第16話
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「昔話はさておき、上納金、便宜供与に続く相殺の第三手は、ひとまず“出資”の方向となります。冒険者ギルドから国に金を渡し、国はそれを元手に稼ぎ、その中から利息を払っていく。大筋としましては、ほぼ先ほどのご説明通りとなります。お見事でした」
「恐れ入ります……あの、ヴォルス様」
「何でしょう」
「ほぼ、ということは、どこか違うところがある、ということですよね」
気になっていたことを訊くと、ヴォルスが真顔で答える。
「そこが気になりますか?」
「はい……面倒なことを言って、申し訳ありませんが」
「いえ、大丈夫です。細部を疎かにしないのは、会計として大事なことですし、実際にここではそこが重要でもあります。では、その違いについてご説明しましょう」
「お願いします」
「繰り返しになりますが、出資とは、簡単に言いますと、“出資する者が資金を提供し、利息のみを受け取り続ける”という仕組みです」
「はい」
「重要なのは、この出資した金そのものにつきましては、建て付けとして返済する必要は無い、ということです。現実にも、返済しないまま置いておくことが殆どです」
「そもそも、返さなくていいんですね」
「ええ。まずはそれが、“ほぼ”がついた理由です」
ミレーヌの説明は、期限の制約は無いものの返済することが前提になっていたが、そもそも出資は金貸しとは違う、ということか。ギルドが国に出資する形にして、あとは利息だけを払い続けることで、実質的に相殺する。うまい手があるものだ。
「なるほど……としますと、残りの三百二十万をギルドが国に出資、でしょうか」
「といきたいところですが、残念ながら、そうはいきません」
「え?」
「なぜ、そうはいかないのかと言いますと、理由はここまでのいくつかの話と同じく、名目に係る問題です。例えば、先ほどの神殿学校の件ですが、あれは、国が神殿に対して出資するという案件でした」
「はい」
「そして、神殿学校に限らず、国が関わる出資は、常に“国が出資する”形を取ります。一つの例外も無く、です」
例によって名目の問題、そして「常に国が出資する」「一つの例外も無く」が強調されている。つまり、国が出資“される”側に回ることは無いということで……つまりあれか。
「これも寄付の話と同じ、でしょうか」
「その通りです。何かに出資するということは、出資した者がその何かに対して干渉する権利を得る、言うなれば、出資者がその何かを支配する、ということです」
それはそうだろう。金を出した方が強いのは、当たり前だ。
「つまり、国に対してギルドが出資するということは、部分的にではありますが、ギルドが国に対して支配的な立場に着く、ということになります。当然ながら、国としましては、それを受け入れるわけにはいきません」
「はい」
「神殿学校などの、個別の事業であってさえも、国が出資される側に回ることは許容されません。ましてや今回は、魔王城のような特定の事業分野ですらなく、国の活動全体を対象とせざるを得ません。そこを通常の出資とすることは、掛け値なしに“ギルドが国を支配する”ことへの道を開きかねない。ギルドの本意がどうあれ、そういうことに、なってしまうのです」
「なるほど……」
「ですので、少々おかしな言い方になりますが、国が金を受け取る時は、原則として、税金か、そうでなければ借金、“でなければならない”、ということになります」
「借金の方がいいなんてことも、あるんですね」
「そうですね。何に遣うかが明確になっていて、そして返せる当てのある借金ならば、過度に警戒する必要はありませんし、時には――例えば商人が事業を拡大しようとする時など――極めて有用ですらあります」
「はい」
「逆に、出資の方は、返済の必要が無いからと言って喜んでばかりはいられません。金を出してもらった以上、出した当人がどう考えているかに関わらず、どうしてもそこには一定の影響力が発生しますし、実際にその影響力を自分に都合よく使おうとする出資者も少なくありません。俗に言う、“無償の贈り物に注意せよ”というやつです」
「ああ、はい」
それは分かる。魔王討伐の道中でも、多額の支援金を出す代わりに、勇者の名前や戦闘力を利用して自分の立場を強化しようという思惑が透けて見える支援者は、多くはないもののいなくはなかった。もっとも、その手の思惑は大抵、ミレーヌの損得勘定とエルフィの詭弁すれすれの知略と、何よりも勇者レクトによる一点の曇りも無い感謝によって骨抜きにされるのが常だったが。「“ありがとう”はタダだからね」とはとある守銭奴の口癖だが、実際にその通りだと思うことも少なくない。もっとも、当の本人は滅多にそれを口にしない――正確には、口にする必要がある状況に自分を置かない――のだが。
「というわけで、残念ながら、国がギルドに出資してもらうわけにはいきません」
口では残念と言っているが、全然残念そうには見えない。
「が、出資の特徴である“利息だけを払い続け、本体は返済しない”という仕組みを応用することで、返済の先送りをすることは可能です」
なるほど、それか。
「具体的には、こうします。まず、国がギルドから利息付きで金を借ります」
「はい」
「借金の本体は、十年後に返済する約束とし、その間、毎年利息だけを返済し続けます」
「はい」
「こうすることによって、借金の返済を、十年後に先送りすることができる、というわけです。先ほどのミレーヌ殿のご説明が、殆ど実際の方法だった、ということですね。“ほぼ”がついた理由は、中身がずれているからではなく、”出資”という表現の方がずれていたから、となります」
「なるほど……」
「さらに細かい話をしますと、先ほどのミレーヌ殿のご説明では本体も順次取り崩して返済していく形でしたが、こちらは十年後に一括返済の形でして、それが“ほぼ”がついた二つ目の理由ですが、これは粗探しのようなものですね。改めまして、お見事でした」
「あ、いえ、恐れ入ります。こちらこそご説明ありがとうございました。すごく分かりやすかったです」
「ありがとうございます」




