ノアの職場体験記録
1日目
特になんにもしていなかった。ずっと私や客の様子を伺っていたようだ。まあ、職場において大切なのはまず仕事の仕方を学ぶこと。今日はとりあえず合格としよう。
2日目
今日は朝に掃除をさせた。いやだといいながらも朝だけは一応やってくれたが、そのあとは何もしてくれなかった。まったく、掃除ぐらいやればいいのに。
3日目
ハーブティーをいれる仕事をさせたら気に入ったのかちゃんとやっていた。ただ、人へ持ってくことはまだ難しいようだ。いれるたびに自分も一杯飲んでいた。
4日目
今日はハーブティーを絶対に自分で持ってかせるぞ!ということだったがいきなり人は難しいかなと思ったので大きなくまちゃんのぬいぐるみ相手に練習させようとした。するとものすごい嫌がられたので、結局人を相手にさせた。
5日目
これからはひたすらハーブティーの仕事をさせよう。
6日目
やっと人に渡すことに慣れてきて、なんとかぼそぼそ話しながらやっていたのだが…なぜか私が欲しいというと、
「セシルはお客さんではないからダメ」
と言われて断られてしまった。うう、解せぬ。自分は飲んでるくせに。てか普通弟子は師匠に従うものでしょ、と思ったが、そもそもノアは私の弟子ではなかった。
そんな感じで毎日のように仕事をし、1ヶ月後…
「これ、ミントとレモングラスのお茶です。どうぞ。」
「どうも、ありがとう。お手伝い、えらいわね。はい、これ飴ちゃん。あげる。」
「ありがとうございます。」
ノアは客への態度を一変させ、とても愛想良く接していた。にこにこしているし、喋り方も変わっている。そうすることでいいことがあるかもしれないということを理解したみたいだ。さっきの飴はいい例だろう。ただ家では前と様子は変わっていないが…まあ、こんな愛想が良いノアは逆になんか嫌だからいいけど。
この店での態度が良くなったことはいいのだが…
仕事中にリバーシをするのは良くないと思う。
そう、彼は治療を待っている人のもとへ近づき、リバーシを申し込むようになっていた。最近では一部の客はここに来たら絶対にノアとリバーシをしてから帰っている。
私としては他の仕事をして欲しいのだが…
お客さんが喜んでいるためリバーシをしてはいけないとはなかなか言えない。
まったく、客を利用することを覚えてしまったみたい。
その日はジアッドが来た。ただノアを見に来ただけでなく、彼も怪我を負っていた。
「いやあ、ちょっとへまをしてしまいまして…治してもらえませんかね?」
ちょっととは…
彼は右手に包帯をぐるぐる巻きにしていた。見た感じ絶対に軽い怪我ではない。
「あの、その怪我、ずいぶんとひどくないですか?」
「少し腕を切っただけです。」
「そうではない気がしますが…いったん見せてください。」
腕を見ると長い切り傷ができていた。そこまで傷は深くないので生活に支障は出ないだろうが…それでもこんな怪我をすることはなかなかない。
「あなたの少しとは…まあいいや。とりあえず治しますね。」
私はいつもどうりに治療を施す。完成形をイメージして魔力を流し、金色の光を確認できたところで私はやっと目を開けた。
よかった、怪我はちゃんと治っている。
「はい、治りましたよ。もうこれで大丈夫です。」
「本当に魔法を使えるのですね。」
「私の魔法を疑っていたのですか?」
「いやいや、絶対に魔法を使えるとは思っていましたが…あまりに見たことがなかったので。」
「あんな田舎に住んでいると、怪我を治す機会が本当にないんですよ。自分のくらいしか。」
「そういえばあの光は何なのですか?」
「ああ、あれはよく分からないけど出るものなのです。とりあえずそういうものだと思っててください。」
「あれは人によって色や形状が変わったりは?」
「魔法の使い方によって多少は変わりますが…なぜそんなことを?」
「いや、深い理由はありません。少し気になっただけです。教えていただきありがとうございました。」
「あ、そうですか。わかったならよかったです。」
「ノア様、なんだか性格変わってません?」
「いや、そうなんですよ。ここで働かせているうちに人を利用することを覚えてしまったみたいで。家では前と同じような性格なのですが…うう、なんだか子供らしくなくなってきてしまった。まったく、困ったものです。」
「そうですか。なんだか良いことなのか悪いことなのか分かりませんね。」
「絶対に悪いことですよ。さっきとかお客さんに気に入られて飴ちゃんとか貰ってたし。私はもらえないのに…」
「いや、ノア様が子供扱いされているだけでしょう。そりゃ、あなたも欲しいといえば貰えると思いますよ。」
「子供扱いされるのは嫌だ。」
「なら我慢するしかないです。それにしても、本当に変わりましたね、ノア様は。」
「そうですか?体調は確かによくなったけど性格はあまり変わっていませんよ?」
「いやいや、性格も変わっていますよ。前より刺々しさがなくなっている。前を知っている私にはよく分かるのです。本当にすごいですね、セシル様は。本当にすごい。」
ジアッドは私の頭をポンポンと撫でてきた。うう、めちゃくちゃ子供あつかいされている。子供扱いしてくるけど…ジアッドも見た目からして十分に若いだろう。この人は一体何歳なんだ?
ジアッドの正体については分からない点が多い。前、平民だということは知ったがそれ以外は全く知らなかった。
「そういえば、あなた何歳なんですか?」
「歳?今27歳です。」
「若っ!ぜんぜんまだ若いではないですか。その歳で王子様つきなんてすごいですね。」
「とても努力しましたから。てか、あなたに若いといわれるのはなんていうか…私はあなたの歳を知っていますから。」
「え?なんで。」
「それは、調べましたから、いろいろと。」
「なんかあなた気持ち悪いですね。ストーカーみたい。」
「いや、仕事なので。」
「ふーん、そういえば前に私に違う仕事があるって言ってたけど、それはなんなんですか?」
「それはまだ言えません。もう少し待ったら分かります。」
私はジアッドの顔に翳りが生まれたことに気づかなかった。




