第9話
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「では、暫定的にではありますが、勇者殿のご意向により、褒賞金のうち一千万ゴルドをご辞退される、ということでよろしいでしょうか」
「はい。勇者レクトは、国と王家の財を少しでも国の復興のためにお使いいただきたいとの思いから、褒賞金のうち一千万ゴルドを辞退させていただきます」
「かしこまりました。勇者殿のお志に、王に代わりまして、深く感謝の意を申し上げます」
ヴォルスが頭を下げ、
「……さて。では、その次ですが」
話を続ける。
当然だ。褒賞金はまだ、九千万ゴルド残っている。
「ミレーヌ殿。他にまだ、お考えはありますでしょうか」
「はい」
もう一つ、用意しているものはある。
「褒賞金に課税することは、可能でしょうか」
これは自分の案。
ヴォルスが応じる。
「課税、ですか」
「はい。市場で物を売れば市場税がかかります。街道を通れば通行税がかかります。お金が動くところに税がかかるのであれば、褒賞金も同じではないかと」
「なるほど。そのお考えは筋が通っています。が、少々難しいですね」
「難しい……ですか」
筋は通っていると言ったのは、ヴォルス自身ではないかと、ミレーヌが内心で首を傾げていると。
「はい。今回の褒賞金は王が自らお与えになるものです。王の恩賜に、王の政府が課税する。これは、与えておいて取り上げるということに他なりません」
「ああ……」
そういうことか。
「分かりました……先ほどの寄付の話と、根本的には同じなんですね」
「おっしゃる通りです。王が勇者に報いると宣言し、国を挙げてそれを祝った。その同じ国が、渡した金の一部を税として召し上げる。これは王の恩賜の価値を、王の権威を毀損する行為となります。それも、王自身の手によって」
「はい」
「褒賞金に課税すること、それ自体は、先ほども申し上げましたように、あり得ます。ただし、それには、“国王からの”褒賞金でなければ、という条件がつきます」
「分かりました。これも、取り下げさせていただきます」
「申し訳ありません」
課税案は悪くなかったものの、王からの恩賜には税金はかけられない……いや、ちょっと待った。
今の話にあった通り、王からの恩賜には税金はかけられない。
なら、かけるものが、税金“ではない”のなら?
「閣下」
「はい」
「税の代わりに、冒険者ギルドの上納金を使うのは、いかがでしょうか」
「ほう」
ヴォルスの目が動いた。
「冒険者は、ギルドから斡旋された仕事で得た収入の一割を、ギルドに上納する。これは、ギルドの自治的な制度ですよね。国が定めたものではなく」
「その通りです。ギルドが独自に設けている慣行――と呼ぶには制度として固まってますが――いずれにせよ国の税制とは別の仕組みです」
「これは推測になりますが、その上納金はギルドの主な収入源の一つで、ギルドはそこから運営の費用を捻出し、そして国に税を納めているはずです」
「その通りです。正確には税ではなく、ギルドからさらに国への上納金の取り扱いとなりますが、実質的には、今おっしゃった通りの流れとなります」
名目上は税ではないというのは少々意外だったが、大筋では想定していた通り。
これなら、行けるかもしれない。
「私たちは、全員が冒険者ギルドに所属しております」
「はい」
「今回の褒賞金は、ギルドから布告されました」
「はい」
「ということは、この褒賞金は、王様からのいただきものであると同時に、ギルドを通じた報酬でもあり、上納金の対象になるのではないでしょうか」
「なります」
ヴォルスが頷く。
「現行の上納率は一割ですから、褒賞金が上納の対象であれば、九百万ゴルドがギルドに入ることになります」
「はい」
「ギルドに入った上納金の一部は、国への上納として国庫に流れています。でしたら、今回の褒賞金から発生する上納金を、そのまま国への上納に回すことで、実質的に国庫に戻すことができるのではないでしょうか」
「それは、大変有効な、ありがたいご提案です。が、そのままでは難しい」
これもか。
「難しいですか」
「はい。ギルドに入った金をどう遣うかは、基本的にはギルドの裁量です。上納金の全額を国に納めろ、と命じれば、ギルドの自治を侵すことになります。それに、国がギルドの特定の収入を接収したという事実が残りますと、それは実態として、王の恩賜に手をつけたのと変わらなくなる」
「……そうですか」
ここも結局は名目の問題、ということだ。
「ただし」
ミレーヌが黙ったところに、今度はヴォルスの方から切り出してきた。
「ただし?」
「接収という形は取れません。ですが、順序を変えることで、実質的に同じような結果にすることでしたら、可能です」
「順序……ですか?」
「はい。つまり、こういうことです。国が褒賞金をお渡しする際に、ギルドへの上納分を、あらかじめ差し引いておく」
「……あ」
「皆様が褒賞金を一度受け取って、そこからギルドに上納金を納める代わりに、国がその分をお預かりした上で、残額をお渡しする。名目としましては、“わざわざ一旦受け取って改めてギルドに納める手間を省くため”とでもしておきましょうか」
「なるほど……あれ」
そういう名目の使い方もあるのか、と感心する一方で。
「そうしますと、国がギルドに九百万の借金を負う、ということになりませんか?」
「そうなります。が、そこから先は、あくまでも国とギルドとの間の処理の話です」
「あ、なるほど。勇者一行とは無関係だ、と」
「そういうことです。後は我々にお任せください」
「承知しました」
そこから、「よろしくお願いします」と続けようとしたら、ヴォルスの声が被さってきた。
「……ではあるのですが、それで済ませてしまうのも少々乱暴かと思いますので、もしミレーヌ殿がよろしければ、その処理の中身も簡単にご説明させていただきますが、どうされますか?」
ミレーヌとしても異存は無い。
レクト達に説明する際に、中身も知っておくに越したことはないし、それに、この九百万をどう処理するのかにも、少し興味がある。
「はい、よろしくお願いします」
「ありがとうございます。では」
ヴォルスが立ち上がった。




