最終話「FINAL PHASE 氷結の黒薔薇―Frozen Neverlasting Love」
落ちたレクエリアム。
そして、降り立ったゲートとアイ。
「終わったの……?」
ソニアが駆け寄ろうとする。
しかし、ルシファーが制した。
「結末は……ソウジとアイがつけるのよ」
レクエリアムの身体は、ボロボロだった。しかし、流れるのはどす黒い血ではなく、温かい光の粒子だった。
ゲートと私が、並んで彼女の前に膝をついた。
レクエリアムは上半身を上げて、力なく見つめ、私たちも彼女を見つめ――
長い沈黙が挟まれた。
「……ふ、不思議ね。負けたはずなのに……悲願を達成することも、できなかったはず、なのにっ……。心が、こころがあたたかい……」
やがて、口を開いたのは、レクエリアムだった。
憑き物がはがれたかのような、どこか穏やかな顔。
それに対し、ゲートがゆっくりと答える。
「悪意に翻弄されたアンタを、苦しめて止めたいなんて、どうしてもできないや……。俺は、敵も仲間も助ける、傲慢な反逆者だから」
「そう……」
すると、レクエリアムは私の方を向いた。少し躊躇していたが。
「クローンだって、偽物だってわかっているのに……妹に見えて、しょうがないの……」
粒子化が、加速していった。
そうだ……言わなければ。
「……レクエリアム・ザン・アルトリア」
立ち上がった私は、彼女にさらに近づきながら口を開いた。
「あなたのエゴで私を生み出し、弄んだのは正直根に持ってるわ」
レクエリアムは……悪びれたように、俯いた。
ああ……言える。ちゃんと伝えられる。
「でも」
――そして立ち止まり、彼女を抱きしめながら、こう告げた。
「不本意であったとしても、私を生み出してくれて、ありがとう……おねえちゃん……!!」
不意打ちだったかもしれない。それでもいい。
「ア、イ……?」
ゲートは無言で距離を置く。
それと入れ替わるように……
「母上……!」
「お母さま!」
「エリー……!」
……メビウス、エルシア、そしてブレイドが、レクエリアムを抱きしめた。
「あなた……たち……!?」
「母上……あなたのすべてを知りました。憎んでいても……」
「あなたは私たちの母親ですっ……!」
なんと……レクエリアムの両目から、とめどなく涙が溢れ出した。
「う、そ……でしょ……?こんな、私を……愛して、くれている、の……?」
ブレイドは、眼帯の隙間から流れるはずのない涙を落としながら、大きく頷いた。
「一人にはさせない……!最後まで……君を愛しているよ、エリー」
離れてみていたソニアや蘭も、泣きじゃくっていた。
その時、レクエリアムが震える両腕で、私たちを包み込んだ。
「ごめんなさいっ……!どうして気づけなかったのっ!? 赦すということを、愛がこんなに手の届くところにあったということをっ!」
その問いに対する答えは、決まっていた。
私はみんなの顔を見て、微笑みと共にこう言った。
「気づけたでしょ?人間臭い、黒薔薇の悪魔な反逆者のおかげで」
「あ……」
消えゆくレクエリアムが、最期に向けた言葉――
ゲートの方を向いて、優しく――
「ありがとうっ……!ゲート……」
「ツグモ……ソウジ……」
祈りましょう……彼女の魂が、アイナローズ・ザン・アルトリアの魂と再会し、いつか私たちと出会えることを――。
そして――彼女の光が、美しい青空を、取り戻した。
魂となったマナも、役目を果たしたかのように消えていった。
「マナ……ッ!」
再度の別れに涙しながらも、ゲートは彼女から目を逸らさなかった。
マナも優しい微笑みを浮かべ、彼の口にキスをした。
「また迎えに行くからね……!大好きだよっ、ソウジ……!」
――短いようで、長い時間の経過を感じながら……悪意の呪縛から抜け出し、人々が活動を再開したことを確認したとき。
やっと私たちの反逆が……俺たちの反逆が終わったと、感じた。
※ ※ ※
4か月後――
<帝暦2031年 8月29日 アルトリア帝国辺境 市街地にて――>
眼帯を着け、黒薔薇の剣を差した少年が、リンゴをかじりながら、水色の髪の美少女と歩いていた。
「『各国の政府の一新 帝暦の廃止を検討』か……。みんなの生活が安定してきたから、独立国家として動き出しつつあるんだなー。な、アイ?」
少女は季節にそぐわない、白い吐息を吐きながら答えた。
「そうね。エルシアが皇帝に即位して、メビウスやロイモンドたちと博識の大司教の監視やら、レクエリアムのしりぬぐいやら……って、今はアンタの両親が元通りか、確認しに行くところでしょ!?」
「そうそう、そうだったな。……5年経ってるけど、多分大丈夫」
そうしているうちに、家の前まで着いた。
「ほんと、たくましくなったわね。はい、これ渡しときなさい」
私がソウジに渡したのは、黒薔薇のフローズンフラワー。
それを見たソウジが、引き気味に答える。
「え……!?花言葉、物騒だったよね!?」
「いいえ!いい花言葉もあるの!“永遠の愛”って花言葉が!」
私の言葉に、ソウジはまじまじと花を見つめる。
「この……フローズンフラワーにしたのは?」
「これはね……保存って観点だけじゃなくて……」
私は彼の手を取り、微笑みながら答えた。
「決して枯れず、決して散らない、永遠の愛。愛から始まり、愛で締めた私たちの反逆の“答え合わせ”」
ソウジは少し考えた後、口を開いた。
「"氷結の黒薔薇"」
「え?」
「氷結の黒薔薇だよ。俺たちの答え!センスいいだろ?」
「……いいんじゃない、アンタらしいわ」
私はまあいいかと、嬉々とするソウジにサムズアップした。
「おう!じゃあ……いくよ」
インターホンを押し、扉が開いた瞬間、彼は飛び出した。
「ただいま!!」
※ ※ ※
――そよ風のふく緑の丘で、私はレインボーローズの花束を抱え、一人で歩いていた。
「世界への答え合わせは、こっちじゃなきゃね」
そして……丘の頂上に着いた瞬間、私は思いっきりブーケトスした。
不思議なことに、花束は花びらを散らしながら、空高く舞い上がっていった。
しみじみとした気持ちも、どこかいいものだ。
「もちろん、アンタもブーケトスしなさい。氷結の黒薔薇を」
「“反逆の入口“ゲートが開いた美しい世界に、愛の花束を」
完




