再生するにしても痛覚なくすくらいのボーナスくれてもいいのに。
いっっってぇえええええ!!やばい!!死ぬ!!!!!!
二度目の死がこんなに早いなんて!!
自分の両足が飛んでいって木にひっかかるのが見える。
目の前には自分の三倍以上も大きい魔物。
周りには人間はもちろん民家すら見えない。
確実に死んだ。
せっかくもう一回チャンスを貰えたというのに。
◇
今は二〇二六年。ここ日本では自分からスポーツでもやらない限り痛みなんてものとは無縁の生活を送ることができる。都会のビルに囲まれながら歩道の端っこを歩く。
俺は普通の男子高校生、不田糸生。痛いのが本っっっっ当に大嫌いなだけの普通の人間だ。
なんかそういう小説ありそうだな...と考えながら歩いていると目の前から来たデカめの男に肩をぶつけられる。
「どこ見て歩いとんじゃボケ!」
テンプレすぎるだろ。こんなん漫画とかで出てきたら作者の操り人形としてセリフを言わされてるようにしか見えない。そこで俺はもちろん...
「すみませんでした!!!」
いままでも、そしてこれからも俺以外にできるやつは存在しないであろう美しい土下座を公衆の面前で披露する。え?恥ずかしくないのかって?大丈夫。今後、俺の人生に俺の土下座を見ている奴らは登場しないからね。友達でもいたら恥ずかしいかもしれないがそれはさっき確認しておいた。
相手の男は俺の美しい土下座を見てビビったらしい。
「ちっ、次から気をつけろよ。」
そう言ってこの場から離れていった。また完勝してしまった。
「おい、なにしてんだ。糸生」
おいおい、まさかこんなところに友達がいるなんて。
「お前がいないのは確認したはずなんだけどな。」
と俺はそいつに話しかける。思った通りそこには俺の親友がいた。ちっ、おしゃれなんかしやがって。彼女とのデートとの帰りか?
「さっさと帰ろうぜ。」
「俺の土下座にもう言及しないつもりか?」
「いつものことだろう。」
その通り。俺はなにかあればとりあえず土下座しながら謝る。それが一番事態を悪化させずトラブルを穏便に終わらせる方法だからだ。
歩きながらさっきあったことを話した。お前らしいなと笑われた。
そうして歩いているうちに俺はビルとビルの隙間に何人かいることを発見した。いじめかカツアゲか...まあそんなところだろう。俺の親友は気づかなかったみたいだ。
うーん、嫌なもの見たな。無視はできないか。
「なぁ。俺用事あるから戻るわ。」
そう親友に伝えて俺は踵を返した。
親友は不安そうな顔で言う。
「俺もついていこうか?」
そう言ってくれた親友をまきこむのが少し申し訳ない。
「いや。いいよ。帰っといて」
「そうか。またな。」
いつも通りの挨拶。俺も振り返っていつも通り返す。
「またな。」
俺は早歩きでそこに向かう。やはりカツアゲだったか。しかも三対一。俺はその間に入る。
「すみません!!許してください!!こいつ俺の友達なんです!!!」
ぼこぼこに殴られ始めた。まじか、ここ日本だぞ。警察を呼んでおくべきだったな。
いってぇ。まじでいてぇ。痛みへの耐性がないせいでちょっと死にそう。
終わらない。ちょっとどころかマジで死にそう。痛い痛い痛い。
死ぬ。
死.........。
◇
こうして俺はあっさり死んだ。
死なねぇ程度に痛めつけろってリーダーっぽいやつが言ってただろうが!
ふざけやがって。
ん?目が開く?というか何で思考できてる?
目を開くと綺麗な青空と葉っぱ。ここは森か。
.........森!?日本じゃなかったのか!?いや日本にも森はあるけども。
俺は今、全裸で仰向けで大の字になっているらしい。
なるほど。死んだのは俺の勘違いで、ボコボコに殴られた後チンピラに服を剥がれた後に森の中に放置された...ってところか?いや違うな。確実に死んだと思う。なんで確信できるのかはわからない。
とりあえず立ち上がってみた。
その瞬間、俺は空中に吹っ飛ぶ。
......え?なぜ俺は今空中にいるんだ?生き返った特典として空を飛べる能力が手に入ったとかかな?
んなわけねぇだろ!!ちゃんと考えろ!!!
冷静に!
ふぅ、遠くに俺の両足が見える。つまり今俺は何者かに下半身を吹っ飛ばされたことになる。その衝撃で上半身も飛んだと。
冷静に考えても死ぬだろ。取り乱すか。
「いっっってぇえええええ!!」
やばい!!死ぬ!!!!!!
二度目の死がこんなに早いなんて!!
死ぬ前に敵の顔くらい見てやる!!!一生恨んでやるからな!!!!
俺の三倍以上は背丈のある魔物?のようなものがそこにたたずんでいる。あのでっけぇ手でぶん殴られりゃ下半身くらい吹っ飛ぶか。
残った俺、つまり俺の上半身が地面に落下するがそのころにはもう感覚が麻痺しててなんの痛みも感じない。
周りには人間も家もない。確実に死んだな、これは。
魔物みてぇなやつがいる世界観なら誰かに助けてもらえたかもしれないのに。
せっかくもう一度だけチャンスを貰えたのに。
うわぁ魔物っぽい何か、もう魔物でいいや、が俺の下半身食ってるよ。いたそー。
魔物は食べ終わった後満足してどっかに行った。というか何で俺はまだ生きてるんだ?さっさと死んでくれないとアドレナリンが切れて激痛が襲ってくるんだが。
ほらいったそばから痛みが。というかなんかちょっと俺の体伸びてる?
いや痛いな。痛い...痛い...............痛い!上半身も食ってくれたら楽に死ねたはずなのに!!
「いってぇ!まじでいってぇ!!!早く死んでくれよ!!!なんでまだ生きてるんだよ!!!!」
いっっっっっってぇええええええええええええええ!!
◇
激痛に耐え数時間。
なぜか下半身が元通りになった。どういうことだ?思いっきり俺の知ってる物理法則を無視してるし。死の間際で覚醒しちゃったとかか?うーん、否定はできない。魔物がいるような世界観だし。
......いや仮にそうだとしても痛みなくせよ!中途半端な能力なんて嬉しくねぇよ!
情報を整理したい気持ちもあるが、とりあえず動こう。人間を見つけたい。言葉が通じるかどうか不安だが。全裸をどうにかしたいのでそこらへんに生えているツタと葉っぱで簡易的に大事な部分を隠す。
ただ適当に森を歩いていては人間など見つからないだろう。魔物とは逆の方向に進むとするか。いくら再生能力があるとはいえ、あれは二度と体験したくない激痛だった。というかなんで普通にショック死しなかったんだろう......。
歩きながら考える。というか何か考えておきたい気分だ。
確実に死んだ。それだけはわかる。それと、少なくともここは俺が生きていた日本ではない事も確かだ。地球にいるのかすらわからないな。今は何時だ?太陽といえるものがあるのかもわからないが、光は降り注いでいる。影の長さ的には正午っぽい。
そんなことは今考えたところで何の意味もない。焦りすぎてるな、俺。もっと重要なことがある。
俺は死なない。
いや、完全な不死身かまでは断定できないが、体の半分までは失っても激痛とともに再生するらしい。これはもうそういうものだと割り切ることにしよう。
把握しておきたいのは、再生にかかる時間と再生するときの"核"。
時間についてはもっとケガしないとわからないな。すべてのケガの再生に数時間かかるのかもしれないし質量に関係しているかもしれない。体積かもしれない。これらも全く関係なく部位の複雑さによるのかもしれないし、なんなら精神論かもしれない。これは今後ケガしたときに考えよう。
次に再生の核について。
さっき再生するとき俺は上半身から再生した。どこを中心として再生するのか?あらゆる可能性を考えようとしたが......やめておこう。こちらも再生にかかる時間と同じで考え出したらキリがない。
この再生で一番大事なのは脳が優先されるのかどうかだ。それがわからない以上、首チョンパされたときが怖いな。
魂云々を無視して考えると、人間は脳で思考している。もし再生の核が脳からずれていて、首チョンパされて体の方から再生したら?そいつは今の俺と同一人物とは言えなさそうだ。
脳に再生の核がある場合は、単純に頭さえ守って激痛に耐えれば俺を保ったまま再生できそうだ。いや痛みとか絶対いやだけど。
ここまで頑張って考えてきたけど、どんなに考えても理論や法則がないかもしれないんだよな。でも回転効率の悪い頭をぶん回したおかげで少し落ち着いてきた。
当分の俺の中での優先順位一位は魔物に見つからないことだな。今の俺にはどうやっても勝てん。
もし魔物に遭遇して体が千切れることがあっても、頭のある側が大きい部位になるように気をつけよう。言うは易し、だが。
魔物におびえながら何十分か歩くとお城のような都市が見えてきた。超ラッキーだ。魔物からの攻撃でも防いでいるのだろうか、高い壁がそびえたっている。
人も門みたいなところにいっぱいいる!頼れる奴がいたらいいな。
今更だがこんなまんま不審者の恰好でこんな警備強そうな都市に入れるのだろうか。
門の前に警備の人がいるな。しっかりした鎧を装備していて強そうだ。とりあえず話しかけてみるか。もしかしたらそういうファッションとして認められるかも。
「あのー、ここに入りたいんですけどー。」
「あぁ、身分証明書、もしくは身分証明書を発行す.....」
と言いながらこっちを見た警備二人。さっきまでやる気なさそうにしていたのに剣をこちらに向け最大限の警戒をする。
「何者だ!!!!」
こうなったら仕方ない。俺の必殺技を見せてやるとしよう。
「すみません!!助けてください!!!!」
そう、土下座だ。
「????」
相手は困惑する。警戒が少し緩んだ気がする。ここで道中考えておいた嘘をつこう。
「ここに来るまでに盗賊に持ち物も衣服も、もちろん身分を証明するものも全部盗られました!!助けてください!!!!」
この世のすべては土下座で解決するのだ。解決しなかったからこの場にいるのだが。
「わかったから立て!こんなところで何してるんだ!」
別のところから警備の人が何人か集まってきたのを確認し涙を流す。
「お願いしますぅぅぅ。助けてくださぁいぃぃ。」
警備の人にこの門の中に連れて行ってもらうことに成功した。
◇
「もう何も持ってないのは分かったから。名前は?」
「不田糸生です......。」
「フダ・シキ...と。次、年齢は?。」
「十六歳です......。」
取調室のような場所に連れてこられた。シンプルな服を着させてもらった後、こんな調子で真面目そうなおじさんが俺に質問してきている。次は何を聞かれるんだろうと思っていたらおじさんは何やら別の人と話しているようだ。
話し終わった後また俺に対しての質問を再開した。
「どこから来たの?」
「名もないような小さな村です。魔王を倒すためにここに来ました。」
なんで俺は今魔王なんて口走ったんだ?魔王がいるかどうかなんて俺は知らないぞ?
「盗賊に負けるような実力で魔王ねぇ。」
よかった。いた。...いや俺は魔王がいることを確信してた気がする。どっちだよ。
「というかそんな小さな村に住んでて身分を証明するものってあったの?」
いやよく考えたらそうじゃん。身分証明書を発行する...みたいなこと門にいた警備の人が言ってたわ。ここは誤魔化すか。
「えーっと......とりあえず釈放してほしいんですけど。」
「いや別に逮捕してるわけじゃないんだけど。普通に不審者だから話聞いてるだけね。」
「ありがとうございます。服もいただいてしまって。では失礼します。」
「まだ駄目だよ。」
無理か。よく考えなくてもこっちには身分証明書がないからなぁ。今出てもしょうがないんだよなぁ。
またおじさんが誰かと話している。
「身分証明書の発行ってできますか?」
「発行ねぇ。調べてもらったけどこっちにはフダ・シキなんていう人間の情報は一切ないよ。発行自体はできるけど新しく作り直すことになるよ。」
「お願いします。」
「はいはい。じゃあちょっと待っててね。あ、最後に一応聞いときたいんだけど。」
と部屋から出ようとしたおじさんが振り返って言う。なんだ?何かミスがあったのか?
「君、祝福は持ってる?」
「祝福?」
「知らないのか?天使から授かる特殊能力のことだよ。」
天使なんているのか?ぜひ会ってみたいな。てかこういう特殊能力って神からもらえるものじゃないんだ......と考えつつも俺は再生のことを思い出していた。正直に言ってもいいものだろうか。再生みたいな能力がありふれているのなら言っても問題ないだろうが、わざわざ特殊能力と言ったんだ。一部の人間にしか使えないのかもしれない。
「ないなら魔王討伐は厳しいんじゃないかな。」
おじさんが続けて言う。うーん、この世界のことをまだ知らないからなぁ。ないと言っておくのが無難か。
「ないですね。」
「じゃあ魔法はどれくらい使えるの?」
魔法なんてあるのかよ。使ってみたい。
「それは今後に期待です。」
「魔王のことなめてるの?」
「違います。剣術を磨いている途中です。」
「まあ年齢的にもそういう時期なのかもしれないけどさ。死なない程度に頑張ってね。じゃ身分証明書ができるまで待ってて。」
このおじさんはいい人だ。見ず知らずのほぼ全裸だった男の今後を心配してくれるなんて。
とりあえず考えよう。新しい情報がいっぱい出てきたしな。
今更だが言葉が通じてよかった!!
あとたぶん本当にこの世界は俺の知る世界ではないのだろう。祝福とかでてきたし。
それともう一つ気になるのが、俺の再生する能力は祝福と魔法のどちらに含まれるのか?
おじさんは祝福については"持ってるか?"と聞いてきたが、魔法については"使えるか?"と聞いてきた。このことから多分再生の能力は祝福に含まれるものだと思う。魔法に自動で発動するものがあれば別だが。
というか魔法って何!?あんな激痛がついてまわるような再生能力じゃなくて回復魔法とか使えたらよくね!?炎とか水とか出せるんかな。誰かに教えてもらいたいなぁ。
とかなんとか見たこともない魔法に思いをはせているうちにおじさんが戻ってきた。
「はい、身分証明書ね。今度はなくさないでよ。それと、その服もあげるから。」
「ありがとうございます!」
とうとう釈放されたので外に出ることにした。おじさんには感謝しかないな。今度会ったら何か奢りたい。
外の世界を見た俺は驚愕。
「綺麗だな......。」
思わず口に出していた。綺麗に区画整理され石畳の大通りに面してずらっと並ぶ建造物、綺麗な噴水、行きかう人々。ちょっと失礼だけどここまでの文明があるとは思わなかった。身分証明書がある時点で予想できたのかもしれないけど。
太陽がちゃんと一個なら今はざっくり十四時か十五時くらいかな。
まずどうしようか。最終目標は魔王討伐...なんだけど何故だろう。恐らく俺は魔王のことを聞く前から魔王のことを知っていたし、なんか違和感しかない。というか魔王って誰?そもそも魔王が悪い奴だとは限らないしな。でもおじさんが魔王討伐と聞いて何も言わなかったってことは魔王討伐は変なことではないんだろう。
この違和感はなぜか俺が死んだと確信できるのと同じような違和感だ。もしかしたら同じ何かが原因かもしれない。
手に持っていた折り紙の半分ほどの大きさの身分証をちらっと見てみると、なんだこれ。読めないけど読めるな。どう読むのかはわからないが何を意味するのかは分かるみたいな。もしかしてこれも天使によるものなのか?おじさんとの会話でお互いにお互いの言語が分かってたってことは世界の法則的な何かかもしれない。だとしたら都合がよすぎる気がする。
まあとにかく魔王を討伐...するかわかんないけど魔王に会ってみたいとは思う。元の世界に変える方法知ってるかもしれないし。
あ~~やっぱり元の世界に帰りたい。親友にもまたなって言っちゃったし。逆にあいつもこの世界に来ねぇかな。もし~の話をしてもしょうがないか。恋しいぜ。
まてよ、恋しいなら作ればいいじゃないか。インターネットのないこの世界では元の世界よりも人脈の力が強いだろう。なら早めに作っておいた方がいいな。
つまり現在、俺の達成すべき目標は...
「頼れる友達を作る!!」




