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総合非格闘技AMMA~マウスウォッシュ・ファイトクラブ!~  作者: スギセン


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3/6

準々決勝3回戦 激闘、デュフン

フリーターがスマートな勝利を収め、続く三回戦。

 観客たちは次の試合展開がどうなるものかと、固唾を呑んで見守っていた。

 

 して、その会場でやたらと辺りを気にする討議者がいた。


「あっ、えぇ……うわぁ、ほ、本当に来ちゃったぁ。 デュ、デュフフフ」


 中肉中背、チェックのシャツに大きなリュック。

 キョロキョロと辺りを見渡す猫背の男は、栗田健正くりた けんせい

 

 リュックからはみ出した丸まったポスター、ブラブラと揺れるアクリルキーホルダー……誰がどう見ても、()()()()()()()のオタクである。


 対する討議者は、冴えない初老の男性――堤下平次郎つつみした へいじろう

 定年退職した元交通整理員である。


 親と子以上も年の離れた二人は一体、どんな論戦を繰り広げるのか――。


「……おまえさんあれか。 オタクってやつだろ? 気持ち悪ぃなあオイ」


 この男もまた、()()()()()()()のジジイであった。

 

 先手を仕掛けたのは、堤下。

 失礼極まりない一手だが、彼にとってはごく自然な感覚なのだ。 



 老害VSオタク――。

 さほど観客の興味の湧かないマッチではあるが、何が起こるか分からないのが総合非格闘技(A M M A)の醍醐味でもある。


「デュフフ、唐突なディスり乙……ww そんなこと言って……あ、あんたこそ、あれだろ? ろ、老害ってやつだろ」

「あぁ? でたよ、最近の若いもんは、何かあるとすーぐ『老害だー』『パワハラだー』だの……いいか、オレの若い頃なんかは――」


 始まった――。

 老害特有の”最近の若いもん”という勝手なカテゴライズ……そして、後に繰り出される自分語り。  

 ガチガチの固定観念が為せる技である。


 観客もこれには辟易として、自身のスマホに目を落としかけたその時――爆音が響いた。


『キュンキュンキューンッ! みんなのハートに、萌えキュンキュンッ! 世界のアイドル、ぷりんちゃんだよー♪』

 

 万年地下アイドルの、星姫ぷりんの声――音の発生源は、栗田のリュックだ。


「……き、気色悪い音出しやがって。 まさかオメェ、そのリュック……」

「デュフフ……ご明察なり」


 栗田、渾身のドヤ顔。

 そう、彼のリュックはただのリュックにあらず――スピーカーを内蔵した、栗田特製リュックなのだ。

 いついかなる時でも愛するぷりんちゃんの声を聞くための、公害兵器である。


 これには、さすがの堤下も審判団もドン引き。

 つまり、()()()()()


 ――だが、このリュックは栗田にとっても諸刃の剣であった。

 

「ぐ、ぐふぅっ……」

『おぉっと!? 栗田選手、膝をついたぁ!!なんでだぁっ!?』


 栗田、突然苦しみ出す。

 それもそのはず……スピーカー内蔵の特製リュックは、総重量にして三十キロを超える。


 ひ弱な栗田は身に着けているだけで、体中の筋肉が悲鳴を上げる代物だ。


「そ、それでも……拙者は、ぷりんたんの為に……ッ!!」


 栗田、立ち上がり漢を魅せる。

 栗田、生まれたての子鹿のように震える。

 星姫ぷりんのアクリルキーホルダーがカタカタ鳴った。


「……ふふっ、おまえさん、見かけによらずなかなかやるじゃないか」


 堤下は栗田の奮闘する姿に小さく微笑んだ。

 だが、その鋭い観察眼は全てを見抜いていた。


「……おまえさん、もう立つことだって限界だろう。 悪いことは言わねぇ、棄権するんだ」

「ぐっ……! 拙者は、まだ――!」

「ふっ。 そうか……」


 それでもなお屈しない栗田に向かって、堤下はゆっくりと近付いた。


「なぁ……ここだけの話だが、おまえさんの大好きなぷりんちゃんなぁ――もう二十八になるんだぞ?」


「なっ――!? ち、違うっ! ぷりんたんは永遠の十六歳――」


「まあ、そう言うわなぁ。 実はあいつ、ホストに貢いで借金負ってよぉ、これまでに窃盗で何度もしょっ引かれてるんだわ」


「なっ……えっ!?」


 もちろん、嘘である。

 元警察官による、明確な誹謗中傷事案だ。


 しかしながら、社会経験が少なく根が純粋な栗田は……それを信じた。

 星姫ぷりんを信じたいという想いと、警察官が嘘をつくはずがないという思いが衝突――彼の心は大きく揺らいだ。


「ほら、オレ元刑事だから色々と知ってるんだわ。 長年この仕事やってると、嫌でも情報が入ってきちまうんだ。 まあほら、元気だせよ」


「……ぅっ、うぅ、嘘だぁぁぁっ――!!」


 栗田、大絶叫――直後、白目を向いて気絶。

 もともと体力の限界を超えていた所に、心の支えが揺らいだのだから無理もない。


『おぉっと!! 栗田選手ダウーーンッ!!! 討議続行不可能により、堤下選手の勝利!!』


 電光掲示板に堤下の名前が表示され、歓声が沸き起こる。


「ふんっ、コロッと騙されるほうが悪いっつうんだよ」

 堤下、フンッと鼻で笑って討議場を後にする。


 堤下平次郎――趣味、刑事ドラマ鑑賞。

 二度の離婚歴有り。

 このジジイ、狡猾にして姑息――。

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