第73話「PHASE 16 悪魔なき戦い―再開の天使―」
<帝暦2031年 4月8日 11時46分 アルトリア宮殿 玉座の広間>
「世界よ、反逆者たちよ! 死してもなお、その目に焼き付けなさい! レクエリアム・ザン・アルトリアが起こす、終わりの裁きを……! 真のリアライズ・レジェンドを!」
禍々しく、美しい。
禍々しく、神々しい。
「黒薔薇の悪魔がすべて、レクエリアムの手に……」
もう……ダメ。
全身の力が抜けてしまい、そのまま膝から崩れ落ち――
「諦めちゃダメだ、アイさん!!」
――崩れ落ちそうになった私を、メビウスが支える。
「……何を、どうするっていうのよ!? アンタは事象改変能力を破れるっていうの!?」
皇帝に対抗するほぼ唯一の切り札が、敵の手に渡ってしまったのだ。無論、それに頼らないプランなど、考えていない。
だが、メビウスの目に一切の曇りはなかった。
「ゲート君が最後に黒薔薇の力を使ったのを、君も見ただろう?」
彼は取り込まれる直前、世界に抗った。“かけがえのない”左目を犠牲にして。
困惑する私を支える腕に、力が入る。
「感じているはずだ。僕らに何かを託してくれたことに……。考えはあったにせよ、自分より他を優先した。彼の反――くっ!」
「ちょっ――!?」
メビウスが突然、私を突き飛ばした。
困惑……そして他者の殺意を、同時に感じた。
直後、巨大な針が地面から、恐ろしい速さで私たちの間を突き上げた。
「改変が完了するまで、愚かにも私に歯向かったあなたたちと、最後の相手をしてあげるわ」
レクエリアムの嬉々とした声と共に、彼女の周囲から湧き出した瘴気が、剣、槍、矢、斧――どす黒い凶器へと具現化していく――!
「――!! あれが母上の固有マギア、“悪意操術”! まさか黒珠も……!?」
無数の凶器に一斉に狙いを定められたメビウスが、迎撃の構えを取りつつ驚愕していた。
「ええ、そうよ。私が精神に作用するように調整した悪意と、黒薔薇の改変能力を融合した洗脳システムの結晶。それが黒珠」
レクエリアムが醜悪な笑みを浮かべ……
「あなたとエルシアを引き裂いた、その黒珠よ!」
彼女が指を鳴らしたと同時、凶器の雨が全方位から襲いかかった!
「はぁぁぁっ!!」
メビウスが光速の薙ぎ払いで、後ろの私を護った。
「くっ! ――アイさん、彼の……ゲート君の反逆は何でしたか!?」
物量と速度に押され、身体に傷を刻まれながらも、彼は私に問い続けた。
「ゲートの、反逆……」
彼の反逆の足跡を、振り返ってみる。
――現実の残酷さに折れた、情けない少年。怪物に襲われた時、大司教たちとの激闘、ブリッツとの最後のやり取り――。
それは、私の口から自然に出た。
「……救う、反逆」
後方で、爆発が起こる。
「そうだよ! 彼は決して潔白じゃない――ぐはっ! だけど彼なりに誰かを救おうと、寄り添おうとし続けた!」
そう答えたメビウス。だが次の瞬間、雨の中からレクエリアムが近接戦闘を仕掛けてきた。
やはり先ほどのように鍔迫り合いにはならず、受け流す戦法になってしまう。その中でも、メビウスは笑顔で叫んだ。
「だから僕たちも救うんだ、ゲート君を! 奪還するんだ!」
その言葉を言い終えるより早く、私はもう動き出していた。
『マギアノクス……』
『フリーズヘヴン!!』
――メビウスを避けて、時間さえ凍りついたかのような凍結攻撃が、皇帝の動きすら封じた。
「はぁ、はぁ……フッ、アイさん!」
メビウスがサムズアップする。
「ええ、始めましょう……」
私は白い息を吐き、こう言った。
「私たちなりの、救う反逆を!」
※ ※ ※
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手首が、痛い……
目が、痛い……
――ソウジ!
誰かが呼んでる……
ソウジ――
暖かい、声――
『目を覚まして、ソウジ!』
「――はっ!」
気が付くと、俺は赤黒い茨に手足を縛られていた。
左の視界はなかった。代わりに、信じられない光景を見た。
それは救えなかった、初めての恋人――
「マ、ナ……?」
その女性は優しい微笑みを浮かべ、頷いた。
『久しぶりだね、ソウジ』




