第71話「PHASE 14 決戦―宮殿突入―」
<帝暦2031年 4月8日 10時59分 王都ワルキュリー 城下>
「ひぅっ……パパ、ママァ!いたいのいやぁぁ!!」
「ちょっとアンタ、何泣かせちゃってるのよ!その横暴さは何年経っても変わらないね!」
「うるせぇっ!てめぇだって育児がストレスだの愚痴ってきたくせに!」
あまりにも見苦しい喧嘩。
それはまだ序の口で、暴力を振るい、強盗があちこちで起きている。
私はアイ。
ゲートと共にこの地獄絵図に飲み込まれた、反逆の案内人。
「マズいわゲート、こんなに早く……!」
ゲートは泣き叫ぶ子供を抱え、争いを食い止めようとしていた。
「クソッ、話が通じない!これが前に言ってた皇帝の力か……!」
そう、まさに悪意で周りが見えなくなっているの。
「ぅう……うぅヴ!!」
「悪意の伝播で自滅させるつもりかしら――って、コイツも変異を!?」
私が氷漬けにして抑えていた男が、自らの皮膚を破り捨てて怪物へと変異を始め、あろうことか……氷を砕きながら、車椅子の女性に襲い掛かった!
「――!!弱いものから狙うなんて……!!」
一手遅れ、戸惑った瞬間。
夥しい数の連射音と共に、その怪物は弱者の首を掻くことなく停止した。
「大変だ、皆!街頭の大型ビジョンを見てくれ!」
「お姉ちゃんたち、急いで!」
声の先にいたのは、背丈ほどのマシンガンを構えたロイモンド校長と、ソニアちゃんだった。
「――!!そんな、嘘でしょ……!?」
「なんだって!?街頭ビジョ――なっ!!」
私たちが言葉を失った理由、それは――
『こちら現場の端野です!現在、市民が突然凶暴化し、破壊活動を始めるという不可解な現象が世界各国で行われっ、ててていあます――うぅうをヴぉ……!!』
「……そうやって世界を弄んできたのか、レクエリアム!!」
世界規模の悪意の伝播――。
そして市民権を得ていたアルトリアの女子アナの、生々しい変異――。
呆然としていた私たち。
そんな中、ゲートが静かに口を開いた。
「……宮殿まで、最速で行くぞ」
一同が彼を一斉に見る。
「犠牲は……っ、承知の上だ。行くぞ皆!!」
それと同時に、ゲートは全速力で宮殿の方へ駆け抜けていった。
宮殿に侵入する直前、メビウスとエルシア、ルシファーと……大司教 蘭も合流した。
「僕らも状況は理解してるよ、ゲート君!」
メビウスの顔は迷いを振り切った、頼りになるオーラを放っていた。
ゲートはその時、蘭に気づいた。
「……ルシファー、彼女は……いや、何でもない」
どうやら敵が一緒にいる程度、今のゲートからすれば些細なことだった。
途中、私とゲート、メビウスを除くメンバーが別行動を取ることを決めた。
「頑張ってねソウジ……!私たちは正気を保っている人たちを守り抜くわ」
「エルシアお姉ちゃんもー!」
「ソニアもー!」
「「頑張るからーーっ!!」」
「勝てよ、メビウス……アイ、そして反逆者ゲート!」
「無論だ!」
「ええ!」
「断ち切ってみせる……!」
こうして、声援を受けた私たちは、決戦へ向かうのだった。
――豪華絢爛な内装が、血と悪意に染まる。
「へ、兵を!兵を出――ぎゃあああッッ!!」
権力者らしき男が、断末魔と鮮血を撒き散らしながら地に伏す。
悲鳴……幼い少女の泣き声……
周辺は阿鼻叫喚の惨状となっていた。
――俺は世界を壊す……。悲鳴や命乞いなんて、どうでもいい。悪意で人を弄んだ奴の死なんて、どうでもいい。
「陛下。宮殿内に反逆者達の侵入を確認。……有り得ない、10人足らずの反逆者に、我が軍が圧倒されるなんて……ッ!」
家来らしき青年が慌てふためく。
その様子に、皇帝はクスリと笑う。
そう、まるでこうなることを望んでいたかのように――
「さて……今度はどんな子かしら……?まあ、もう予知夢でわかっているのだけれど。ここは予知夢通りに言いましょう……」
「“黒薔薇の悪魔”……♡」
※ ※ ※
<帝暦2031年 4月8日 11時06分 アルトリア宮殿 玉座の広間>
私たちが氷塊でぶち抜かれた門をくぐると、中には玉座に腰かけた怨敵だけだった。
圧倒的な存在感を放つ青髪の女――レクエリアム・ザン・アルトリアが、待ちわびていたかのように目を輝かせた。
「来たわね、12代目“黒薔薇の悪魔”と……私の愚かで愛しき同族たち」
ここからが正念場ね……!
「皇帝レクエリアム……!悪意で世界を滅ぼして、何がしたい!?」
ゲートが剣を向け、問いかける。
「ふふふ……。それを教える必要なんてどこにあるのかしら……」
彼女は腰を上げ、ローブを脱ぎ捨てる。
入れ替わるように、両手には二振りの剣が握られていた。
「アイさん、ここは僕とゲート君で倒す!君はあの巨大な黒薔薇を――」
「部品風情が!!」
メビウスが言い切る前に、レクエリアムの斬撃が広間全体を抉り抜いた!
レクエリアムが剣を下ろす。
しかし、それで終わる2人ではない、はず。
その思いに応えるように、声が響き渡った。
『フォトンブーストッ!!』
『ロッキングテンペストッ!!』
直後、黒き嵐と白き閃光が彼女を挟み撃ちにした!!
「……くっ」
その攻撃は、レクエリアムに防御する暇を与えず、彼女の両腕を切り裂いていた。
「はぁ、はぁ……よし、このまま最高速度で行くよ、ゲート君!」
「ああ、黒薔薇の力を上乗せ――ぐああっ!!」
……え?
レクエリアムの剣が、いつの間にかゲートを串刺しにしていた。
「ゲート……!」
私が叫んだその時、巨大な黒薔薇が赤く、怪しく発光していた。
「黒薔薇の力ですって……?笑わせないで頂戴、たかが1体で……」
その上、さらなる絶望が眼前に映った。
「11体の黒薔薇の悪魔を、塗りつぶせるとでも?」
――それは、黒薔薇を背に無傷で構える、皇帝レクエリアム・ザン・アルトリアの姿だった。




