第33話
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五日後の午後、ミレーヌはエルフィと一緒に、ヴォルスの執務室にいた。
「ようこそお越しくださいました、魔術師殿」
「お忙しい中お時間をいただきまして、ありがとうございます。エルフィ・ケネットと申します」
「よろしくお願いします、魔術師殿、いえ、エルフィ殿と呼ばせていただいてもよろしいでしょうか」
「もちろんです」
「私のことは、ヴォルスとお呼びください」
「恐れ入ります、ヴォルス様」
「では、おかけください」
並んでソファに座り、いつもの通り本題前のお茶になる。
「エルフィ殿は、魔術学院のご出身ですよね」
「はい。七歳の時に入学しまして、それ以来学院の所属です」
「私も学院にはいくらか知人がおりますが、皆口を揃えてエルフィ殿は学院史上最高の才能だと言っておりました」
「恐れ入ります」
「軍からの報告でも、しばしば勇者殿との共同作戦でエルフィ殿のお名前を拝見しました。特に、第一師団の参謀長が熱心に書き送ってきてまして」
「ストロス参謀長には、大変良くしていただきました」
初対面のヴォルスに対し、そつなく応答するエルフィを見て、自分の時はどうだったろうか、とミレーヌは思い返す。
話の内容と、レクトの啖呵と、ものすごく緊張していたことしか思い出せなかった。
お茶を飲み終わる。
「さて、では本題に入らせて頂きます。まず、本日、エルフィ殿にお越しいただきました理由ですが、あらためてご説明が必要でしょうか?」
「いえ。大丈夫です。個人向け十年借入の取り扱い窓口となる機関の経営打診、とミレーヌから聞いています」
「今おまとめいただいた通りです。まさにその窓口機関の経営者に就任していただけませんでしょうか、というお願いとなります」
「お受けするのはやぶさかではありませんが、いくつかお伺いしてもよろしいでしょうか」
「何なりと」
「ありがとうございます。では、まず、なぜ私をお選びになったか、その理由をお教えください」
「直接的にはミレーヌ殿からのご推薦ですが、それだけではありません。先ほども少し申し上げましたが、学院における評価、軍からの報告、その他いくつかの筋からの話なども含め、総合的に判断させていただきました。実は、民間から登用する際の候補として、以前からお名前は挙がっていたとも聞いています」
「では、私が経営に携わるとして、立場はどのようなものになりますか」
「機関の経営責任者に就任していただきます。国との連絡役となる幹部を一人か二人、およびその部下を数人置かせていただく予定ですが、彼らを含めて、全ての幹部及び従業員がエルフィ殿の指揮下に入ります」
「分かりました、ありがとうございます。では次に、十年後返済の借入につきまして、窓口機関を通した場合の詳しい商品設計をお聞かせ願えますか。ミレーヌから概略は聞いていますが、最終の買い手側の条件が見えていませんので」
「承知しました。まず、国が、本体は十年後に返済、利息は毎年一分の支払い、の条件で、借入の証書を発行します。直接的には窓口機関がこの証書を買うことになります」
「利息は低めですね。復興支援の協力と、褒賞金への目眩しを兼ねて、といったところでしょうか」
「おっしゃる通りです。そして窓口機関は、その証書を、買った時と同じく十年後に本体の返済、利息は毎年、ただし一分よりも低い条件――仮に一分のさらに十分の八としておきましょうか――その条件で、貸付を希望する民に売ります。この利息の差が機関の収入となります」
「最低購入金額はいくらにされるおつもりですか」
「百ゴルドを予定しています」
「なるほど。では、途中で買い戻したい場合はどうなりますでしょうか」
「買い戻しの場合は、それまでに支払った利息の合計に、購入金額の二割を十で割り、残り年数をかけた金額を足した額を、解約金として引き去った上での返却となります」
「事実上、買い戻し不可ですね」
「その通りです。この証書は、返済を十年待ってもらうことが、それで利息、すなわち利益を得るための条件となります」
「なるほど」
「以上が、この借入証書の、窓口を通した商品としての設計となりますが、他にお訊きになりたいことはありますか」
「あと一つだけあります。この証書によって集められる貸付の規模は、どの程度を見込んでおられますか」
「初年度は二百万ゴルド、二年目は百五十万、五年間で総額五百万との見立てです」
「思ったより多いですね」
「勇者殿に褒賞金の一部で証書を購入していただくことが、主だった商会や富裕層への大きな呼び水となりうるという想定ですが、それも含めまして、これだけ国に対しての支援が得られるというのは、大変ありがたいことです」
「なるほど」
「他にお訊きになりたいことは、ありますか?」
「いえ、大丈夫です。ご説明、ありがとうございました」
「では、改めましてエルフィ殿に依頼させていただきます。この窓口機関の経営をお引き受けいただけますでしょうか」
ヴォルスがエルフィに問う。
事前にミレーヌがこの話をした時には、あっさり「分かった。私でいいのならやる」と言っていたので、ここは心配無用。
下を向き、少しだけ考えたエルフィが口を開く。
「いえ。その条件では、お受けできません」
「え」
間抜けな声が出た。




