キャンプ③ 夜の恋バナ
「それはもちろんこれですよ。こういうときに話すことといえば…」
「恋バナです!」
ジアッドは自信満々に言った。そしてそれを聞いた他2人はというと、
「このメンバーでそれやる?」
「面白くなさそう。」
などと不満の声をもらす。
ただ、彼はやるつもり満々のようで。
「いやいや、案外話し出してみると楽しいものですよ。だから、やりましょうよ。」
「そんなに人の恋愛事情を聞きたいのね。」
「面白いじゃないですか。そういうことって。」
「わかったわよ。そんなにしたいならやりましょう。で、誰から話すの?」
「…」
「…」
「誰も立候補する人がいないならジアッドが最初ね。」
「ええ、なんで?」
「発案者だから。恋バナの。それだけよ。」
「いや、そんな理由ならノア様を先にしましょうよ。やっぱ大人は話すことが深いですから。まず子供の可愛らしい話を先に聞くべきだと思います。」「確かに。それは私も同感かも。てことでいいかしら、ノア?」
「恋バナって何を話せばいいのか分からない。」
「それなら私がいろいろ質問しますから。それに答えてください。」
「あんま変なこと聞かないでよ、ジアッド。」
「それくらい分かっています。」
「ではまず1つ目。現在好きな女の子はいますか?」
「ぶふっ」
私は思わずふきだしてしまった。
「ずいぶんストレートに聞くのね。」
「ええ、子供にはこれくらいがちょうど良いのです。ということなので、どうですか?ノア様。」 「好きな人なんていない。」
「本当か気になりますが…そうですか。それは非常に面白くない。なら過去に好きだった人は?」
「それもいない。」
「本当に?さすがに1人くらいはいたでしょう?」「本当にいない。」
「ちょっとジアッド、あんまりノアをいじめるのはかわいそうよ。」
「これは仲良くお話ししているだけなのに…」
「ならこれで質問は最後にします。好きなタイプは?あ、これはどんな感じの人が好みかという質問です。」
「…優しくて、明るい人」
ノアはボソッと言うと、すぐに顔をぷいと背けた。
「なるほど。ノア様もそういう人が好きなんですね。わかりますよ。やっぱそういう女はいい。」
「ジアッドもそういう感じの好きな人がいたの?」「ええ、いましたね。ということでノア様のお話はやめにして次は私のターンにしましょう。あ、最後はセシル様なので。いい話を聞けることを楽しみにしています。」
そう言って彼は話しはじめた。
私が生まれたのは平民の一般家庭です。そしてそのままそこで育ちました。私は勉強は嫌いで1日中体を使って遊んでいるようなわんぱくな子供でした。いつも友達と一緒に森などに出掛けていましたね。あ、私の住んでいるところは田舎だったので。森が近くにあったんです。
その頃は日が暮れるまで遊んでいたのでいっつも怪我をしていました。そしてそのたびに1人の女性に怪我を治してもらっていました。その方は魔法治療師で。貴族のご令嬢だったのですが、自分の練習のため、ということでいつも無料で私たち平民の怪我を治してくださっていました。
本当に天使のような人でしたね。美人で優しくて明るくて。私にも毎回優しく話しかけてくれました。そうやっていつも怪我を治してもらっているうちに私はその女性に惹かれていったわけです。まあ、他にもその人のことが好きな人はたくさんいたと思いますが。
ただ、あるときその女性は突然姿を消してしまったのです。きっと一人前の治療師になってこの土地を出ていったのでしょう。そのときの私の落ち込みぶりといえば、すごかったですよ。本当に何もやる気力がなくなって。ごはんもまともに食べないようになりました。ちょうどこの前のノア様のような状態でしたね。
まあその後、ものすごい努力をしてその女性と再会したんですけど。ただもうその頃には結婚してしまっていて。これでまたひとつ絶望しましたね。
今ではその方とはお会いできないのですが。
きっとこれは私にとっての初恋で最後の恋だと思います。
ジアッドがやっと口を閉じた。
話を聞いていた私は彼に同情していた。
「とても、悲しいお話ですね。その人のために頑張ったというのに、結婚してただなんて私ならもう自殺するレベルです。」
「本当にあのときはふざけるなと思いましたよ。」「そうですよね、悲しいですよね。」
「もう私の話はやめにしてセシル様の話を聞くことにしましょう。この悲しい雰囲気を明るくしてくださいよ。」
「私ですか。話すのは絶対?」
「絶対にです。私はちゃんと話したのですから。」
「分かりましたよ…」
本当は話したくないが、あのことを話すか。
私は過去のことをぼそぼそと話し出した。
私は小さい頃に魔力がある、とわかったので子供の頃は魔法学校に通っていた。魔法学校といいつつも、普通の学校で習うような勉強もしたが。
私の学年に治癒の魔法の使い手は2人。自分とあともう1人男子がいた。基本的に普通の授業のときは他の魔法の子たちとも一緒で魔法の授業のときだけは2人だった。一緒にいる時間は長かったものの、私たちは常にライバルであまり仲は良くなかった。まあ彼があまり陽気な性格ではなかったのもあるが。
ライバル。確か学校でのテストはすべて私か彼が1位と2位のどちらかをとっていた。毎回、2人で競争をしていた気がする。魔法の面ではお互いに得意なことが少し違ったのであまりライバル意識があったわけではないが。
ただ、彼といるときは変に気を使う必要がなかったからとても楽だった。よく論争をしていたことを覚えている。お互いに言いたいことを言いまくっていたなあ。そして両方、絶対にゆずらない。でも言い合いをするのも本当に楽しかった。
そうして長く一緒にいるうちにいつの間にか好きになっていた。ただ、彼は私にあいかわらず塩対応で私に興味なんてこれっぽっちもなさそうだったな。
ただ、1回だけ抱っこされたことがあった。それは私が何かやらかして歩けないくらいの怪我をしたとき。自分で治せないこともなかったけど。今にも気絶しそうだったから。そしてそのときに確か私を抱っこして保健室まで連れて行ってくれた気がする。それでその抱っこの仕方がお姫様抱っこだったの!私はもう嬉しくてそっちのせいで気絶しそうだった。そして先生が来るまでそばにいてくれたっけ?あのときは珍しく優しくて、私はとても嬉しかった。だから怪我して良かったとまで思ってたよ。
結局、彼に想いを伝えることはなかったが。
話終わるとジアッドはニヤニヤした顔でこちらを見ていた。ノアは、眠そうだ。
「セシル様の学生時代。たいそう可愛かったでしょうね?やっぱ、モテてませんでした?」
「私の顔の話ですか?モテてたかって…そりゃ何回か告白されたことはありますが…てかあなたも1回くらいはあるでしょう?」
「まあ、そうですね。1人の同級生に告白されました。もちろん断りましたが。」
「そうですか。」
「やっぱこういう可愛らしい話はいいですね。青春という感じで。セシル様も青春していたんですね。」
「…一応。」
「で、その彼は今どこに?」
「さあ?もう長いこと会っていません。きっと生きてはいるんで大丈夫ですよ。なんだって治療師ですから。自分の怪我も自分で治せます。」
「告白すれば良かったのに。」
「いや、絶対にフラれるから。私になんて絶対興味ありませんでしたよ。」
「いやいや、そう考えていても意外と成功したりするのですよ。」
「はあ。」
「ところでもう満足しました?恋バナはやめましょう。」
「セシル様の話を聞けたのでもう満足です。」
「このことは絶対に誰にも言わないでくださいね?絶対ですよ。」
「分かりましたよ。言いませんから。」
こうして私たちの恋バナ大会は幕を下ろしたのだった。




