準決勝1試合目 淑女たちのランバダ
準々決勝が終わり、ここに四人の強者が出そろった。
一回戦勝者、桃山桃子――自称婚活アドバイザー。
二回戦勝者、佐々木赤也――フリーター。
三回戦勝者、堤下平次郎――元交通整理員。
四回戦勝者、輝欄欄――インフルエンサー。
以上の四名をもって、第二ラウンドとなる準決勝を執り行うこととなった。
準決勝第一回戦、ランダムに抽選された対戦カードは――
「……へぇ、あなたとなんですね」
「まぁ、よろしくお願いしまーす」
桃子VS輝欄欄――自称婚活アドバイザーとインフルエンサーの戦いだ。
両者の間には、静かながらもすでにバチバチと火花が散っている。
『さぁ~いよいよ準決勝ラウンドの開始だ! そしてそしてぇ!ここに来て、なんと女性対決――さあ、どんな戦いを見せてくれるのだろうかぁッ!?』
勝ち進んだ者同士の戦いということもあり、場内アナウンスにも思わず熱が入る。
「……ちょっとアナウンスの人、うるさいですよ?」
『……は、え……?』
「そうそう。 配信の邪魔しないでくれる~?ノイズが入ってうざいんですけど」
『あ……ご、ごめんなさい』
アナウンサー、敗退。
職務を全うしていただけに、とんだとばっちりである。
「さっ、静かになったことですし始めましょうか?」
「そ~ですね。 早く終わらせてあげないと、おばさん立ちっぱなしでキツイでしょ?」
「おっ、おばっ……!?」
桃子、ピキる。
――が、一つ深呼吸してすぐさま反撃。
「……ハッ、あんたみたいな小娘に何言われようが気にしないわよ。 人生経験の少ないガキの戯言を真に受けるほど、ワタクシは子どもじゃないわよ」
「人生経験豊富、ねぇ……それってつまり自分はおばさんですよ~って認めてるようなものじゃないの?」
「おっ、おばっ……!?」
おばさん(桃子)、ピキる。
更年期はまだ先だというのに、おばさんという単語にひどく神経質なようだ。
「人がおとなしくしてれば好き勝手言いやがって……あんたなんて、所詮作り物のくせに」
「なんとでも言ってくださ~い。 作り物のこの顔を、好き好き言ってくれる人たちのおかげで生活できてるんで」
清々しい程の開き直りを見せる輝欄欄。
生配信のコメント欄は多少荒れたが、この時の彼女の姿勢に熱狂的なファンがついたのは言うまでもない。
「……そう、あんたって、とことん自分に自信が無いのね」
「……はぁ? どーいう意味よ」
「そんなことも分からないの? 自分に自信が無いからあんたは整形に手を出してんのよ。 色んな言い訳つけて自分を正当化して……まさに薄っぺらい、表面だけの人間ね」
桃子、怒涛の連撃。
これには輝欄欄も黙っていない。
「はぁ、意味分かんねーし。 私はただ可愛くなりたいから整形しただけだし。 ってか、あんたの今の発言はいろ~んな人を傷つけたと思うよ~? どー思う、フォロワっさん!」
彼女は自撮り棒に向かって泣きまねをしてみせる。
それ見た桃子、大きなため息をつく。
「まったく……それよ、それ。 のらりくらりと嫌なことから、都合の悪いことから逃げ続けた結果がそれでしょ? あんたはフォロワーが大事なんじゃなくて、自分に価値をつけてくれるフォロワー数という数字だけが大事なのよ」
「……はぁ?さっきから意味分かんねーし。 ってか、私のフォロワーさんに失礼じゃね? そんなんだから、恋人の一人もできないんだよ……この、ババア!」
討議場は、かつてない程ピリついていた。
お互いを睨み合い、異様な静寂が辺りを包む。
「……うっせ、ガキが」
桃子、ぼそりと呟く。
「そっちこそ、ババアが」
輝欄欄も、ぼそり。
「……チービ、人造人間」
「……胡散臭い、厚化粧」
「金儲け主義、見た目だけ女」
「万年独り身、寂しい人生」
「バーカ、アーホ」
「バカって言ったほうがバーカアーホ」
――幼稚。
それは、およそ成人した女性とは思えない稚拙な口撃の応酬。
「――ブス」
「……ブ~ス」
そして、両者の空気が変わった。
「ブス、ブス」
「ブスブス、ブ~ス!」
ブス――それ以外の言葉は、いらなかった。
両者は互いに互いを「ブス」と罵り合いながら、ツカツカと歩み寄る。
「ブスブスブスブスッ!」
「ブスブスブスブブスブスッ!」
より強く、より早く。
技術も心理戦もない、真正面からの壮絶な撃ち合い。
これが、大人の女の姿である――!!
熱気溢れる口喧嘩……これにはアナウンサーも黙っていられない。
『おぉ~っと、凄い……凄いラッシュだ!! 互いに譲らないッ! 私のほうがかわいい……私のほうがモテるッ!意地と意地のぶつかりあいだぁッ!! 果たしてこの壮絶な罵り合いを――あっ、あぁっ!?』
アナウンスが乱れる。
それよりも激しく乱れていたのは、討議場だった。
「――この……!!」
「何よっ……!!」
そこには、目も当てられない光景が広がっていた。
殴る、引っ掻く、噛みつく、ビンタ――そこにあったのは、シンプルな暴力。
これはこれで悪くない――そういった趣向に目覚めた紳士も少数いたが、これはあくまでも相手の戦意を折る競技である。
非格闘技を謳っていながら、手を出す行為はご法度――審判団は事態を重く受け止め、両者を反則負けとした。
だが、二人には結果など関係なかった。
審判団が無理やり止めに入るまで、彼女たちの戦いは続いた。




