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第77話「PHASE 20 終焉―ファイナルカウントダウン」


 皆が固唾を飲んで見守る中、先手をかけたのはレクエリアムだった。



乱れた黒薔薇の衣は、事象改変、精神的な不安定さを表しているようだった。


「私の悲願の、邪魔をするなああ!!」


二刀流で瞬時に間合いを詰められる。


けど、私にその動きは読めたわ……!!


「ゲート!!お願いッ!!」


私が氷の剣を生成し、彼に合図を送る。


「ああ!任されっ――」


彼はニヤリと笑うと、その剣を抜き――



「――っった!!!」



レクエリアムの凶刃を、黒薔薇の剣と氷の剣で受け止めた!


「やるじゃない……反逆者ゲートォ!!」


だが、不調とはいえ、彼女の力は強大だった。


「っ!」


ゲートが押されていく。


「ゲート――」


「まだだ!」


ゲートの床が抉れていく中、彼はまっすぐな目でレクエリアムを見る。


「くっ……聞けレクエリアム!俺は知ったっ!お前の真実を……っ!!」


「真実ですって……!?」


更に押され、首筋から血が流れる。


「お前が作りたいのは、真のリアライズ・レジェンドってやつは……グゥッ!! 悪意を管理して、本物の妹が苦しまない世界を作ることだって……!!」



全員に、衝撃が走る。


「何故、知っているの……!?」


その時、レクエリアムがハッとしたようにブレイドの方を向いた。


そのまま、失意に満ちた鬼の形相に変わる。


「何故話したのよっ!秘密だって約束したはずじゃないっ!!」



「すまない……」


ブレイドは俯きながら、こう言うだけだった。



「ふざけないでちょうだ――」



「今だアイッ!!」



「ハアアッ!!!」


私たちへの注意が逸れた隙に、天を穿つ私の氷壁が、レクエリアムを上にぶち上げた。


そのままゲートと共に、氷壁を駆け上がる!


「お前のしてきたことは独善だ!エゴだ!!けどな……!」


私もゲートの言いたいことが分かる気がする。


「レクエリアム、あなたが本物のアイナローズに執着していたのは……他でもない、愛だと思うの!」


私の言葉に、レクエリアムは顔を歪ませながら、反論する。


「偽物が……!あ、愛なんかじゃない……!病弱だったあの子を追い詰めた悪意に対する、復讐心よっ!」


体勢を整え、悪意のレーザーと共に、再び私たちと切り結んだ。


けたたましい金属音と、氷が割れる音が轟く。


レクエリアムの怒涛の攻撃に、ゲートが冷や汗と血を流してゆく。


「悪意を管理し、地獄と楽園に人間をすみ分けするっ……!アイナの元気な笑顔で、奴らのような下衆どもに傷跡を残す!そのためなら、私は……私はっ――」


「復讐心だけじゃ、人は動けないっ!!」



その時、防戦一方だったゲートの反論と共に、黒薔薇の剣が鍔の花弁から刀身へ、青く輝いた。



「!!何よっ、それは……!?」


想定外の事態に、レクエリアムは本能的に防御態勢を取ろうとする。



しかし……



『ライル・フリージア!』


私の氷結が、それを妨害する。


「~~!!どこまでもっ――」


そしてその瞬間、ゲートの青き一閃が、振り下ろされる!



『これは、復讐した反逆者に残った……悲しみの波紋!!』



触れていなくとも伝わる、悲しい“何か”。

それを受けたレクエリアムの様子が一変する。


(なにっ……これっ!? アイナ……胸がっ、張り裂けそうにっ、なる……!?)


そして頬から、何か落ちた。

だが、ゲートの勢いは止まらない。


逆袈裟で構えると、刀身が緑色に輝く。



『これは、手当てをした反逆者の……慈しみの風!!』



ロッキングテンペストとは違う、柔らかなその風の逆袈裟を浴びせた。



「あああっ……!やめなさい、やめなさいっ!私を歪ませるなぁ……!!」



険しかった表情が緩んでいくことに恐れを為したレクエリアムが、ゲートの死角から攻撃を仕掛ける。


でも言ったでしょ……!彼の目は私が補うって!



「私はゲートが守って……ゲートは、私が守る!」


致命の一撃を、私が必死にガードした。



お互い、目くばせした後、流れるように怒涛の斬撃ラッシュをくらわす。



「破壊だけが……憎しみだけがっ、抗うことじゃない!」



末端が崩壊して、苦悶するはずのゲートが、下手くそな笑顔で啖呵を切った。



「思い出してくれっ!色とりどりの、人の感情を……!!」



ここまでくれば、私にも分かる。ゲートの未知の攻撃――それが、反逆者や、その他無数の想いを、感情としてレクエリアムに叩きこんでいるということを。



私は何も言わない。今は――



『想いを語り合った反逆者の……喜びの一閃!!』


『理不尽な悪意への、怒りの鉄槌!!』



『誰かを守りたい、信念の凪!』




  ※        ※        ※



 「綺麗だ……」



 治癒され、崩壊が緩和されたブレイドが、その連撃の様子にそっと呟いた。


「俺が初めてこの宮殿に侵入した、あれは確か……王位継承の争いで国民の不満が噴出して、反逆した時。年端もいかない少女が、冷たくなった妹を抱え、この広間の隅で震えているのを見つけた。憎しみ――悲しみ――そんなものが感じられた」



周囲のメンバーは、特にメビウスは、ブレイドの語りを真剣に聞いていた。


「悪魔になった俺の心に、大きな穴が開いた気がした。そんな彼女が、こう言ったんだ。“新しい世界を作ってくれないか”と」


皆が思わず息を飲む。


「……私は彼女が亡骸を抱えている姿に耐えられず、彼女と契約した。自分と同じ、黒薔薇の悪魔を12体集め、新世界を作る“リアライズ・レジェンド”を――ということを、面と向かって話せるときがこことはな……」


ブレイドの物憂げな表情に、周囲は何も言えなかったが……メビウスだけは違った。


「いいや、ここで知れてよかったと思う。だってあなたの事を、精神世界でだった時より、深く知ることができたから……!」



そのまっすぐな紫瞳は、ブレイドの顔を、鮮明に映していた。



彼は一瞬固まったが、フッと笑い――



「まさか……離れていた息子と、こんなやり取りができるとはな」



メビウスの頭を、優しく撫でた。



「えっ……?」



メビウスに大きな、優しい衝撃がはしる。



「父……上……!?」



ブレイドは照れくさそうに笑うと、真剣な表情に戻り、決戦を見守る。


「今は見届けよう……お前の母親と、お前の仲間たちの行く末を……」



  ※        ※        ※



 レクエリアムは、もう反撃する余裕すらなくなっていた。


そしてこれは彼女のみが知ることだが――



もういいんだよ……おねえちゃん



アイナローズの声が、レクエリアムを揺らしていく。


(ぐっ!!違うわ、違うのよっ!ここで諦めちゃダメなのよっ……!!)



けれど……斬られるたびに、消え去ったはずの温かい感情が……アイナの声が、強くなっていく……。



2つ年下の妹――病弱なのに、他を優先しようとするお人よし――



ホントにっ、許せないのよ……!





「優しい人から死んでいく!!それが変えられるならっ!なんだってしたいじゃないのっっ!!」



 攻撃し続けること約15分――



 レクエリアム・ザン・アルトリアが、初めて心情を吐き出した。


それを理解したゲート……そしてアイナローズのクローンである私は、マナの魂と共に、黒薔薇の剣を同時に持つ。


開始直前、ゲートが覚悟を決めたように、レクエリアムにも聞こえるような声で、呟いた。



「ありがとう、レクエリアム。自分が悪意をまき散らした皮肉な罪も……終わらせてやる……!!行くぞ、アイ!マナ!みんなああっ!!」



「ええっ!!!」



崩壊していく氷壁を滑るように駆け抜け、桃色を中心に虹色の薔薇となった剣先を向ける!


そして、その先にいるレクエリアム目掛け、全身全霊を込めた終止符を打つ……!!!



『これまで紡いだ――』



『みんなが紡いだ――』






『『愛の虹薔薇だあああああッッッ!!!!!』』





――貫かれる直前、レクエリアムはなんと――剣を捨て、自らを差し出した。



――ああ……アイナ……これで許して……くれる……?




――温かい光を落としながら、レクエリアムは広間に落ちた。


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