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セシルの過去

 時間というものはとても残酷だ。人間がいくら待ってくれ、と願っても颯爽と過ぎていってしまう。これは時間が悪いのではないが。悪いのは1日の長さをこれくらい、と決めた人間なのだ。 

私は時間のながれる早さに驚いていた。そしてとても焦っていた。この前、いや結構前にこれから毎日楽しくすごそう!と思っていたのだが…冬は思っていた以上に寒かった。どこか出かけよう、と思っても体が動かず。結局家にこもりっきりのまま春になりかけていた。外では気温が高くなり花々の蕾が綻びはじめている。きっと本当の家の方でも雪がとけはじめているだろう。いや、もうほとんど雪が残っていないかもしれない。いつもならこれはとても喜ばしいことなのだが。今年だけは違った。外から聞こえてくるウグイスの鳴き声がとんでもなく嫌なものに感じられる。私はウグイスを嫌いになりそうになった。


 私がテオドールを探す旅に出るまであと2週間ほどになった。つまり、私とノアが別れるのも2週間後ということだ。時がすぎるのは本当に早すぎる!もうちょっと待ってくれてもいいじゃない。ついこの前、ノアが家に来たばかりなのに。もうお別れだなんて。私はここ1年くらいですっかり2人での生活に慣れてしまっていた。もう1人暮らしには戻れないかもしれない。ひとり暮らしはやはり寂しいから。旅から帰ってきたら誰か適当に一緒に住んでくれる人を探そうかな。それも案外いい気がする。 


外からは明るい日の光がもれてくる。ただ、あまり暖かくはない。ただ、この春の少しつめたい光がセシルは好きだった。これを浴びてこそ春だと思う。家に帰る頃にはいつもこの光が暖かくなっているんだよな。今年は夏くらいまで帰れないかもしれないが。 


セシルは窓際にある椅子に腰掛けていた。まだ普通に寒いのでしっかりと毛布をかぶっている。そしてまだ昼間だったがあまりに気持ちよくて寝てしまった。  





 セシルはシュヴァルツにある一般家庭に生まれた子供だった。兄弟はおらず、いつも父と母に可愛がられて育ってきた。幼いころにはみんなと同じようにお人形で遊んだり、近所に住む同年代の子供とよく遊んでいたのだが…

セシルが10歳のときにいっきに環境が変わった。自分が魔法を使えることが分かったのだ。それも最も役にたつとも言われている治癒の魔法を。魔法を使える人は本当にごくわずかしかいなくて家や町は大騒ぎになった。そして町中の人から期待されるようになった。みんな怪我をすぐに治してくれる魔法治療師が欲しいのだろう。セシルが町を歩いたりすると 

「がんばってね。お勉強。」 

と声をかけられ、何か飴をくれるなどということもあった。そしてそのときに周りにいた子供たちからの羨ましがる視線が忘れられなかった。またよく遊んでいた子供たちも私は勉強で忙しいと親にふきこまれたのか、ぱったりと遊ばなくなり…その子達も最初は会ったときなどに会釈をしてくれたのだが、大きくなってからはそんなことはなくなった。ましてや睨まれたりすることもあった。そうして人と関わることが苦手になっていき…私は家にこもるようになった。魔法が使えるからという理由だけで特別扱いされるのが嫌だったから。私はただ運が良くて魔法を使えるだけっていうのに勝手に期待されて、そして嫉妬されて。魔力を何回恨んだだろう。この魔力さえなければ。そうすれば、普通の子供と同じように過ごせたのに。そしてみんなと同じ学校に行って学校生活を謳歌して…

考えても虚しくなるだけだ。私はとにかく魔法が嫌いだった。家ではずっと本を読んだり勉強をしていて…そのおかげで知識はついて頭は良くなったのだが、運動に関しては皆無だった。あとあと学校に入ってものすごく苦労することになる。身長があまり伸びなかったのもこのせいかもしれない。  



 魔力をもつ子供は13歳で魔法学校に入学することを義務付けられている。そしてセシルも規則通りシュヴァルツの魔法学校に入学することになった。セシルは魔法が大っ嫌いだったのでものすごく嫌だったが…いいことも少しあった。それは生まれ育った町を出て学校の寮に入れたこと。これはものすごく嬉しかった。私はあの町の人や町自体を嫌いになっていたから。もちろん両親だけは好きだったけどね。寮生活は少し寂しかったけど静かでよかった。魔法学校は魔法を使える人が少ない分、生徒数も少ない。そのため寮は1人部屋だった。 



 初めは学校は嫌なものだと思っていたが…いざ入学してみるととても楽しいところだった。本当に。町にいた頃とは比べものにならないくらい毎日が楽しくて彩りのある日々だった。ここは魔法学校だからもちろん魔法を使える人しかいなくて、特別扱いされることもなく。そしてただ1人の生徒として普通に授業を受けていた。そうしていくうちに人間的な関わりも増えていって…私はまた幼い頃のような明るい性格に戻っていった。 

最初に話しかけてくれて友達になったアルフィン、そして同じく治療師を目指すテオドール。2人ともいいライバルであると同時に善き友だった。テオドールは友達というには少し微妙だが。とにかく仲間のおかげで私の学校生活はとても楽しかった。 

そしてもう1人、セシルを支えてくれた人がいる。それがセシルが師匠と呼ぶ人物。マリア先生だった。先生はこの年からこの学校の先生になった人で、とってもきれいで若い女の先生だった。明るくてほんわかとした見た目とは裏腹にとてもすごい人で…普通は治癒の魔法といえば作るか消すかの2択なのに対し、先生は両方の能力をもっていた。先生曰く、 

「消したいものがあるときはそれを消してくれるものを作ればいい。そうすればいらないものは消せる。」 

とのことだった。だから作る魔法のほうが得らしい。私はよく理解できなかったが。先生が病気などに関して頭ひとつぬけた知識を持っているのは前世に地球という星の日本という国で医者をしていたかららしい。そこではここよりはるかに科学技術や医療技術が進んでいたそうだ。前世なんて本当にあるんだとそのときに初めて知った。

少し変わったところはあるし、天才すぎて常人には理解できないこともたくさんあったが、私はとにかく治癒の魔法を使う者としてマリア先生のことを尊敬していた。そしていつの間にか師匠と呼ぶようになっていた。師匠は本当に優しくて、学園においての私の母、いやお姉ちゃんかもしれない。そんな存在だった。






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