↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
40/63

第28話

 ***


「さて、では、このギルド預け金を、いくらに設定するかですが、ミレーヌ殿なら、どうされますか」


 ヴォルスから質問が来る。

 金額にまでは頭が回っていなかった、というより。

 

「ええと、これは、極端な話を言うなら、全額でもいいのではないでしょうか」

「全額ですか」

「はい。このギルド預け金は、私たちが自分のお金をギルドに預けるだけで、そのことを誰に説明する必要もありませんので、全額預けてしまっても別に問題は無い、と思うのですが」


 ガルドとエルフィの取り分――二人で二千五百万――をどうするかは別途考えなければいけないが、それを除けばこの褒賞金問題はかなり片付いたのでは。

 とミレーヌは思っていたが。


「そうですね。理屈としては、おっしゃる通りです。が、現実には、やはり全額というわけにはいきません」


 何か見落としがあるようだ。

 それが何かを考えてみるが。


「……すみません。なぜ現実にはダメなのか、の理由が、ちょっと分かりません」

「では、ご説明しましょう。ギルド預け金は、皆さんがご自身のお金をギルドに預けるだけで、誰に説明をする必要も無い、というのはその通りです。」

「はい」

「ですが、“説明をする必要が無い”ことと、“誰にも知られない”こととは、同じではありません」

「あ」


 そこか。

 あと、この手のやり取りは、もう何回目だろうか。ヴォルスはいつも、ミレーヌの考えの、数歩先にいる。


「公に説明する必要は無くとも、ギルドに預けたことにするための手続きなどで、必ずその存在は誰かの目に触れます」

「はい」

「そして、その誰かは、必ず誰かにその預け金のことを話します」

「必ず、ですか?」

「はい。この預け金は、皆さんがギルドに預けておられるだけの、本来、誰に隠す必要も無いものです。もちろん、ギルド職員として秘密を守る義務はあるでしょうが、これほどの金額ともなれば、家族や友人に、ここだけの話として、話してしまいたくなるのが、人情というものです」

「ああ」

「その事実を知るのが一人や二人で、短い期間であれば、存在を隠し通すこともできるでしょうが、担当者が変われば、それを知る人物は増えていきます。その全ての人が、五年も十年も褒賞金の存在を黙っていられると考えるのは、楽観的に過ぎるというものです」

「はい……確かに、そうなりますね」

「そのようにして、巨額の預け金の存在が知られれば、そこには必ず、“意図の詮索”が付いてきます」

「はい」

「その時、残りの全額、七千万ゴルド以上がそっくり預けられていたら、どうなるでしょうか」

「はい。“そもそも国は褒賞金を支払う気が無く、勇者を脅してギルドに預けたことにさせた”と見られます」

「その通りです。皆さんがいくらそうではないと否定しても、それとは関係なく、“そういうこと”になってしまうのです。もっとも、この場合は、それが殆ど事実でもありますが」

「……はい」


 支払うつもりはあるし、脅されてもいないが、「支払わないで済むように預け金にした」ことには変わりない。


「ですので、この場合もやはり、“勇者殿が自発的に褒賞金の一部を預けた“と解釈できる名目が成り立つだけの金額に、抑えておく必要があります。辞退の時と同様、全体の一割くらいが上限でしょうか」

「良く、分かりました。では、全額をギルド預け金にする案は取り下げさせていただき、代わりに九千万の一割である九百万、一人当たり二百二十五万ゴルドを、ギルドに預けたいと思います」

「承知いたしました」


 黒板に「ギルド預け金 900」と記入。


「しかし、思いがけず九百万を処理することができて、本当に助かりました。改めまして、ありがとうございます」

「いえ。お役に立てたのでしたら、良かったです」

「これで、辞退の一千万に、ギルド上納金の預りが九百万、復興税相当の上納金の上乗せが五百四十万、今のギルド預け金で九百万、合計で三千三百四十万を、実質的に減額することができました」

「はい」

「残りは六千六百六十万。とりあえず六千万を割り込む程度までは減らしたいところですが」


 と言い、ヴォルスがミレーヌを見るが、もう逆さに振っても何も出てこないことが、自分で分かる。


「すみません。もう、何一つ思いつきません」

「いえ、大丈夫ですよ。こうやって一緒に考えていただけるだけで、十分助けていただいてますし、ギルド預け金の案までいただいたのですから、なおさらです」

「ありがとうございます」

「というわけで、もう少し減らす一手を考えるのは、こちらの仕事です。実は一つ、思いついたことがありまして」


 とヴォルスが言ったところで、扉を叩く音がした。衛兵が入ってきて、ヴォルスに紙片を手渡す。


「分かりました。すぐに行きます。ミレーヌ殿、申し訳ありません、この後急に予定が入ってしまいまして、続きはまた次回、ということにさせていただけますでしょうか」

「はい、承知いたしました。ではまた次回、よろしくお願いいたします」


 ヴォルスが考えるその一手が何なのか、当てられる気は全くしないけれど、次までに自分でも考えてみよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。