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第14話

 ***


「魔王城そのもの、ですか?」


 先ほどの話にあった「未使用の施設や土地の譲渡」ということだろうか。いや、そもそも売れるのか。


「もちろん、城そのものを売りに出すわけではありません。正確には、魔王城と、その周辺地域一帯の開拓および管理の権利を、冒険者ギルドに独占的に付与する、ということになります」

「ああ、そういう……」

「採掘権単独ではそれほど大きな金額にはなりませんが、周辺も含めた地域全体の管理権となれば、規模が変わります。調査や資源の採取はもちろん、拠点の建設、街道の整備、入域する者の管理など、地域で行われる活動のほとんどがギルドの管理下に入り、そこから収入を得ることが可能となります」

「ギルドにとっては、大仕事ですね……むしろ、それほどの規模の仕事を受け切れるかどうか、の方が気になります」

「まだ国の傘下に入る前の冒険者ギルドは、未踏地域の開拓と管理のようなこともしていましたし、今でも治安維持のような仕事を請け負ってもいますので、おそらく大丈夫でしょう。それに、完全に任せ切りにはならないでしょうね。国や軍とも連携を取りつつ、実務に近いところを管轄してもらう代わりに、そこから利益を得ることを許容する。つまり、ある種の共同事業のような形を取りつつ、そこに組織的に、そして主体的に参画する権利の独占を許可することで、預り金と相殺できる便宜供与とする、といったところでしょうか」


 黒板の「便宜供与」の下に括弧書きで「(魔王城)」と記入し、ヴォルスはさらに説明を続ける。




国     |ギルド          

------|------

預り金 900|預け金 900

上納金 -180|上納金 -180 

便宜供与-100|便宜供与-100     

(魔王城)   |(魔王城)       

      |      

      |  

      |       

       


 1 活動の性質

 2 独立性

 3 公的機能




「これは、国の側から見ても利点があります。魔王城周辺の地域を国が直接管理したくとも、国全体が受けた痛手の手当てと復興の対応とで、とても手が回らないというのが実情です。能力のある組織に管理をある程度委託し、事業として自走させつつ、その収入と利益をもって、預り金と相殺してもらう。そういう一石二鳥を狙った計画ですね」

「ギルドに所属する冒険者にとっても、仕事が増えることになりますか?」

「そうなりますね。継続的な仕事が生まれ、収入の安定を図ることができるでしょう。それと」


 まだあるらしい。他に理由があるかと少し考えてみるが、これと言って思い当たる事は無い。

 ヴォルスが続ける。


「これまでほとんど誰も足を踏み入れたことのない場所を、自分たちが好きに開拓できる。このこと自体が、冒険者にとっては、なかなか魅力的な条件ではありませんか?」


 なるほど。


「確かに、そうですね」


 どこぞの勇者様が、喜び勇んで探索に向かおうとする姿が、容易に想像できる。


「というわけで、次はこの魔王城及び周辺地域の開拓管理権を、いくらで冒険者ギルドに売るか、ですが、ここは先ほどお話ししました“適切な相場感が存在しない”を最大限に利用します。要は、これらの区域から上がる利益の正確な見積もりは誰にもできないから、できるところまで高値をふっかけてしまおう、というわけです。さて、ミレーヌ殿なら、この権利にいくらの値をつけますか」


 話を聞くだけのつもりで油断していたら、思いがけず質問が飛んできた。


「え、あ、はい。ええと」


 考える。

 預り金の残りは現在六百二十万。通常の便宜供与は十年で百万相当の見積もりだが、先ほどヴォルスは「適切な相場感は無い」と言っていたので、それに縛られる必要は無い。とは言うものの……。

 しばし考えた後、視線をヴォルスに向けて、答える。


「二十万を十年で、二百万。でいかがでしょうか」

「ほう」


 ヴォルスの目が再び細められた。


「二百万で良いのですか。適正価格があるわけではないですし、帳簿上にのみある預り金のさらに相殺ですから、ギルドと国との間で話さえつけられれば、もっと高くすることも可能ですよ」


 再考を促すかのように、問いが重ねられるが。


「はい。確かに金額自体は好きに設定できますけど、たとえばこの値段を一千万、十年割で年間百万などとしてしまうと、”冒険者ギルドに与える管理権”の範囲を大きく超えてしまい、現実的ではなくなると思い、二百万としました」

「お見事です。まさにその通りでして、好きに値段をつけられるとは言っても、それが明らかに、現実的に想定される事業規模からかけ離れてしまっては、“実は何か裏があるのではないか”という余計な勘ぐりを生んでしまいます。それでは元も子も無い。いや、お見事です」

「は、はい」


 二百万にした理由を答えると、思いがけず真正面から称賛が返ってきて、少し狼狽える。


「つまり、“冒険者ギルドが事業を営む”という名目が許す範囲内で、というのが、目に見えない制約条件として存在していた、ということですね」


 ここでも名目か。政治とは、随分と名目が大事なようだ。

 とミレーヌが内心でぼやいていると、


「正直、また名目か、とお思いでしょうが」

「いえ、そんなことは」


 見透かされたかのような合いの手が入り、慌てて否定する。

 

「名目を立てる必要があることは、理解している、つもりです」

「承知しています。まあ、名目と言ってしまうと、実際は違うかのような印象もありますので、ここでは“大義名分”とでも言った方がいいかもしれません」

「大義名分」


 それなら、分かる気がする。


「たとえどれほど利があろうとも、大義名分を蔑ろにしてはいけない。それをやってしまえば、その場は良くても、長い目で見た時に政治が立ち行かなくなる。前任の財務大臣――転職を勧めてくれた主計長と同じ人なのですが――彼から、そのことを嫌というほど叩き込まれたものです」

「はい」

「話を戻しましょう。この魔王城の、ギルドへの売値として、二百万という数字は“現実的にあり得る上限値”として極めて妥当です。なので、これをそのまま使っても良いのですが、ここは魔王城が未開発区域であり、珍しい宝石や鉱石の採掘が見込まれること、さらにはほぼ人跡未踏であることを逆手に取って、夢と言いますか、可能性、あるいは期待感のようなものを、どっさりと上乗せすることとします」


 そう言って、黒板の「(魔王城)」の横に数字を記入する。


「三百万。三十万を十年。これが、魔王城の値段です」




国     |ギルド          

------|------

預り金 900|預け金 900

上納金 -180|上納金 -180 

便宜供与-100|便宜供与-100     

(魔王城) -300|(魔王城) -300    

      |      

      |  

      |       

       


 1 活動の性質

 2 独立性

 3 公的機能

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