第31話
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「そういうことですので、単純な遅延は一年以上は難しい、しかしできるならもう一年程度引っ張りたい。というのが現在の状況ですが」
「はい」
「ミレーヌ殿には、何かお考えはありますか」
来た。
相談の顔をしているが、ヴォルスの頭の中には既に答えがあって、ミレーヌがどこまで分かっているかを測っているのだ、ということくらいは、分かるようになっている。
「ええと……少し、考えさせていただけますか」
「いくらでも」
考える。
ヴォルスが問題を出してきたということは、ここまでの話の中に、必ず手掛かりがある、ということである。辞退、上納金、便宜供与、魔王城、十年借入、寄付、復興税、ギルド預け金、上級冒険者制度……この中で、支払いの遅延に関係ありそうなものは、一つしかない。十年後返済の借入、エルフィが興味を示していたあれだ。
ただ、それがどう、支払いの一年遅延に繋がるのかが分からない。
「すみません。ちょっと分からないです。なんとなく、ギルドからの預り金の時の、十年後返済の借入のあたりかな、と思ったんですが、そこから先が分からなくて」
「いいですね。方向はまさにそれです。では、一つ、考えるための材料をお出ししましょうか」
「お願いします」
「では。この話の肝は、“誰が貸し手になるのか”です」
「誰が貸し手になるのか」
再び考える。
「誰が貸し手になるか」。貸し手になれるのはギルド、商人、あるいは他国や、魔術学院などもその可能性はある……エルフィが興味を示していた理由はそれだろうか。いや、「学院が関わる可能性があるから」では理由として弱すぎる。あの守銭奴が興味を持ったからには、もっと確実に、大きく儲かる可能性があるはず。つまり、学院を経由してエルフィが大儲けする方法……いや、それも難しい。いくらエルフィが学院一の秀才で、勇者の仲間だからって、この若さでいきなり学院の経営に関与するなどということは、無いだろう。その状況でエルフィがただ学院のために動くとは、正直思えない。ということは、学院とは関係ない、エルフィが儲かる方法が、何かあるはずだ。ではその方法は何か。例えば学院以外の伝手、道中で知り合った冒険者、軍の関係者など……いや、これだとむしろ学院経由より弱い。そんなあやふやな関係に頼るエルフィではない。
一旦考えを戻す。そもそも、この借入で誰が儲かるのか。元のギルドと国の話で言えば、儲かるのはまず、利息を受け取れるギルドである。これは当たり前だ。金の貸し借りで儲かるのは、踏み倒されない限り常に貸し手……あ、これか。
一つ、誰が貸し手になるか。
二つ、貸し手は儲かる。
三つ、エルフィは守銭奴である。
このことから導き出される答えは。
ミレーヌは顔を上げる。
「よろしいですか」
「はい。支払いをもう一年遅延させる方法は、“初回の支払い分を、十年後に返済する約束で国に貸し付ける”です」
「誰が貸し手になるのか」――答えは、ミレーヌ達自身。
「お見事、その通りです。十年分割払いの初回の支払い、五百七十六万ゴルドを、さらに十年後払いで国に貸し付ける。これにより、初回の支払いをさらに一年遅延させることが可能となります」
「はい」
「全体の建て付けとしましては、まず、国は、戦後復興協力の一環として、利息一分を毎年支払い、本体を十年後に返済する条件での借入の引き受け手を、広く募集します」
「ああ」
なるほど。復興税と同じく、まずは全員に適用。
「この借入は、ギルドや神殿、学院などの団体だけではなく、個人からのお申し出も、喜んで受け付けます」
「はい」
ここまで来れば、あとは分かる。
「そこで、勇者殿より、既に一年遅延している初年度の支払いについて、それを国に貸し付け、戦後復興に役立ててもらいたい、とのありがたいお申し出をいただきまして」
「はい」
実際、レクトならそう言うだろう。
つまりこれは、名目でありつつ、同時に実態でもある。
「何度も勇者殿のご厚意に甘えるのは大変申し訳ないのですが、国の財政の状況を鑑み、お借りすることといたしました」
「という筋書き」がつかないので、答え方を変える。
「是非、戦後復興にお役立て下さいますよう、勇者レクトよりお願い申し上げます」
「勇者殿のお志、ありがたくお受けいたします……しかし、こちらから話を振っておいてなんですが、良くそれを思いつきましたね」
「ええ、実は……」
と、エルフィが十年借入の話に興味を持っていて、あの守銭奴――と言いそうになって「利益に敏感な人」と言い換える――が興味を持つからには、彼女自身が儲かる理屈があるはずだというところから、自分たちが貸し手となる発想に思い至ったことを説明する。
「それはそれは」
「それで、そのことに気が付きましたので、後は初年度の支払いにそれを適用すればいけるな、と」
「なるほど。いや実に、お見事でした」
「いえ」
今回も結局はヴォルスの掌の上である。
この人には全く追いつける気がしない。と、ミレーヌは改めて思う。
「もちろん、これも先ほどの二年遅延や、借金で借金を返す話、あるいはギルド預け金の話と同じで、名目が立つからと言って濫用するのは厳に慎まなくてはなりません」
「はい」
「もっとも、普通の遅延とこの借入を組み合わせている時点で、既にその領域に爪先が入っているようなもので、師匠が聞いたら大説教になりそうですが……まあ、今回は事情が事情なので、見逃してもらえるかもしれません」
「……」
「いいえ」とは言えないが「はい」とも答えにくい。
「それにしても、まさか自分達が、国にお金を貸す立場になるとは思いませんでした」
「何をおっしゃいますか」
「え?」
場を紛らわすために話を変えたら、ヴォルスから意外だとでも言いたげな返答。
「あなた方はとっくに、国に対する最大の貸し手ではないですか」
「……あ」
「陛下が皆さんに一億ゴルドの褒賞金をお約束なさった時から、いえ、あなた方が魔王を倒し、国を救った時から、我々は、あなた方に、到底返しきれない借りを、貸していただいているのです」
ここで「いいえ」とは言えない。
かと言って「はい」とも言いたくない。
どう答えればいいのか分からないまま、言葉が口から流れ出す。
「あ……ありがとうございます」
正しい返事はこれではない。でも、たぶん、これでいい。




