忘れたいことは忘れられないのに、忘れたくないことは忘れる。
友達を作る!!
意気込んだはいいが表面だけのあさはかな関係では人脈があるとは言えないだろう。元の世界の親友と同じようなレベルで誰かと親密になりたい。
となるとこの世界にあるのかは知らないが学校や職場などの必ず誰かと定期的に会うような場所に行くのが正解だ。
まぁ職を見つけるのがお金も手に入って一石二鳥かな。どんな職業があるのかおじさんに聞いておけばよかったな。暇そうな奴に話しかけよう。
「すみません。この街で今すぐ就ける職業はありますか?」
そこらへんにいた優しそうな好青年に話しかけた。俺と同い年か年上って感じだ。
金髪に青い瞳。白を基調としたかっこいい服を着ている。
「えっと、君は誰かな?」
戸惑ってる感じがする。そりゃ急に話しかけられたかと思えばすぐ就ける職業とか聞いてるし当たり前か。
「俺は不田糸生といいます。この街に来るまでに盗賊にすべて取られてしまったので今すぐ職を見つけないと命が危ないんです。」
ざっくりと説明。
「そっかー。それは大変だったね。うーん、今すぐ就ける職業ってなると料理店のアルバイトとか、土木作業とか、あとこれはあんまりおすすめしないけど......冒険者ぐらいかな。君が成人してるなら大人の女性向けのお店で働くこともできるよ。それ以外の職業だと今すぐは厳しいね。」
めちゃくちゃ丁寧に答えてくれた。この中なら冒険者一択だろ!ロマン!
ん?何か違和感があるな。何の違和感だろう。
いやいや、考えるのは後にしてちゃんとお礼を言おう。
「あり...」
と言いかけたとき
「お金も持ってないんだっけ?持ち合わせが少なくて申し訳ないけど、これあげるよ。どうしても困ったらまた俺を訪ねてね。」
神か?資金の入った袋を貰った。
「何から何までありがとうございます!お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「俺の名前はヴァフィヤ。勇者やってるんだ。あと敬語は使わないほうがいいかもね、俺に限らず、この国の人が仕事以外で敬語を使う相手は国王だけだからね。」
ほう、国王がいるのか。
「国王以外に敬語を使うのは不敬だって怒る人もいるし...。まぁその国王はもう引退してて、だから今は国民がそれぞれ意見を持ち寄って決める制度に変わってるんだけど。」
この人、本当に優しいな。急に話しかけてきた俺にこの神対応。
国王がいたのに民主主義に変わってるのか。革命が起きたか、国王の英断か。
「無知ですみま...ごめん!勇者だったなんて。」
「いいよ、気にしないで。料理店で働くならあっちの方にあるソロモンっていう店がおすすめ。土木作業か冒険者に興味があるならギルドに行った方がいいね。ギルドっていうのは、んー、簡単に言うと冒険者をまとめる機関のことだね。すぐそこにある大きい建物だよ。気を付けてね、シキくん。」
そう言って勇者は歩いて行った。勇者の仕事は今日は休暇だったのかな?だったら邪魔して悪いことをしたな。
それはともかく。
ギルドとやらに行って冒険者になるぞー!!
◇
ギルドに入ると広めのロビーがあり、正面に受付らしき場所が見えた。ロビー部分にはたくさんの椅子と机が置いてありお酒のようなものを飲んでいるものもいた。居酒屋のような機能もあるのだろうか。
あそこに見えるのは......時計だ!十二時まであるのかな?まぁこの世界の一日が二十四時間かもわからないわけだが。
受付に向かおうとしたら椅子に座っている騎士っぽいハゲのおっさんに話しかけられた。
「見ねぇ顔だな。どこから来た?」
デケぇなこの人。俺も体が小さいわけじゃないと思うんだけど。それに伴ってか鎧もデカい。ちょっと怖い。
普通に答えておこう。
「辺境の村から来ま......来た。」
「へぇ。ここには何をしに来たんだ?」
「冒険者になろうかと思って。」
「悪いことは言わねぇ、やめておけ。」
こちらを睨みながらおっさんはそう言った。危険を知らせてくれているのか?ありがたいがどうせ土木作業ができる体力があるんなら冒険者のほうがロマンがある。それに、魔王と会うためにも冒険者という肩書は必須だろう。
おっさんは続けて言う。
「俺は村から成り上がろうと冒険者になりにここまで来た奴を何人も知ってる。そしてそいつらの末路もな。村の中で持て囃されようが、結局は世界を知らない田舎者だ。たとえ祝福があったとしてもだ。」
わざと厳しい言い方をするのは死んでほしくないという気持ちからだろう。
「それでも、俺は冒険者になりたい。」
「...そうか。無茶するなよ。」
そう言い終えたおっさんのところに小さい女の子がやってきた。
「パパ!」
娘がいるのか。別に意外ではないけど。
「お~♡どうちたの♡なんかあったのかな♡」
!!!????
急にしゃべり方が変わった!?表情もさっきのおっさんとは同一人物とは思えないほど穏やかだ。すべての語尾にハートがついてそう。
...本当にただただいい人なんだろうな。この人とは良好な関係を築きたい。
受付に話しかける。
「冒険者になりたいんですが。」
敬語が抜けない。しょうがない。相手はとんでもない美人のお姉さんだ。この人白髪だけど髪の色は多様なのかな?胸デカッ。元居た世界で着るようなスーツを着ているからか強調されている。
「えぇと、では身分証明書をお借りしてもよろしいでしょうか。」
あっ受付の人は敬語なんだ。そういえばさっき勇者くんが仕事でなら敬語を使う場合もあるって言ってくれてたな。
そう思いながら身分証明書を渡す。
「フダ・シキさんで間違いないですか?」
「はい。」
「代金が二千円ほどかかりますが問題ないでしょうか?」
え?円?まぁたった二文字だし元の世界の単位と一致してもありえなくはないかぁ。勇者くんから貰った袋の中を確認すると全部硬貨だったが表面にそれぞれ金額が書いてある。大体三万円くらいかな。
「はい。問題ないです。」
「では冒険者カードを作成してきますので少々お待ちください。座っていただいて構いません。作成が完了したら名前でお呼びします。」
近くにあった椅子に座る。
そういえば俺の名前ってこの世界で珍しくはないのかな?後で聞いてみよう。
待つこと数十分。名前を呼ばれた。
待ってる間この世界の時計と自分の感覚のズレを確認してみたところ大きな差はなさそうだった。太陽の位置も考慮して考えると恐らくこの世界も一日は約二十四時間だろう。これも聞いてみるか。
「では代金として二千円をお支払いいただきます。冒険者カード、またこのギルドについての詳しい説明は必要でしょうか。必要なければ重要な点だけお伝えしますが。」
お金も払ってるしせっかくなので詳しい説明を聞いた。
要約すると、ギルドというのは冒険者を統率するために作られた国営機関。実際には冒険者以外の一部の職業もギルドで管理しているとのこと。土木作業もギルドに行けと言われたのはそういうことか。
冒険者についてのことだけをまとめよう。
ギルドに依頼された任務、魔物討伐がメインらしい、を冒険者カードを持つ冒険者が引き受け、成功すれば報酬が得られるというシステムだ。
しかし、どんな依頼でも引き受けられるわけではない。実績や実力はギルドに情報が保管されてギルド内部で冒険者それぞれにランクが割り当てられる。このランクが依頼の難易度に達していないとその依頼を受けることはできない。また、少なくとも一か月は最低ランクの依頼しか受けられない。
ランクは高い順にS、A、B、C、Dだ。Sランクの冒険者は現在九人しかいないらしい。
という説明を聞いた俺は勇者くんのランクがとても気になった。Sの可能性もあるのかな。
「ありがとうございます。あ、最後に聞いておきたいんですけど、俺の名前ってこの辺では浮いてたりしないですか。」
先ほど考えておいた質問をする。
「いえ、そこまで違和感のある名前だとは思いません。かの英雄と同じ名前ですし。完全に同じ名前というのは、あなたの他に見たことはないですが。」
そこまで気にされなくてもいいですよ、と付け加えるお姉さん。
完全に同じ名前?変だな。とんでもない偶然っていうのもそうだが英雄と呼ばれるような名前と同じなら取り調べしてくれたおじさんや勇者くんに何か言われてもおかしくはないと思うんだけど。そう悩んでいたら受付のお姉さんが教えてくれた。
「シキは名前によく使われていますよ。ですがフダが使われているのは見たことありません。フダはシキに比べてそこまで有名じゃないのが関係していそうですね。」
なるほどな。この受付のお姉さんがたまたま英雄のフルネームを知っていただけか。
「ありがとうございます。あ、あともう一つ聞きたいんですが、ここの時間の単位は何ですか?」
我ながらバカみたいな質問だ。
「?えぇと?今は十六時ですが。求めていた答えとは違いますか?では六十秒が一分、六十分が一時間、二十四時間で一日、三百六十五日で一年、です。期待されていた答えを返せたでしょうか。」
これまで元の世界と一緒だと?お金の単位といい俺の名前といい偶然が重なりすぎている。
あとどうでもいいけど困ってる美人を見るのは背徳感というかなんというか。
「ええ、大丈夫です。ありがとうございます。」
さっそく依頼を受けようかとも思ったがやめておこう。疲れた。勇者くんからもらった資金でどこか宿に泊まることにしよう。少し歩こう。
というかまだ頼れる友達は見つかっていないな。ギルドの依頼には人数指定もあるらしいから今後依頼を受けていくうえでも避けては通れないな。魔王に会うのにも一人は心細すぎるし。
仲間づくり。
俺は元の世界での親友のことを思い出した......。
思い出せない。
どういうことだ?さっきから名前や顔を思い出そうと思っても出てくるのは断片的な情報だけ。よく考えれば、この世界に来てからはっきりと親友のことを思い出したことはない。思い出せたのは最後の会話くらいか。
この違和感はなぜか自分が死んだことを確信していたり、なぜか魔王のことをしっていたりしたのと同じことが原因で起こっている違和感な気がする。
俺の違和感は、まるでこの世界のことを誰かに教えてもらったかのような違和感だと思っていたが、実際には違うらしい。逆に元の世界の記憶が一部消えている。いや、消えつつあるのか。だんだんと曖昧になってきている。もっと言えば痛みが大嫌いな俺が冒険者にロマンを見出しているのも変だ。これも普段の俺なら考えられないような違和感ではある。
うーん、なぜだ?
仮に俺が感じたように誰かにこの世界のことを教えてもらって、元の世界のことを忘れさせられたとして、目的が全くわからない。
忘れていくんだとしたら元の世界のことをどこかにメモしておいた方がいいかもしれないな。
それにさっきから続いている奇妙な偶然の一致。これは違和感ではなくただただ気持ち悪いだけだが何か重要なことのような気がする。
今のところは考えたってどうしようもないか。なんとかなるさと前を向いて生きていこう。
おっ、ちょうどいいところに宿が。今日はここに泊まるとしよう。
六千円ほどお金を払って案内された部屋に向かう。紙幣じゃないのキモイな。残りのお金は約二万円といったところか。
部屋に入った途端肩の力が抜けた。
そりゃそうだよな。急に自分の知らない世界に来て全く知らない事ばかりだったからな。
殺されかけたし、いろいろ考えすぎたし。
ベッドに飛び込んだ俺はすぐに深い眠りについた。




