第7話
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前回の会談から七日後、ミレーヌは一人で王城に向かった。
執務室に通されると、ヴォルスは前と同じ机の向こうに、前と同じ姿勢で座っていた。目の周りの隈の深さまで同じように見えて、まさかあれからずっとここにいたのでは、などというあり得ない想像が、ふと頭に浮かぶ。
「お忙しいところ恐れ入ります、僧侶殿」
「こちらこそ、お呼びいただきありがとうございます」
ソファに座ると、前回と同様形式的な前置きは抜きで、ヴォルスの方から、先の話を受けて国王に報告を上げたこと、偽装工作については王も承知していること、王は詳細を財務大臣に一任したこと、などの説明が行われる。
その後、ミレーヌの方から自分たちの側の状況を伝えた。
「承知いたしました。お一人当たり千二百五十万、合計五千万までなら、ということですね。こちらの勝手な都合にご協力いただきまして、深く感謝いたします」
「いえ……でも、五千万でも無理なのではないですか?」
「おっしゃる通りです。五千万でも無理なことには変わりありません」
「そうですよね……」
「ただ、そこまでは何とかする余地ができた、というだけでも、大きな意味があります」
「そうですね」
「もっとも、余地ができたことと、その余地を埋めることとは、同じではないのですが」
「そうですね……」
褒賞金を払ったことにして実質減額するための案を四人で考えていて、そのことを痛感した。
「さて、ここから具体的な話に入らせていただきますが、その前に改めてお伺いします。先ほどいただいた条件の範囲内ならば、僧侶殿が勇者殿ご一行の全権をお持ちである、ということでよろしいでしょうか」
「全権というほどではありません。必要に応じて持ち帰らせていただくことも、あるかと思います」
「承知しました。では、話を進めさせていただきます」
「よろしくお願いします」
一旦立ち上がったヴォルスは、机の上から書類を取り、そのうち何枚かをミレーヌの前に置いた。
残りを持ったまま座り、話を始める。
「まず、現状の数字を共有させてください。本来であればお見せできるものではありませんが、これがなくては話になりませんので」
ミレーヌは書類に目を落とした。ヴォルスが内容を読み上げていく。
「昨年度の歳入が、およそ一千八百万ゴルドです。内訳は、土地からの租税が金額換算でおよそ七百万相当、市場税と通行税が合わせて六百万、王領地からの収入が三百万相当、その他が二百万。戦前は二千二百万ほどありましたが、戦禍による農地の荒廃と交易の縮小で、大きく落ち込んでおります」
ミレーヌは頷いた。前回「一千万で歳入の半分以上」と言っていたのと辻褄が合う額。最初の会談の前に想像していた数字よりは多かったが、一億には遥かに遠い。
「続いて歳出ですが、昨年度は約一千七百五十万ゴルドです。軍の維持、戦後の復興事業、官吏の俸給、街道や街の修繕。これでも、必要な支出を相当切り詰めた数字です。この二つの差し引きで、国が自由に動かせる金額は、年間で五十万ゴルドということになります」
「はい」
「本当に限界まで支出を抑え、収入を増やせば――これは、王家の皆様方と国の役人の生活を顧みず、民が逃散してしまわないギリギリまで搾り取れば、という意味ですが――そこまでやれば、百万程度まで増やすことは可能かもしれません。が、それ以上は決して、国全体を逆さに振っても出てきません。これが今のこの国の余力の全てです」
百万ゴルド。一億ゴルドの百分の一。
自分たち以外の全てを犠牲にして、全額を褒賞金に回したとして、払い終わるまでに百年、半分だとしても五十年。到底現実的ではないし、なによりレクトがそんなことは承知しない。
「これを踏まえまして、褒賞金をお支払いした“ことにする”方策を考えていかなければならないのですが」
「はい」
「もし、僧侶殿の方で、何かお考えがありましたら、それを先にお聞かせいただいてもよろしいでしょうか?」
ヴォルスが訊いてきた。
特に探りを入れてきているような感じは無いし、隠すようなことでもないので、素直に答えることにする。
ミレーヌは息を吸い、口を開く。
「はい、例えば、褒賞金の一部、二割か三割程度を、勇者から国に寄付するのはいかがでしょうか。復興のための資金として役立てていただきたい、という理由で」
これはレクトの案、というより本心。
ヴォルスは顎に指を当てて少し考えた後、答える。
「お気持ちはありがたく頂戴いたします。ですが、難しいかと存じます」




