↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
42/63

第30話

 ***


 三回目の会談が終わってから、次の予定が決まるまでに、少し間があった。


 その間、ミレーヌはずっと、前回の最後に予告された「ヴォルスの次の一手」が何なのかを考えていたのだが、結局分からなかった。

 これまでのヴォルスとの話し合いの内容については、細大漏らさず他の三人に報告している。レクトは例によって「よろしく」の一言。ガルドも「三割減か。まあ半分まではいいって言ったしな」と口ではぼやきつつ納得。

 エルフィにはいろいろ言われるのではないかと思っていたが、案に相違して、条件を維持することを除くと、二回目の会談でのギルドから国への預り金の話で、十年後返済の借入について少し興味を示していたくらいで、あとは殆ど何も言わなかった。それなりに長く付き合ってきたが、エルフィが何を考えているのかは、相変わらず読めない。ただ、ミレーヌに対して何も言ってこないということは、現状について特に不満は無いと解釈していいのだろう、と思える程度には、分かるようになっている。

 七日後、ヴォルスからの使いが来た。翌日の昼過ぎを指定され、王城に向かう。


「申し訳ありません。少々予定が立て込んでしまって、なかなか時間が取れませんでした」

「いえ、お忙しいところ、お時間いただきましてありがとうございます」

「こちらこそありがとうございます。とりあえず、お座りください」


 いつものように軽くお茶をした後、本題に。


「さて、前回申し上げました、褒賞金を処理するための私の方の一工夫ですが」

「はい」


 結局、それが何かは全く分からなかった。

 その悔しさが顔に出ていたのか、ヴォルスがそれをミレーヌに問うことはなく、自分から説明を始めた。

 明かされた一手は、新設の上級冒険者制度を使った、褒賞金を狙い撃ちにする上納金の上乗せ策。復興税の応用のような名目の立て方については、今更驚きはしない。ヴォルスならそれくらいは当然思いつく。驚いたのはそこではなく。


「……と、いうことです。事実上褒賞金を狙い撃ちにした上級冒険者制度よりも、自分たちの上納金に直接影響してくる復興税の方が、大半の冒険者にとってはよほど大ごとですからね」

「そ、そうですね……」


 より範囲が広く、影響が大きい不満で、元の不満を上書きする、などという発想は、ミレーヌには到底思いつけない。


「もちろん、例えば勇者殿が、この上納金の上乗せに不満を述べられた場合は、また話が別ですが」

「それは大丈夫です」


 つい、食い気味に答えてしまう。


「はい。承知しております」


 自分の顔が赤くなっているのが分かる。

 あと、それはそれとして。


「この上乗せ分も、一割なんですね」


 話を聞いていて、思ったよりだいぶ思い切った金額にしているように思えたので、そこを訊いてみると。


「そうですね。最初に“一割を辞退”とさせていただきましたことが、ここで基準として効いています」

「そうなんですか」

「はい。金額を一割としたこと自体は、“その程度なら不自然とは見られない上限”といったところですが、一度その数字を使うことによって、以降の処理においても“その範囲内ならば、何らかの手が入ってもおかしくない”という、ある種の大義名分が立ちます」

「なるほど……」


 最初に決めた辞退の割合が、そんな役割を負っていたとは。


「さて、ではここまで処理することができた金額をおさらいしてみましょう」


 チョークを持って黒板の前に立つヴォルスの姿は、もはやお馴染みですらある。


「褒賞金一億ゴルドに対し、まず、辞退で一千万、ギルドからの預り金で九百万、復興税で五百四十万、ギルド預け金と上級冒険者制度がそれぞれ九百万ずつ、合計で四千二百四十万ゴルドを、処理することができました。残りは五千七百六十万ゴルドとなります」


 一番下に書かれた「5760」の数字を見て、ミレーヌはため息をつく。


「まだ半分以上残っているんですね……」

「そうですね。四割以上を削ることができたのは、大変な成果ではありますが、率直に申し上げまして、これ以上大きく削る材料は、今のところありません。先ほどの上納金の上乗せを一割としたのは、少々、いえ、だいぶ無理をしているのが実情なのですが、そのくらいしないといけないくらい厳しい状況だ、ということでもあります」

「そうですよね……」

「ですので、ここで少し角度を変えて、前回も若干話に出ましたが、時間稼ぎの方向で、考えてみましょう」

「ああ、なるほど。時間稼ぎ」


 前に話したのは、分割払いと、支払い開始の一年遅延。

 何か他にあるだろうか。


「まずは、現在見えている範囲から行きましょう。褒賞金の残り五千七百六十万を、十年の分割払いとします。本来ならば、次の年が明けてからおよそ三十日後、今から数えて約五か月後に、初回の支払いが行われることになります」

「はい」

「しかし、勇者殿のご厚意により、初回の支払いは一年遅延されることとなりました」

「はい」

「率直に申し上げまして、この“五か月後”という条件は、非常に厳しいものでした。一年繰り延べされたことによって、どれだけ助かりますことか。本当に、ありがとうございます」

「あ、いえ、全然、そんな」


 効果があるのは良かったが、そこまで感謝されると、実に落ち着かない。


「本音を言いますと、もう一年程度後ろにずらせれば、だいぶ見通しが良くなるのですが」

「単純に、二年遅らせる、ではダメなのですか」

「無理ではありませんが、一年と違って二年では、やはり“なぜ二年なのか”の理由付けが必要となります。理由もなく引き伸ばしを続けると、それ自体が“支払うつもりが無い”と見られる危険を背負うことになります」

「ああ、はい」

「それと」

「それと?」

「癖になるのが、少々怖いですね」

「癖……ですか?」

「ええ。勇者殿のご厚意に甘えて、一年遅延させていただく。ここまでは良いとしても、そこからさらに“支払いが苦しいからあと一年”をやった時に、だったらもう一年、さらにもう一年、とならない保証はありません……いえ、まず間違いなく、そうなります。実際に支払いは苦しく、甘えようと思えば甘えさせてもらえ、遅延させればさせるだけ楽になる。この状況がもたらす誘惑は、それほどまでに強い。そして、一度その誘惑に屈したが最後、自力で脱出することは、殆どの場合、不可能です」

「ああ……」


 借金を同じところからの借金で返す話と同じ。


「“川は川下に流れる”、ですか」

「まさにそれです。放っておけば川は川下――楽な方――にとめどなく流れていってしまう。だからこそ、それを堰き止めるもの、つまり“名目”が大事、という話でもあります……と、私が安易な方法を取ろうとするたびに、前任から叱られたものです」

「は、はい」


 すごく気になるのに、こちらから詳しく訊くわけにもいかない話をさらっと差し込んでくるのは、返事に困るのでちょっと控えてもらえないだろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。