第3話
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謁見が終わり、四人は王城の一角にあてがわれている客室に戻った。石造りの広い部屋が一つに、寝台が二つずつ置かれた寝室が二つ。暖炉には火が入っていて、卓の上には果物の鉢と水差しが置いてある。
「おー、終わった終わった。これで終わりか?」
暖炉の脇で、胸当てを外しながら、ガルドが言った。
「今日の謁見で、式典関係は終わり。明日、軍の報告会に参加して、それで最後かな」
「ようやくか。宴会も最初は良かったけど、こう毎日毎日じゃさすがに飽きてくる。王城暮らしは緊張するし、早く兵舎に戻りてえ」
ガルドは元々王城勤めで、兵舎に住み込んでいた。
窓際で外を眺めていたエルフィが応じる。
「もう部屋無いでしょ」
「頼めば用意くらいしてくれんだろ、たぶん」
「そうね。まあでも、私は、ここの生活も、結構良かったけどな」
「良すぎて困る」
「まあ、それもそうね。こっちもいい加減学院に戻らないと」
エルフィは魔術学院所属の魔術師で、子供の頃から学院内の寮で暮らしている。
ソファに座っているレクトに、ガルドが声をかける。
「レクトは家、どうすんだ?」
「どうするかなー。とりあえずどっかの宿かな」
魔王討伐に行く際に、住んでいた部屋は引き払ったと言っていた。
ミレーヌは、元いた神殿に戻る予定。
「お金、大丈夫なの」
ミレーヌがレクトに訊く。
魔王討伐の間、現金はミレーヌがまとめて管理していたので、レクトはほとんど持っていないはずだ。
「討伐に出る前に銀行に預けといた分もあるし、大丈夫だよ」
「そう、それならいいけど」
この国には国営の銀行があって、そこに自分の金を預けたり引き出したりすることができる。それならまあ、当面は大丈夫か、と思っていると、ガルドの声がした。
「金の心配なんかいらねえだろ。今や俺たちゃ大金持ちなんだぜ。一億ゴルド、四人で割っても二千五百万。宿なんか丸ごと買い上げたっていいくらいだ」
「ああ、ええと、それなんだけど……」
「ん? どうした、ミレーヌ」
いい加減、この話をしないといけない。
魔王を倒した喜びに水を差さないようにと――あと、単純に言い出しにくいのもあって――明日には、明後日には、謁見が終わるまでは、と先送りにし続けてきたけど、いつまでもは引き延ばせない。
「みんな、ちょっと聞いてくれる」
「なんだよ、改まって」
「その一億ゴルドの褒賞金なんだけど……たぶん、出ない、と思う」
「は?」
胸当てを外し終わったガルドが、椅子に座りながら言った。
「出ないって、どういうことだよ。国が嘘ついたのか」
「嘘というか……国は、褒賞金を出したくても、出せない、かな。この国にそれだけのお金は無い、はず」
「なんだそれ」
レクトが少し考えて、言った。
「じゃあ、辞退すればいいんじゃないか」
やっぱり、と思う間もなく、ガルドが抗議の声を上げる。
「おいおい待てよ。なんで俺たちが辞退するんだ。命を張って魔王を倒したのは俺たちで、一億ゴルドは最初からの約束だろ。お前が金に頓着しないのは良く知ってるが、それを俺にまで求められても」
「別にガルドたちの分まで辞退しろとは言ってないよ。俺の分の話」
「お前の分だけ辞退してどうなるんだ?二千五百万減れば払えるようになるのか?」
ガルドがミレーヌを見る。
ミレーヌは首を横に振る。
「たぶんだけど、一人分も難しいと思う」
「だろ。一人分でも難しい。で、俺は辞退するつもりは……まあ、多少減るくらいは構わねえけど、全部辞退することは無い」
「私も」
とエルフィ。
「ほら、お前一人が辞退したところで意味ねえだろ」
ガルドの言う通りである。言い方が荒いのは、欲の無いレクトが損をしないようにという気遣いを隠すためだということは分かっているが、実際問題、一人や二人辞退しても、おそらく意味は無い。
窓枠から背を離したエルフィが、口を開いた。
「それに、辞退することそのものが問題になり得るわ。王様が一億ゴルドを約束したことは国中が知っている。それを勇者が辞退したとなれば、民も、よその国も理由を知りたがる。なぜ辞退したのか、もしかして何か裏でもあるのか、ってね」
「そうね。一部ならともかく、全額を辞退するというのは、かなり難しいと思う」
「そっか」
レクトはあっさりと頷く。
次に口を開いたのは、ガルドだった。
「金がねえんなら、物で貰ったらいいんじゃね?土地とか城とか、ほらあの、魔王城にあった財物とか。あそこ、奥の方にいろいろ転がってたじゃねえか。あのでかい宝石とか。あれ一個でかなりの金になるんじゃねえの」
窓際からエルフィが答える。
「あの宝石ねえ。確かに珍しい色だったし、魔力の残滓もあったから、競売にでも出せばそれなりの値はつきそうだけど、でも、それじゃ全然足りないんじゃないの、ミレーヌ」
「うん」
「足りない?」
「なんていうか、そう、桁が違うの。仮にあの宝石に、ありえないくらいの金額、例えば百万ゴルドの値段がついたとしても、一億の百分の一にしかならない」
「百万でそれかよ……」
「土地や城も同じ。王城を全部貰ったところで、たぶん一億には全然届かない」
「なんてこったい……」
ガルドが天井を仰いだ。
エルフィが、再び口を開いた。
「他国に持ってもらうのは……だめか。どこもそれぞれ戦ってたもんね」
ミレーヌは無言で頷く。
どの国も魔王の侵攻を受けていて、自分たちの手で魔王軍と戦っていた。この国が勝手に出した褒賞金を他国が肩代わりする理由は無い。
四人の間に、沈黙が降りる。
レクトが言った。
「……ミレーヌ、どうする?」
そこで自分に振るのは、たぶん正しい。お金の話は、会計に。
ただ、正直、ミレーヌ自身もどうすればいいのか、分かっていない。
謁見の時から、いや、そのもっと前、王都に戻ってきてから、ずっとそのことばかり考えている。頭の中で案を出しては、却下することの繰り返し。今四人で話し合ってみても、自分たちにはどうしようもなさそうだということが、嫌というほどよく分かる。となると……。
ミレーヌの頭の中で、謁見の間で見た人物の姿が、浮かび上がってきている。
「なんにしても、会ってみないとダメかな」
ガルドが眉を上げた。
「会うって、誰に」
「財務大臣」




