第74話「PHASE 17 救う反逆」
「マナ……なんで……」
心なしか、痛みは和らいでいた。
「もう……俺、死んじまったのかな……?」
ごめん、みんな……先に逝って――
その時、マナの手が俺の顔にそっと触れた。
「ううん、ソウジは死んでなんかいないよ」
彼女は、優しく否定した。
「え……? じゃあ、マナは……?」
駄目だ、状況が飲み込めていない。
だが、彼女はクスリと笑って語り始めた。
「あの夜……“どんなことがあっても、見守ってる”って想い……それがきっかけなのかな。私は幽霊みたいに、ソウジの傍にとどまり続けていたの。多分、私の固有マギア」
「魂を……現世に残すマギアだって……!?」
そんな規格外のマギアが、存在したのか……!
衝撃を受けて固まった俺に微笑みながら、マナは続ける。
「でもね、大変だったんだよ? 誰からも気づかれないし、触れることもできない。でも……」
彼女の頬に、涙が流れる。
「ソウジは……っ、感じ取ってくれて、ありがとうねっ……!!」
――そして、俺の頭を抱きしめた。
「ぐおっ、ちょっ――」
困惑すると同時に、確信した。
彼女の死後、たびたび聞こえた声は、まやかしなんかじゃなかったんだ……!!
「ソウジ……っ! 好きっ……!」
いつぶりだろうか……。
涙を流したのは……。
「…………っ! 俺もっ……だよ! マナ……!!」
ああ、俺もだよ、マナ。
君を抱きしめ返したい。
「ずっとここにいたい……っ! 君と過ごしていたいよっ……!」
俺はもう、戦い続けることに疲れていたんだろう……。
「もう……っ!」
「私も同じ気持ちだよ、ソウジ。でもね……」
そのとき、マナがゆっくりと手を離した。
「ここにいるのは、私だけじゃないんだ」
その言葉と共に、彼女の後ろに数多の人影が出現する。
「なん……だ!?」
それらの姿が鮮明になると共に、自分と同じ茨に拘束されていることに気づく。
11人の、囚人たち。
その茨は、俺のものよりも深く、彼らの身体へ食い込んでいた。
何人かは、すでに輪郭が崩れ始めている。
そのうちの一人……眼帯の騎士が口を開いた。
「邪魔して悪いな、12代目。だが時間がない……!」
俺は一目見て確信した。
ここは黒薔薇の世界華……。
マナが横で話す。
「ソウジ、皆さんがあなたに、お話ししたいことがあるんだって」
話……?
俺は固唾を飲んで頷いた。
眼帯の騎士、ブレイドが小さく会釈して、こう切り出した。
「黒薔薇の悪魔一同、貴様に伝えたい……」
「リアライズ・レジェンドの、レクエリアムの真実を」
「真、実……!?」
その時……俺は気づかなかったが。
マナが冷や汗をかきながら、乾いたヒビの入った俺の指先を眺めていた……。
※ ※ ※
<玉座の広間>
「粘り強さだけは一級品ね! 愚かなメビウス!」
「ぜぇ、ぜぇ……っ!」
メビウスは急所こそ避けたが、満身創痍だった。
私たちが覚悟を決めてから、約7分の時間が経った。
そして、世界が完全に塗り替わるまで、残された時間はあと7分。
突き抜けた天井から見える空は、絵の具を洗った水のような、混沌とした色に染まっていた。
(完全に世界が塗り替わるまで、時間がない……!)
救う反逆。
そのために、私は黒薔薇と融合した皇帝を解析し、メビウスは時間稼ぎをしてくれた。
「――見えたわ、メビウス」
私の“目”が、すべての解析を完了した。
「アイさん、ゲート君たちはどういう状況なんだ!?」
「待って! レクエリアムに聞かれちゃまずいわ!」
私たちは小声で話した。
小声なら、レクエリアムには聞かれないと分かったからだ。
『フリーズヘヴン!』
私は大技を再度放つ。
1度目は20秒間しかもたなかった。
反動で生温かい鼻血が滴り落ちたが、そんなことはどうでもいい。
流石に限界だけれども……!
「はぁっ、はぁっ……手短に話すわね」
疑似的に時の止まった、この猶予にすべてを賭けて、私は話し始めた。
「まず、時間がないわ……! 世界の改変が進行しすぎてる。今から止めても、ゲートに何らかの後遺症が残るかもしれない……!」
メビウスが険しい表情になる。
それでも彼は頷いて、私の話を促した。
「……本題ね。皇帝は世界の改変に力を割いているから、私たちに事象改変を仕掛ける可能性は低くて……」
「……作戦は以上よ。だから今は――」
「姉様たちが参戦するまで、持ち堪えろってことだね。僕も体力を残しておかないと」
メビウスの飲み込みが早くて助かった。
「お願い。せめて……」
私は彼の傷に冷気を纏わせる。
「アイシング……。これで痛みと出血を抑えるわ」
「……っ! ありがとう、アイさん」
幸か不幸か――
メビウスの応急処置が済んだと同時に、氷壁が崩落する。
再び、皇帝が世界を動かし始めた。
「意識すら凍てつかせる力……成り損ないのくせに、よくやるじゃない」
レクエリアムが剣を構え、腰を落とす。
その顔に笑みはなく、ただ煩わしさが宿っていた。
「残り7分で塗り替わる新しい世界に、アイナローズは2人もいらない……」
「……!! 来るわ、メビウス!!」
同時に、瞬間移動にも等しい速さで、レクエリアムと私たちの距離がゼロになった!
「だからあなたは、この世界で眠らせてあげる! 永遠にね!」




