第72話「PHASE 15 降臨 黒薔薇終末神衣(クロキシュウマツノマトイ)」
レクエリアムの言葉に、反逆者たちは息を呑む。
「11体の……黒薔薇の悪魔、だと!?」
反逆者の成れの果てが得る力を、使い倒すかのような傲慢さだ。
「道理で、世界規模の事象改変を易々と起こすことができたわけだ……! ゲート君の負担が大きいのに……!」
すると、またしても巨大な黒薔薇が赤く発光した。
天井で何かが光ったのを、私は見た。
「……!! まさか、この黒薔薇の正体って。――二人とも、伏せてっ!!」
『女神の慧眼』を発動し、迫り来る危険を分析する。
(落下速度が速い……! 間に合えぇぇ!!)
『ライル……ッ、フリージアァァ!!』
渾身の大氷壁が、戦場となった広間を覆い尽くす。
その直後、無数の槍が雨のように氷へ突き刺さっていく!
「どう!? 防いでやったわよ、この――」
だが、レクエリアムは何食わぬ顔でこう呟いた。
『すり抜けなさい』
「――!!」
――たった一言で、渾身の防御を突破される。
「クソッ――ぐあああ!!」
「なあああっ!!」
「~~~!!!」
――砕け散った氷の結晶に照らされ、鮮血が広間を染め上げる。
「……ふう」
静まり返った戦場に立っていたのは、レクエリアム一人……。
の、はずだった。
『ペンデール・ロザリオォ!!』
『“ソードライズ”……ホワイトハリケーン!!』
『グラキエース! サジッタ!!!』
突如、三方向から攻撃が放たれた。
すべてを凍てつかせる氷の矢、先ほどとは違う光刃の竜巻、そして禍々しい茨の質量攻撃が、レクエリアムへと襲いかかる。
「はぁ、はぁッ! ぐぅぅっ! 二人とも、体におかしなところはないか……!?」
「ええ、改変ありがとう……。大丈夫なの? 左目を押さえているけど」
「感謝するよ、ゲート君! だが、ヤツに……母上に有効打は与えられていない!」
「……流石というべきかしらね、お人よしの悪魔は……フンッ!」
一人駆け出したメビウスが、レクエリアムと再び剣を交える。
親子の鍔迫り合い……でもそれは、あまりにも残酷過ぎた。
「母上……あなたの騎士はどうしたのですか……? ……ブレイドは、どうしたんだッ!!」
「あら、あの子のことを気に掛けるなんて意外ね。これも“愛”とかいうやつかしら」
レクエリアムの乾いた“愛”という発言に、メビウスの剣圧がせり上がった。
「質問に、答え――」
「彼はあそこよ!」
彼の問いに答えたのは、この私、アイだった。
「ブレイド以外にも、十人……いえ、十一人が、あの巨大な黒薔薇と同化しているの!!」
私は慧眼で確認し、それが事実だと告げた。
「なん、だって……!?」
その真実に、メビウスの剣圧が揺れる。
それを皇帝の目が、見逃すはずがなかった。
「ええ、そうよ、アイナローズの成り損ない! これが私の計画の根幹を成す、悪魔の搾取装置……」
メビウスを弾き飛ばしながら、レクエリアムがその巨大な黒薔薇の正体を明かした。
「禁断創世システム・“黒薔薇の世界華”!!」
凄まじい衝撃が、一同を叩きつけた。
「悪魔の、搾取だって……!?」
皆が呆然とする中、絞り出すような悲鳴が上がった。
「~~っ!! 目が……熱いっ……!!」
その主はゲートだった。
けど……様子がおかしい。
私とメビウスは、ゲートの黒薔薇の力でダメージを無力化してもらっていた。
メビウスがレクエリアムと戦っている最中、彼は左目を押さえて悶えていたのだ。
私はすぐさま彼の手を引き剥がし、状態を確認する。
「ちょっと見せなさ――ひぇっ……! アンタ、これ……」
コポコポと、やかんのような音が、この場所ではありえないほど不気味に鳴り続ける。
そして、そこから血の蒸気が噴き出していた――。
これは人体に対して許される所業なの……!?
「アンタ、その目……沸騰しているじゃない……!!」
……ゲートの左目は、赤く沸騰していた。
まるで、オーバーヒートしたかのように。
「アハハハハッ、愚かな悪魔ね……! 能力の酷使で、眼球が破裂しかけているじゃない!」
それを見たレクエリアムが、まさに悪魔のように嘲笑った。
私たちは今になって気づいた。
ゲートに、あまりにも大きな負担をかけ過ぎていたことに。
けれども……もう遅かった。
黒薔薇の世界華が、動けないゲートに茨を伸ばした。
「まさか……! させないっ!」
「ゲート君……!」
私とメビウスが守ろうとするが、事象改変に抗うことはできず……。
「ゲェェェトォォ――ッ!!」
「ぐうううううっ!!」
ゲートは世界華に、取り込まれてしまった。
ただ彼は、取り込まれる直前、世界に抗った。
かけがえのない左目を犠牲にして。
それは小さな火種に過ぎなかった。けれども――。
※ ※ ※
「な、なんなんだ……? その姿は……!!」
「嘘でしょ……? 世界華がレクエリアムを、ドレスアップして……!!」
「ふふふっ、アハハハハッ!!! 遂に……遂にっ、揃ったわ! 黒薔薇の力、いいえ、それすら超える神の審判……!!」
「世界よ、反逆者たちよ! 死してもなお、その目に焼き付けなさい! レクエリアム・ザン・アルトリアが起こす、終わりの裁きを……! 真のリアライズ・レジェンドを!」
――黒き終末の創世神が、失意の私たちを愛しく、冷酷に見下ろしていた。




