御冗談を。」
「はは、そう言ってもらえるのはありがたいけどね。」
そう言って笑うヴァフィヤ。こいつイケメンだな。
「それで、どうしたの?なんかあった?」
「あの張り紙を見てね。」
と言いながら俺が掲示板に張ったものを指さす。
まさか。
「君とパーティを組もうかと思って。もちろん君のランクは上がりにくくはなるけど、ある程度君が強くなったら俺がパーティを......」
まじかよ!?勇者が俺とパーティを!?
「いや君と俺だと実力差がありすぎて足手まといになるし、受けられる依頼にも制限がかかるし......。」
ギルドの依頼難易度もS、A、B、C、D、で決まっていて確かパーティ内の平均ランクまでの依頼しか受けられなかったはず。つまり受けられる依頼難易度はBまで。これはヴァフィヤにとっては簡単すぎるだろう。それに勇者の時間を奪うことになる。
「それでも、君には光るものがある。俺が一緒に依頼を受けることで後進を育てることができるならそれに越したことはない。」
今日はヴァフィヤが白いマントのようなものを羽織っていることに気が付いた。これが出勤モード的な?
となるとここで喋っている時間のほうがもったいないか。それに彼の言う通り俺のことを鍛えてくれるなら俺的には利益しかない。
「わかった、じゃあ決まりだ。」
とSランクの勇者とパーティを組むことが決まったその時、もう一人誰かが俺に話しかけてきた。
「私もパーティに入れて。」
とても落ち着いた女の子の声。振り返るとそこには......
「ゴスロリ!?」
そうその女の子はゴスロリ服を着た銀髪の女の子。身長は俺と同じかちょっと下くらいだ。メイド服っぽい感じがするけど、にしてはスカートの端や袖などの一部が白なだけで、それ以外の部分は真っ黒だ。まさにゴスロリ。彼女の綺麗な銀髪が右耳のあたりに縦ロールにして一本でまとめてある。
この世界で縦ロールってできるんだ。
「まさかそこまで驚かれるとは思わなかった。これはただの民族衣装よ。ゴスロリ......ってのが何かは分からないけど。」
そして何より圧倒的美少女。
「いや失礼。あまり見たことがなくてな。」
「まぁ私たちの種族の一部の民族ぐらいでしか使われない衣装だしね。」
そう無表情で返す彼女。
「ええと、名前は?」
「私はイェフティヤ。エルフだよ。」
エルフなんていたのかよ!!もしやもっと別の種族もいるのか?
「えっと、俺はシキ。ちょっと待って。」
小声でヴァフィヤに聞く。
「エルフって具体的にはどんな種族なんだ?」
相手のことを知らなさ過ぎたら失礼だろう。これ以上失礼を重ねるつもりはない。
「長寿で人と話すのをあまり好まない性格が多い種族らしい。数千年生きているエルフもいるだとか。」
数千年。俺らの世界だと日本が建国した時から現代までずっと生きてるようなもんか。想像もつかないな。
続けて聞く。
「強かったりするのか?」
「基本人間よりは強いよ。でも戦いを好まない者もいるから一概には言えないね。」
そこでこそこそ話はやめて彼女に話しかける。
「俺は魔王を本気で倒そうと思っている。それについてこられるか?」
まだ魔王討伐は確定してるわけじゃないけど、それでももしかしたら戦うかもしれないのだ。覚悟はしててほしい。
「えぇもちろん。私の目標も魔王だし。だからあなたに声をかけたの。」
それでなんで俺をパーティメンバーに選ぶんだろう。
「魔王討伐ならもっと強い人と組むべきでは?」
「?あなた以外に魔王を目標にしてパーティを組もうとしてる人はいなかったけど。」
まじかこの子。あの一文で決めたっていうのか。そりゃあ普通にパーティを組みたい奴は魔王なんてもん目標にしねぇだろ。
「はは、あのたった一文で......。」
ヴァフィヤも俺と同じような反応だ。
魔王を目標にしたエルフ。心強い。
「よしわかった。じゃあこれから俺たちは仲間だ。えぇと、イェフティヤさん?」
「イェフティヤでいいよ。そんなの気にしてたら情報伝達が遅れるでしょ。」
合理的なエルフだ。
「わかったイェフティヤ。ところでイェフティヤのランクは?」
「A。」
いや強いって。俺Dだよ。なんでパーティ編成がS、A、ときてDなんだよ。軽く事故だろ。
ヴァフィヤも何か言いたげだ。
「俺Dだけど、本当にいいのか?」
「くどいよ。魔王を目標にしてるんだから、その点では一緒でしょ?これからシキに強くなってもらえばいいし。」
三人目が確定した。聞いてみるとヴァフィヤもイェフティヤも近接戦闘が得意らしい。
よくよく考えたらバランスが悪いな。中距離専門ということで魔法使いがほしい。
しばらく待っているともう一人女の子がやってきた。
修道服を豪華にしたような感じだ。ウィンプルっていうんだっけ?を頭にしっかりかぶっている。全体的に白っぽくてところどころに金色が混じっている。装飾品は黒が多いな。あと髪も黒でめちゃくちゃ長い。
さっきイェフティヤと話したばかりだからだいぶ幼く見えるな。
「私はハーリアです!魔王ぶっ〇したいのでパーティに入れてください!」
こいつまじか。その見た目でまじか。どこかおかしいぞこいつは。
こいつをパーティに入れると何かまずいことが起きる気がする。悪寒。こいつがまさか管理者?
そんな冗談はさておき丁重にお断りしよう。
「えぇと、もう実はパーティ決まっててさ、これ以上増やすつもりは......。」
「嘘ですね!本当にパーティが決まってるならさっさとあの張り紙を剥がすでしょう?」
「いやちょうど剥がしに行こうと思ってだな。」
「パーティに入れてくれないって言うなら......。」
なんだ。何をする気だ。ハーリアが手をこっちに向ける。
「デストロイ!!」
修道服着てる奴が言っていい言葉じゃねぇだろ!
なんだ、何が起きた。
「「きゃーーー!!!」」
周りの人が俺を見て悲鳴を上げている。特に女の子が。
なんだよ、俺が何か変なのか?
と思って自分の体を見てみると
「ズボンがねぇ!!」
「ふふん、次は上いっちゃいますか!!」
「わかった!パーティに入れるから!やめてぇ!!」
こうして俺のパーティは決まった。ちなみにズボンはヴァフィヤが新品を持ってきてくれた。
一人目ヴァフィヤ。Sランクの冒険者で肩書は勇者。勇者で一位ってことはこれより強い人間はいないのかもしれない。
二人目イェフティヤ。Aランクの冒険者でエルフ。実力は全くわからないけどAランクまでいってるってことは相当強いのだろう。
三人目ハーリア。Bランクでまさかの聖女らしい。聖女も勇者みたいな肩書なのかな?なおさらデストロイとか言うんじゃねぇよ。魔法が得意ってことだから、パーティバランスはよくなったな。
四人目俺。Dランクのカス。再生するくらいしか能力がない。戦闘経験も能力も皆無だ。
ここでヴァフィヤがパーティ申請しないと、と言った。
へぇシステムがしっかりしてるな。
受付でパーティ申請を済ませた。
申請のとき受付のお姉さんに気になることを言われた。
「パーティを組むのには単純に死ににくくなるなどのメリットがありますが、同時にデメリットも存在します。まず個人のランクが上がりにくくなること。特にランクの低い人が高い人とパーティを組むと、依頼を達成したとき、ランクの高い人の力が大きいとギルドは推測します。そうするとランクの低い人の実力が上がったとは判断できず、ギルドはランクを上げにくいということです。」
俺はそんなの大したデメリットじゃないっしょ!と軽い気持ちでそのまま申請を通した。
ここから俺の冒険者ライフが始まる!!!
そう、始まるんだけど、結局俺はなぜ冒険者に魅了されるのか?痛いのが嫌いなら冒険者にならなくてもヴァフィヤが言ってたように料理店でアルバイトでもすればいいんだ。
確かに魔物に襲われる人々を助けたいという気持ちもあるが、それとは違う何かが俺の中にあるような気がする。
この謎の正体も今後探っていきたいが、このことについては何か新しい情報が出るまで考えないようにしよう。
今日のところはとりあえずパーティで依頼を受けてみよう。Bランクの依頼は何があるんだろうなー。




