第66話「PHASE 9 恋慕から道楽へ ルシファーから蘭へ」
予想外に次ぐ予想外に、蘭は理解が追い付かない。
「同情のつもり……!?」
とどめを刺す前に、後輩のよしみで明かした自身の過去――。
いや、僅かながら同情を望んでいたのかもしれない。
だが、それもまた悪意に塗りつぶされる。
「そうやって保身に走るんでしょ!偽善者!」
蘭がミニカーを取り出し、自身の固有マギアで突撃させる。
「うぐっ……!!」
だが、ルシファーは避けることも防ぐこともせず、それを受けた。
「なっ……、何でっ!?」
ルシファーは吐血しながら静かに答えた。
「あなたは……かつての私と似ているの」
彼女の脳裏に浮かんだのは、あの“ホーリーナイトメア”。
「私は信じていた人に裏切られたと思って、愛憎をぶつけ、破壊し尽くした……」
蘭の顔に驚愕が混じる。もみ消した教会でも、事件の真相を把握していなかったことに。
そして、目の前の大司教も自身と同じく絶望していたことに。
「でもっ……!」
「でもね……」
蘭の叫びを遮ったルシファーの声が、少し柔らかくなる。
「その大切な彼が、私の愛憎を受け止めてくれて……」
そして、時間をかけて真実を話し終えた後、こう結ぶ。
「彼が……ソウジが私を悪意から解放してくれたから、今度は……うぐっ、私が誰かを……あなたを開放する……!!」
蘭はただ、泣いていた。
初めは振りほどこうと藻掻いていた彼女が、悪意からではなく、純粋な涙を流していたのだ。
「ボクをっ……突き放さないでぇ……!!」
今まで憎しみのままに動いていた彼女から出た、心の底からの本音。
ルシファーは頭を優しく撫で、子守りをするように「離しませんよ」と言い続けた。
(ごめんねソウジ……この子の事があるから、合流は後になりそう……)
こうして、帝国の一角である道楽の大司教は、事実上リタイヤした。
ルシファーは、損傷したシュバリエッタのビットをチラリと見る。
飛ばした本体は、まだ戦いを続けている。リンクした感覚がそれを伝えていた――。
※ ※ ※
<帝暦2031年 4月8日 遡ること9時17分 サーキット場にて――>
黒と銀のフォーミュラカーが、火花を散らしながら白きフォーミュラカーと激突する。
「ぐああっ!!」
「きゃあっ!!」
僕――メビウスは必死でハンドルを切り、スタート地点から離れないように動かす!
「もう始まっているのだ!このランペイジフォーミュラグランプリは!」
チェインズが仮面越しに声を上げる。そしてそのままコースを走り始めた!
「なっ!?」
「メビウス、アクセル全開!」
手の止まった僕に、姉様が喝を入れる。
僕らのフォーミュラカー、シュバリエッタ……いや、この形態はシュバリエータか。
そしてこの車体が、チェインズのフォーミュラカーの――
「追いつけるかな!この全開の“ダークフェイト”に!」
確かに速い!
それに……上空に表示されている、このランペイジフォーミュラグランプリのルール上、脅威はより大きい――!!
・勝利条件 : レースで一位を取るか、相手の車体を走行不能にすること
・敗北したレーサーとその一味は、勝利したレーサーの一味を除き、このサーキット場ごと消滅する。
黒薔薇の力で作り出した特殊空間なら、それが可能というわけだ。
ダークフェイトが第2コーナーを曲がる。
けど、スタートの遅れた僕らはまだ第1コーナー……!
「シュバリエータ!」
僕が叫ぶと、車体の側面からアンカーが飛び出し、第2、いや第3コーナーに突き刺さる!
続けてウイングユニットを展開し、僕らのシュバリエータは舞い上がった。
「ほう……!」
まさかの戦法に、チェインズも反応する。
「姉様、捕まってて!」
タイヤの摩擦で火花が弾けながらも、ぺしゃんこにならず着地することができた。
「よし、これで――」
チェインズのダークフェイトを大きく追い抜けたと、意気揚々と後ろを向いたとき、僕は違和感に襲われた。
「なんだ、あれ……!?」
「レースクイーン、かな?」
なんと……コースの内側に、髪を後ろで纏めた、美しいレースクイーンが突然現れた。
だが、ここから異変が起こる。彼女がフラッグを振った途端――すさまじい風圧が横を突き抜けていった。
「ショートカットとは汚いな、幻の第3皇子」
……チェインズが、なぜ追いついている……!?
僕らの困惑は最高潮に達する。
「勝利は、大地を駆け抜ける私に微笑む……!」
――気が付くと、ダークフェイトはかつてないスピードで走順を奪還していた。




