第28話
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「さて、では、このギルド預け金を、いくらに設定するかですが、ミレーヌ殿なら、どうされますか」
ヴォルスから質問が来る。
金額にまでは頭が回っていなかった、というより。
「ええと、これは、極端な話を言うなら、全額でもいいのではないでしょうか」
「全額ですか」
「はい。このギルド預け金は、私たちが自分のお金をギルドに預けるだけで、そのことを誰に説明する必要もありませんので、全額預けてしまっても別に問題は無い、と思うのですが」
ガルドとエルフィの取り分――二人で二千五百万――をどうするかは別途考えなければいけないが、それを除けばこの褒賞金問題はかなり片付いたのでは。
とミレーヌは思っていたが。
「そうですね。理屈としては、おっしゃる通りです。が、現実には、やはり全額というわけにはいきません」
何か見落としがあるようだ。
それが何かを考えてみるが。
「……すみません。なぜ現実にはダメなのか、の理由が、ちょっと分かりません」
「では、ご説明しましょう。ギルド預け金は、皆さんがご自身のお金をギルドに預けるだけで、誰に説明をする必要も無い、というのはその通りです。」
「はい」
「ですが、“説明をする必要が無い”ことと、“誰にも知られない”こととは、同じではありません」
「あ」
そこか。
あと、この手のやり取りは、もう何回目だろうか。ヴォルスはいつも、ミレーヌの考えの、数歩先にいる。
「公に説明する必要は無くとも、ギルドに預けたことにするための手続きなどで、必ずその存在は誰かの目に触れます」
「はい」
「そして、その誰かは、必ず誰かにその預け金のことを話します」
「必ず、ですか?」
「はい。この預け金は、皆さんがギルドに預けておられるだけの、本来、誰に隠す必要も無いものです。もちろん、ギルド職員として秘密を守る義務はあるでしょうが、これほどの金額ともなれば、家族や友人に、ここだけの話として、話してしまいたくなるのが、人情というものです」
「ああ」
「その事実を知るのが一人や二人で、短い期間であれば、存在を隠し通すこともできるでしょうが、担当者が変われば、それを知る人物は増えていきます。その全ての人が、五年も十年も褒賞金の存在を黙っていられると考えるのは、楽観的に過ぎるというものです」
「はい……確かに、そうなりますね」
「そのようにして、巨額の預け金の存在が知られれば、そこには必ず、“意図の詮索”が付いてきます」
「はい」
「その時、残りの全額、七千万ゴルド以上がそっくり預けられていたら、どうなるでしょうか」
「はい。“そもそも国は褒賞金を支払う気が無く、勇者を脅してギルドに預けたことにさせた”と見られます」
「その通りです。皆さんがいくらそうではないと否定しても、それとは関係なく、“そういうこと”になってしまうのです。もっとも、この場合は、それが殆ど事実でもありますが」
「……はい」
支払うつもりはあるし、脅されてもいないが、「支払わないで済むように預け金にした」ことには変わりない。
「ですので、この場合もやはり、“勇者殿が自発的に褒賞金の一部を預けた“と解釈できる名目が成り立つだけの金額に、抑えておく必要があります。辞退の時と同様、全体の一割くらいが上限でしょうか」
「良く、分かりました。では、全額をギルド預け金にする案は取り下げさせていただき、代わりに九千万の一割である九百万、一人当たり二百二十五万ゴルドを、ギルドに預けたいと思います」
「承知いたしました」
黒板に「ギルド預け金 900」と記入。
「しかし、思いがけず九百万を処理することができて、本当に助かりました。改めまして、ありがとうございます」
「いえ。お役に立てたのでしたら、良かったです」
「これで、辞退の一千万に、ギルド上納金の預りが九百万、復興税相当の上納金の上乗せが五百四十万、今のギルド預け金で九百万、合計で三千三百四十万を、実質的に減額することができました」
「はい」
「残りは六千六百六十万。とりあえず六千万を割り込む程度までは減らしたいところですが」
と言い、ヴォルスがミレーヌを見るが、もう逆さに振っても何も出てこないことが、自分で分かる。
「すみません。もう、何一つ思いつきません」
「いえ、大丈夫ですよ。こうやって一緒に考えていただけるだけで、十分助けていただいてますし、ギルド預け金の案までいただいたのですから、なおさらです」
「ありがとうございます」
「というわけで、もう少し減らす一手を考えるのは、こちらの仕事です。実は一つ、思いついたことがありまして」
とヴォルスが言ったところで、扉を叩く音がした。衛兵が入ってきて、ヴォルスに紙片を手渡す。
「分かりました。すぐに行きます。ミレーヌ殿、申し訳ありません、この後急に予定が入ってしまいまして、続きはまた次回、ということにさせていただけますでしょうか」
「はい、承知いたしました。ではまた次回、よろしくお願いいたします」
ヴォルスが考えるその一手が何なのか、当てられる気は全くしないけれど、次までに自分でも考えてみよう。




