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婚約者に三度殺された令嬢は、四度目の人生で冷血公爵と契約結婚して破滅を返す  作者: shiryu


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第11話 家族との決別


 父だけが、勝ち誇ったような顔で私を見た。


「おとなしくしろ、アルヴィ」


 私はその場で息を整えた。

 護衛のひとりが、こちらへ腕を伸ばしてきた――その瞬間だった。

 私は半歩だけ身を引く。


 相手の手が届く寸前で身体をずらし、そのまま懐へ手を差し入れた。


「っ……!」


 取り出したのは、扇子型の魔道具だった。

 薄く閉じた扇子の骨組みには、細かな術式が刻まれている。

 ぱっと見ただけでは、上質な装飾品にしか見えないだろう。


 でも、これは違う。

 ジオルドが用意してくれた、自衛のための魔道具だ。


『お前なら使いこなせるだろう』


 そう言って渡された時、私は少し驚いた。

 公爵夫人ともなれば、こういうものも必要なのかしら、と思ったけれど。


 でも本当は違ったのだろう。

 これはきっと、社交用の護身具というより――リュクスから身を守るために、わざわざ用意してくれたものだ。


 まさか、それを最初に使う相手が、両親が連れてきた護衛だとは思わなかったけれど。

 私は躊躇わず、その扇子の先端を護衛の首元へ当てた。


 次の瞬間、ばちり、と小さく嫌な音が走る。


「がっ……!」


 護衛の身体がびくんと大きく震え、そのまま白目を剥いて崩れ落ちた。

 控室の空気が、一瞬で凍りつく。


「なっ……!」


 父が目を見開く。

 母も、ベッラも、声も出ないようだった。

 私は息を整えながら、倒れた護衛から距離を取る。


 すると父が、我に返ったように叫んだ。


「な、何をしている! 早く捕らえろ!」


 もうひとりの護衛が、今度は警戒したように動く。

 さっきのように簡単には近づいてこない。


 けれど、それでも私を侮っているのは見て取れた。

 女ひとり、それも今までまともに育てなかったから、両親と妹は私を「落ちこぼれの令嬢」と見下している。

 護衛もそうだから、本気で負けるとは思っていないのだろう。


 その油断が、甘い。

 私は護衛が腕を伸ばしてきた瞬間、横へ滑るように身をずらした。

 そのまま足を払うように引っかける。


「うわっ!?」


 体勢を崩した護衛が前のめりに倒れた。

 私はすぐにその背へ回り込み、起き上がる前に首筋へ扇子を押し当てる。

 ばちっ、と再び電流が走った。


「――うっ!」


 短い呻き声と一緒に、二人目もそのまま気絶した。

 父が信じられないものを見るような目で、私を見ていた。


「な、なぜそんな動きが……!」


 私はゆっくりと顔を上げた。


「あなた達が頼りないから身につけた力です」


 三度目の人生で逃げるために自衛の力は必要だった。

 だから学んだ、公爵家当主のジオルドと戦ってしばらく応戦できたくらいには。


「いつまでも私が落ちこぼれだと思わないでください」


 ベッラが、はっとしたように息を呑んだ。

 それから、悔しさと混乱が入り混じった顔で叫ぶ。


「無能なお姉様のくせに……! なんであなたがジオルド様やリュクス様に好かれて婚約されてるのよ!」


 その言葉に、胸の奥で冷たいものが動く。

 リュクスに関しては、好かれている、なんて言葉で片づけられるものじゃない。

 あんなもの、好意でも何でもない。


 私も一度目の人生で、『なんで私なのか』と聞いたことがある。


『黒髪と、赤い瞳が綺麗で可愛くて……僕のモノにしたいと思ったんだよ』

『ふふっ、君だけが僕の人生を彩ってくれる顔なんだ』


 珍しい見た目が好みに嵌った、ただそれだけの、最悪な執着だ。

 譲れるものなら、本当に譲りたいくらいだ。


 でも、それをわざわざここで説明する気にはなれなかった。


「……そんなこと、私も知りたいわよ」


 ベッラに聞かせるつもりもなく言葉を放った、その時だった。

 控室の扉が勢いよく開いた。


「……何事だ」


 ジオルドだった。

 部屋へ入ってきた彼は、床に倒れている護衛を見て、そして私と両親たちの顔を見た。

 たったそれだけで、状況を把握したらしい。


 その赤い瞳が、すうっと冷たくなる。


「俺の妻、公爵夫人に手を出したようだな」


 静かな声だった。

 けれど、その一言だけで父の顔色がさっと変わる。


「どうやらエナティ伯爵家は、よほど潰れたいようだ」


「お、お待ちください!」


 父が慌てて前へ出た。


「これは、その……娘が私達に生意気を言ってきたからで……! 連れ戻そうとしただけなのです!」


 その言い方に、思わず笑いそうになる。

 護衛を連れ込んでおいて、無理やり従えようとさせて、よくそんな言葉が出るものだ。


 でも、ジオルドは笑わなかった。

 ただ、冷え切った目で父を見る。


「アルヴィは俺の妻だ――絶対に許さん」


 父の顔から、みるみる血の気が引いていく。

 母も青ざめていた。

 ベッラなど、もう半泣きのような顔だ。


 ジオルドはそれ以上彼らに言葉をかけず、私の方へ手を差し出した。


「行くぞ」

「……ええ」


 私は扇子型の魔道具を握りしめたまま、その手を取る。

 部屋を出る瞬間、ちらりとだけ後ろが見えた。

 両親は、まるでこの世の終わりでも見たみたいな顔をしていた。


 でも、もう知らない。

 私が何度絶望しても、この人たちは助けてくれなかったのだから。


 別の控え室へ移動すると、扉が閉まったところでジオルドが私を見た。


「怪我しているだろう」

「……え?」

「足、引きずっているぞ」


 そう言われて初めて、自分の足にじわじわとした痛みがあることに気づいた。

 護衛の体勢を崩させる時、脛のあたりを擦ってしまったらしい。


「大したことないわ」

「いいから、座れ」


 有無を言わせない声音だった。

 私は促されるまま椅子に腰を下ろす。

 するとジオルドは、私の前に膝をついた。


「っ……」


 思わず息が詰まる。

 彼は気にした様子もなく、私のドレスの裾を少しだけ持ち上げて、傷を確認した。

 脛のあたりが擦れていて、少し血が出ているようだ。


「やっぱりな」

「……ごめんなさい」

「なんで謝る」

「騒ぎにしてしまったし」

「騒ぎを起こしたのは向こうだ」


 そう言いながら、ジオルドは手早く消毒と布を用意させた。

 その手つきは驚くほど丁寧だった。


 優しい……そのことが、妙に胸にくる。

 さっきの俺の妻という言葉も、まだ頭の奥に残っていた。


 契約結婚だって、わかっている。

 わかっているのに、ああいうふうに庇われると、どうしても心が揺れる。


「……しみるぞ」

「ひゃっ」


 消毒が触れた瞬間、思わず声が漏れた。

 ジオルドが少しだけ口元を緩める。


「大げさだな」

「い、いきなりでビックリしたのよ」

「さっき護衛を二人倒した女の台詞とは思えんな」

「それとこれとは別」


 そう返すと、彼は小さく笑った。

 でも、手は変わらず優しいままだった。

 布を当て、包帯を巻いていく動きが丁寧で、余計に落ち着かない。


「……ありがとうございます」


 小さく言うと、ジオルドは顔を上げた。


「礼を言うのはこっちだ」

「え?」

「よく無事でいたな、さすがだ」


 その言葉に、胸の奥がどくんと鳴る。

 私は視線を逸らした。

 今、きっと少し顔が熱い。


 気づかれたくないのに、隠せている気もしなかった。

 契約結婚、ただそれだけの関係のはずなのに。


 どうしてこうも、この人の言葉は心の奥まで届くのだろう。



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