第34話
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ミレーヌはエルフィの顔を見る。
数日前に打診した時には、やると言っていたのに。あれは嘘だった……は無い。それなら最初から断ればいいだけだ。話を聞いているうちに気が変わった? でも、ヴォルスの説明はこれまでの話と大きくは変わらない。単に貸し手となる民間側の条件が明確になっただけだし、それが特におかしいとも思えない。利息の設定に文句がある可能性も無くはないが、それならそれでその部分の指摘をすればいいだけで、いきなり断るまではいかないはず。では一体何が。
ミレーヌが一人気を揉んでいる中。
「理由をお伺いしてもよろしいですか」
ヴォルスが落ち着いた声で訊く。
そう、それが知りたい。と内心で深く頷く。
「はい。一言で申し上げますと、“それでは利益が足りないから”となります」
「し……」
守銭奴、と言いそうになるのを慌てて飲み込む。
エルフィが横目でこっちを見た気がするが、きっと気のせい。
「窓口業務の負担と返済できない可能性については織り込んだ上で設定したつもりでしたが、足りませんでしたか。もう少し売る側の利率を下げた方がということでしたら、それは一応可能ではありますが」
「いえ、借入証書の販売そのものにつきましては、特に異議はありません。民の貸付意欲と、国側の利息支払いの負担を考慮すれば、このくらいになるしかないと思います」
「なるほど。としますと、エルフィ殿のおっしゃる“利益が足りない”というのは、“仕事が足りない”の方でしたか」
「おっしゃる通りです」
「どういうこと?」
我慢できなくなったミレーヌが割り込む。
「こういうこと。
“五年かけて五百万を右から左に流して、一万ぽっち稼いだところで面白くもなんともない。もっと稼げる仕事をよこせ”
――ヴォルス様、失礼いたしました」
「お気になさらず」
「しゅ、守銭奴……」
我慢できずに飛び出た言葉を聞いて、楽しげにミレーヌを睨んだエルフィが、改めてヴォルスに向き直る。
「この窓口機関の経営をお引き受けするにあたりまして、私、エルフィ・ケネットより、三つの条件を、提示させていただきます」
「伺います」
「一つ目ですが、この機関に、国が取り扱う特定の事業の資金とすることを目的とした借入証書を、独占的に販売する許可をいただきたく思います」
「承知いたしました。その”特定の事業”の内容につきまして、さらにご指定などはありますか」
「詳細は追って詰めさせていただきますが、魔王城と魔王城周辺の採掘と開拓事業、街道および都市の整備と拡大、教育事業全般につきましては、必須と考えております」
「教育」
ミレーヌは小声で呟く。
学院出身のエルフィらしいような、らしくないような。
「そちらも承知いたしました」
「ありがとうございます。二つ目は、この国のギルド、神殿、学院、商会、あるいは個別の商人などに対して、資金の貸付を行うことについて、公に国からの許可をいただきたい、というものです」
「公に、ですか」
「はい、公に、です」
ヴォルスが顎に手を当てて考える。
「現在、民がそれぞれ自発的に行なっている民同士の貸付行為を、国の許可を得たある種の商売として行う。これを私の一存で決めるわけにはまいりません。関係各所と調整した上で、最終的には陛下のご決裁をいただく必要があります。ですが、おそらくはご裁可いただけるものと思います。これで答えになっているでしょうか」
「ありがとうございます。十分です」
「公に?」
ミレーヌの口から疑問が漏れ出る。
「要するに、国からの正式なお墨付きがあると、信用の桁が違うってこと」
「エルフィ殿のおっしゃる通りです。国の後ろ盾があるというのは、運転資金の面でも、借り手の心理面でも、安心の度合いが全く違います。おそらく、借入の申し込みが殺到することになるでしょう」
「ああ、なるほど……」
特定事業向け借入証書で借りて稼ぎ、事業資金の貸付で貸して稼ぐ。
まさに守銭奴の本領発揮。
「三つ目ですが、これは私自身の褒賞金の取り扱いに関する条件となります」
「伺います」
「まず、現在未処理となっている褒賞金五千七百六十万ゴルドの四分の一、千四百四十万ゴルド。これが、現状で私たち四人がそれぞれ受け取るべき金額である、ということでよろしいでしょうか」
「その通りです」
「この千四百四十万ゴルドのうち四十万ゴルドを、毎年四万ゴルドを十年間の形で、現金でお支払いいただきたく思います」
「承知いたしました」
「そして、残る千四百万ゴルドですが、全額をこの窓口機関へ出資いたします」
「全額を、ですか。それはまた、随分と思い切られましたね」
「もちろん、状況に応じて出資金を他の形に振り替えさせていただく、という前提ですが、ひとまずは」
「承知しております。とりあえず、大半は一旦、十年借入の証書でしょうか」
「そうなりますね」
「?……あ、なるほど」
横で話を聞きながら考えていたミレーヌにも分かった。
国はエルフィに褒賞金を支払う。エルフィはその金を窓口機関に出資する。窓口機関はその金で国から借入証書を買う。
エルフィ個人は単に窓口機関に出資しているだけで、国に金を貸しているのはあくまでも窓口機関、という名目が立っている。
ミレーヌがヴォルスから何度も教えられながらようやく身につけつつある、名目――大義名分――の取り扱いを、いきなり手の内にしている。さらには、証書にすることで国からするとエルフィ分の支払いを十年後に先送りできていることにもなる。さすがはエルフィ。
とミレーヌが感心しているうちに、エルフィが条件の提示を終えた。
「以上が、今回のお話をお引き受けするに当たって、私から要求させていただく条件となります」
「確かに承りました。二つ目につきましては正式には陛下のご裁可を待つ必要がありますが、基本的には三件とも、その条件をお受けいたします」
「ありがとうございます。窓口機関の経営、喜んで、お引き受けいたします」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」




