第69話「PHASE 12 キミと私の 答え合わせ」
「アイツの顔……黒薔薇の剣に宿っていた奴らの一人にそっくりだ」
俺の耳打ちに、アイは冷や汗をかきながら口を開いた。
だが、眼帯の男がそれより早く名乗り出た。
「俺はアルトリア皇帝専属騎士、ブレイド・ファントムシュナイダー。初めましてか、12人目の黒薔薇」
皇帝専属騎士――。
その大層な肩書きにふさわしいオーラを、ひしひしと感じる……!!
そして、俺が12人目――。
必死に頭を回す中、ブレイドはゆっくりと顔をアイへ向けた。
何故か、悲しそうな顔を浮かべて。
「姫……。陛下がお待ちしておいでです。もうすぐ悲願が達成される。さぁ、無駄な抵抗はおよしなさい」
奴が手を伸ばす。
対して、アイは険しい顔で固まっていた。
「なんだよ、さっきから……。姫って、君の正体って――」
レグネイトもアイのことをそう呼んでいた。
もしかしなくても、彼女の正体は――
だが次の瞬間。
突如、俺の胸に鋭い痛みが走り抜けた――!
「なっ――!?」
な、何が起こった――!?
それを考える暇もなく、今度は腹に重い蹴りが入った。
なんて痛みだ……!
そのまま俺の体は、管理装置に叩きつけられた。
「て、てめェ……!」
俺は立ち上がりながら、この目で確信する。
全身から赤黒い粒子を出す、目前の男の正体に――!
「その目、俺の正体に勘付いたか」
ブレイドが一歩ずつ歩み寄る。
「貴様の想像通り、俺は――」
赤い瞳が、鋭く光る。
そして、こうカミングアウトした。
「初代黒薔薇の悪魔だ」
ブレイドの右手には、黒薔薇の剣とは違う赤い剣が握られていた。
「へっ、黒薔薇の剣がなくても、悪魔の力は使えるみたいだな……!」
「ああ。剣は肉体を悪魔に作り変えてしまうだけだ。悪魔の力は……」
直後、ブレイドが凄まじい踏み込みを見せる!
「本人の肉体に、永遠に残り続けるってわけだなっ!『テージウインド』!!」
俺も負けていられない。
お互いが黒薔薇の力を発動し――壮絶な斬り合いへと発展した!!
響き渡る金属音、事象改変の応酬……だが。
「流石に年季が違う、か……ゴフッ」
吐血しながら、俺の膝が崩れ落ちた。
「ゲート――」
ハッと我に返ったアイが駆け寄ろうとする。
しかし、ブレイドは淡々と事象改変を発動する。
「姫、あなたはおとなしくしていてください」
その途端、アイに赤黒い鎖が巻き付き、身動きを封じた。
「ちょっと……離しなさいっ!」
彼女は叫ぶが、一瞥することなく管理装置に向かう。
「黒珠の影響か……精神に不調が見られます。その鎖でケアしているので心配はないかと。さて、私はこれからこの塔の復旧作業がありますので……」
ブレイドは地面を切りつけ、再度事象改変を発動する。
「……っ!」
奴は装置の前にいた俺を持ち上げ、形成されていくドーム状の空間に、アイと共に放り込んだ。
「ま、待て――!」
「準備が終わるまで、少し頭を冷やしなさい、姫。あなたの選んだ、黒薔薇の悪魔と共に……」
この言葉を最後に、俺達は外界と遮断された。
※ ※ ※
<???>
アイちゃ~ん、アイちゃ~ん? もう一人の私、聞こえてる~?
「何……? もう一人の私……?」
私は氷の広間みたいな、不思議な場所に倒れていた。
そして目の前には、無邪気な顔で私を見つめる“もう一人の私”がいた。
「ここは……どこよ」
起き上がろうとするが、足が凍り付いて動かせない。
「ああ、あんまり無理しちゃダメだよ。ええと、黒珠で生まれたアイちゃんだから……黒珠ちゃんでいいか★ じゃあ、私は白珠で話すね」
もう一人の私、もとい白珠は黒珠の私に顔を近づけた。
「結論から話すとね……もう彼に、ゲートに全てを話してもいいんじゃないかな」
その言葉に、私は思わず硬直する。
「い、いきなり出てきてアイツの話……?」
「だってぇ……いわば黒珠ちゃんは、私のツンツン部分をもとに形成されてるし~? 彼のこと、大事に思ってるんでしょ?」
「べ、別にそんなことは……! アイツは、ブリッツを殺して……ああもうっ!」
もしかすると、今までもゲートのことを無意識に追いかけていたのかもしれない。
すると、白珠が葛藤している私の手を取り、こう告げた。
「私とわたし、白と黒。互いに欠けた記憶も、心も――彼の為なら補い合える」
同時に、この空間にある全てが、光となって消えてゆく――。
決めるのは、今しかない。
私は白珠の手を握り返した。
「分かったわよ、白――いいえ」
「決まりだね★ 黒――ううん」
「「アイナローズ」」
※ ※ ※
<帝暦2031年 4月8日 10時40分 閉ざされた空間にて>
「う……ん?」
なんだろう……薄暗いけど、温かい光が見える。
「や……やっと起きたか。おはよう、アイ」
私が目を覚ますと、胴体に包帯を巻いたゲートが、マギアで明かりをつけて微笑んでいた。
しかも、先程縛り付けていた鎖が、すっかり消えていた。代わりに、ゲートのコートが私に掛かっていた。
「あの鎖、時間が経ったら勝手に消えたよ。それにしても……やってくれるぜ、初代の奴」
余裕そうに笑う彼を見て、白珠との邂逅を経て思い出した――。
最初はあんなに情けなかった少年が、今は見間違えるくらい成長している。
そうだ、言わなきゃね……。
掛かっているコートの裾を掴み、キッと前を向く。
「で、これからのことなんだが――」
「ゲート」
彼の話を遮り、私は遂に打ち明けた。
「私の本当の名前は――」
「“アイナローズ・ザン・アルトリア”。皇帝レクエリアムを止める為にキミを反逆に誘った、彼女の妹の――クローンよ」
硬直したゲートの目を見つめながら……。
「半分だけ答え合わせをしましょう、キミと私の反逆に」




