第15話
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黒板に「-300」を二つ書き入れ、ヴォルスは話を続ける。
「これで、ギルドから国への預け金九百万のうち、上納金として百八十万、便宜供与の見返りとして計四百万を相殺することができました。残り三百二十万ゴルド。さて、ミレーヌ殿でしたら、これをどう処理されますか?」
再び質問が来る。実はさっきから何か無いかと考えていたのだが、さっぱり出てこない。
「ちょっと思いつかないです……ええと、相殺ではないのですが、分割払いとか」
「そうですね。分割で支払うだけでも意味はありますが、負担の総量としては変わりませんし、相殺の材料にはなりません」
「そうですよね……」
ダメなのは承知で持ち出してみたが、やはりダメ……。
「が、方向性としてはそちらです」
とも限らないようだ。
「そうなんですか?」
「はい。ここも名目の話です。単なる分割払いでは、相殺にはならない。そこを、相殺相当にするためには、もう一捻り必要となります」
「もう一捻り……」
何かが思い浮かびそうになっているが、それが何かが分からない。答えをもらってもいいのだが、それは何だか負けた気がする。何になのかは分からないが。
ミレーヌは考える。
単なる分割では相殺にならない。それは先ほどヴォルスが言った通りだ。例えば、百万ゴルドを十年に分けて返済したところで、毎年十万が出ていくだけで、時間稼ぎにはなっても、負担自体は減っていない。相殺にするためには、その十万を、返さなくてもいい“ことにする”ための、なんらかの名目が必要。それで何かを思い出しそうになったのだった。
問題は、その「何か」が何なのか。
おそらくは分割払いに関係する何か。会計の話なら当然神殿絡みで、分割払いの話が出たのは、確か神殿付きの学校を作る計画が出た時で、神殿長の伝手で国から資金を支援してもらえそうとかで……いやでも、あの時も今みたいに分割払いでは返済が間に合わないからという話になって……これだ。
「もしかして、出資、ではないでしょうか」
「ほう」
考え込むミレーヌを黙って見ていたヴォルスが、軽く目を見張る。
「一口に出資と言いましても、いくつかの方法がありますが、ミレーヌ殿のおっしゃる“出資”がどのようなものか、よろしければお聞かせ願えますか」
「え、あ、はい。大丈夫です。記憶頼りですので、正確ではありませんけど」
説明を始める。
「例えば、百万ゴルドを、ギルドが国に出資します。この百万には、ひとまず、返済期限はありません。代わりに、国はその百万を元手に復興を進め、それで得たお金から、ギルドに毎年、ええと、例えば利息が年に二分として、二万ゴルドを払います」
「はい」
「あとはその繰り返しです。余裕が出てくるまでは毎年二万ずつの利息を払い続け、余裕が出てきたら百万ゴルドの本体を徐々に返済していきます。本体が減れば利息も減るので、その分本体側の返済に回すことができて、だんだん楽になっていくはずです」
学校の件で、建設の費用を分割返済にするととても払えないという話を神殿長がしたら、国側の役人が「出資の形ならなんとかなるかも」と、今のような話をしていた。細かいところまでは覚えていないので、実際の出資とは違うかもしれないが、大筋ではこんな感じ……の、はず……。
「ふむ」
顎に手を当てて考え込むヴォルスを見て、急激に自信が無くなってくる。
「あの、間違ってました……でしょうか」
「ああ、申し訳ありません。いえ、大丈夫です。ほぼご説明いただいた通りです。お見事でした」
「ほぼ」が気になるが、とりあえず間違ってはいなかったようだ。
「それにしても、よく出資に思い至りましたね。我々のような財務の担当者か、大手の商人以外では、まず耳にすることのないものかと思いますが」
「はい、実は……」
神殿の学校建設の件から思い出したことを説明する。
「ああ、なるほど。その件ですか。予算が付きそうだというところで、魔王が現れてそれどころではなくなってしまったと記憶していますが、神殿側でミレーヌ殿も関わっておられたのですね。納得しました」
「ご存じなのですか」
「ええ、国からの出資につきましては、全て私が決裁しますので」
「なるほど……」
にしても、七年前の一案件を覚えているとはすごい記憶力だとミレーヌが感心していると、ヴォルスが言葉を継ぐ。
「あと、その神殿学校の建設は、もともと私が企画したものでもあります」
「ヴォルス様が」
「ええ。なので、魔王の侵攻で立ち消えになってしまったのは、大変残念でした。今はまだそれどころではありませんが、復興の暁には、今度こそ実現させたいと思っています」
ヴォルスは、ミレーヌの方を見ている。
が、その視線はミレーヌではなく、さらにその向こうにある何かを見ているような気もした。




