第6話
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「筋が通らねえな」
ガルドが言った。
「褒賞金が払えないから減らす、それは構わねえ。払えないけど国から減らすわけにはいかないから辞退してくれ、これもまだ分かる。けどよ、“払えないけど、辞退もさせない、だから払ったことにさせろ”ってのは、おかしくねえか?」
「……うん」
その通りである。
「それに、減らすにしたって限度ってものがあるでしょ。その言い方で二割でも不可能ってことは、実際は一割とかそんなんでしょ。さすがにそれは、受け入れられない」
エルフィが言う。
「……うん」
ミレーヌは言い返さない。そもそも言い返せない。
二人の言うことは正しい、筋が通ってないのも、限度を超えているのも、国の方であって自分たちではない。
「そもそもその“二割も無理”は本当なの? その気になれば数字なんていくらでも作れるでしょ」
「本当だよ。あの大臣は嘘をつくような人じゃない」
エルフィの疑念をレクトがあっさり否定する。
「そう」
エルフィもあっさり引き下がる。本気で疑っていたわけではないようだ。
「それで……どうする?」
「うーん……今言った通りだ。協力するのは構わねえけど、なんか筋が違わねえか」
「私もさっきと同じ。協力するのはいいとしても、限度ってものはあるわ」
ガルドもエルフィも、「褒賞金を支払った“ことにする”ための工作」について、頭から反対しているわけではない。ミレーヌが賛成の立場を取ることも、その理由も、ある程度理解はしてくれている。ただ、それぞれ譲れないところがある、という状況。
「そもそも、辞退できねえってなんだよ。受け取らなきゃいいだけなんだから、勝手に辞退するだけで終わりじゃねえの」
「あーガルド、それ無理。それができるくらいならそもそもこんな話になってない」
「無理? なんでだよ、エルフィ」
「それをやると、“国は一億ゴルドの褒賞金を引っ込めてないのに、勇者が受け取らない。つまり何か含むところがあるはずだ”と見られて、最悪、国内の反乱勢力に担ぎ上げられる、とかまである」
「なら外国に行っちまえば」
「反乱分子の旗印が、この国に対する外交の手札になるだけね」
「なんだそれ。打つ手無しじゃねえか」
「……うん」
「まあ、状況は分かったわ。その、褒賞金を支払ったことにする偽装工作に協力すること自体は、反対しない」
「ありがとう、エルフィ」
「ただ、金額は妥協しない。全額とは言わないけれども、その半分、一人当たり千二百五十万、限界まで譲歩して一人当たり一千万。これ以下には、絶対に譲らない」
「分かった」
「俺も、協力するのは嫌とは言わねえし、金額も今のエルフィと同じでいい。ただ……なんかスッキリしねえな」
「……そうだよね」
実際に筋が通っていないのだから、ガルドがそう言うのは、当然だ。
「レクトはどうなんだ?」
ガルドがレクトに話を振る。
「俺も、同じ条件でいいよ。なんなら俺の分はみんなに回しても」
「それはねえ」
「それは無い」
レクトの申し出を、二人が即断る。
「お前が金を受けとらないなら、俺も受け取らねえ。ミレーヌ、これも、条件に加えてくれ」
「レクトにお金を恵んでもらうなんてまっぴらごめんよ。それなら貰わないほうがまだマシ」
「分かった。じゃあ俺も、二人と同じ条件で」
「あんたもよ、ミレーヌ。勝手に自分の分削ってこっちに回したりしたら、ただじゃおかないからね」
「……分かってる」
まさにそうしようと考えていたところに、きっちり釘を刺される。
「でも、やっぱりなんか、納得いかねえな……いいように利用されてるような。なあレクト、そう思わねえか?」
ガルドが懸念を示す。
「大丈夫だよ」
「何がだよ」
「あの大臣は、そんな人じゃない」
「そうは言うけどよ……というか、なんでそう言えんだよ」
「うーん……何がどうって訳じゃないけど、なんか、“払いたがってる”ような気がしたんだよ」
「払いたがってる?」
「うん」
「んなわけあるかよ」
「だから気がしただけだって」
「気がしたって……まあ、お前がそう言うなら、そうかもしれねえけど」
「それにさ」
「なんだよ」
「俺は、この国が好きなんだ」
「突然なんだよ。知ってるよ」
「だから魔王を倒したくて、みんなに手伝ってもらって、倒した」
「ああ、そうだな」
「褒賞金が欲しくないわけじゃないけど、それよりも、ただ単に魔王を倒したかったから倒したようなもんで、それは結局この国のためでもあって、だからこそ褒賞金が出てるんだと思う」
「そりゃそうだが、だからなんだよ」
「だから、国のためにやったことのための褒賞金をどうするか、のための話し合いなら……まあ、協力してもいいんじゃないか?」
ガルドが頭を掻く。
「お前なあ……ま、分かったよ。確かに、そうするしかない以上、協力するのも筋っちゃ筋だ。ミレーヌ、俺も、賛成でいい」
「ありがとう、ガルド」
何とか話がまとまり、ミレーヌは安堵する。
少なくとも、今すぐ交渉が決裂して、勇者一行が反乱勢力扱いされたり他国に亡命する羽目になったりする可能性は、だいぶ低くなった。
交渉は原則としてミレーヌに一任すること――レクトがいると向こうがどっちを相手にすべきか迷うかもしれないから――も決められた。ミレーヌ自身はエルフィを推したが、忙しいからとすげなく却下された。
その後、褒賞金を払った“ことにする”案をいくつか出し合って、話し合いは終了となった。




