第60話「PHASE 3 塗り替え」
<帝暦2031年 4月8日 9時07分 カテナ教会 追葬の塔にて――>
僕の名はメビウス。追葬の大司教に挑む、幻の第3皇子。
「乗って、姉様!」
エルシア姉様を後部座席に乗せ、僕がイグニッションキーを回す。
同時に、シュバリエッタが車体に覆いかぶさるように合体する。武装のランスがフロントに、ウイングユニットが後部に来たその姿は、まさにスーパーマシンだ。
「随分と手の込んだお披露目だな」
反逆側のランペイジフォーミュラの完成を見届けたチェインズが軽口を叩く。仮面越しから僅かに喜びが漏れているのが感じられた。
「さて……折角レースをするのだ、場所を変えなくてはな」
(ヨルズはまだ来ないか……まあいい)
チェインズが自身のフォーミュラに乗る。
これから始まる――僕がハンドルを握りしめたその瞬間。
突如、空間が赤黒く染まりだしたんだ……!!
「な、なんだこれは……?世界が、歪む……ッ!?」
これはまさか……いや規模が大きすぎる!
「この感じ……黒珠と、同じ……?」
聞き捨てならない言葉と共に、姉様の手が震え始めた。
「借りますよ、陛下。計画を達する力を……!」
間もなく僕らの声は消え失せ、チェインズの笑い声と、数多の禍々しい叫びだけが空間に満ちていった――。
やがて……歪みが晴れ、僕らは周囲を認識できるようになった。しかし、この目に映ったものに困惑する。
沸き起こる観客席、フラッグを振る存在、それはまるで――!
「レースサーキットなのか、ここは……!?」
「し、信じられない……!こんな、一瞬で……」
僕も姉様と同じ気持ちだ。でも、事実だってことが嫌ほど分かる。
だが、僕らには止まっている時間はないようだ。
けたたましく鳴る排気音と共に、黒と銀のフォーミュラカーが接近する!
「さあ始めようか、粛清のレースを……!」
間違いない、チェインズが使ったこの力は――!
※ ※ ※
〈同時刻 カテナ教会 暴虐の塔にて――〉
「黒薔薇の悪魔の力……使いこなしてみせる」
そう言った瞬間、俺の腹が暴虐の大司教・レグネイトの一撃で飛び散った。
「ゲート!」
アイが金切り声をあげる。
「グハハハハッッ!!しまった、黒薔薇の悪魔を殺してしまった!!ぬう、陛下は死体はいらないか!!」
返り血を浴びた拳から煙を出しながら、レグネイトが豪快な笑い声をあげた。
「……なによ、ゲート。口だけじゃな――ぐっ!?」
アイが胸を抑える。
(心配なのね……もう一人の私は……!)
「さ~て、姫は……ああそうだった、生け捕りだったな」
あんなに暴虐をアピールしていた男が、思い出したように冷静になる。
「陛下も……黒薔薇の悪魔を何に使うのか教えてくださらなかったし、死体の確認をして渡すとするか――」
レグネイトが床を踏みしめながらアイに近づこうとした、その時。
「生憎だが、そんな世界は来ない」
その言葉と共に、レグネイトの動きが止まる。
「ほぅ……?」
「嘘でしょ、あの力を任意で……!?」
アイが素っ頓狂な声をあげるのも無理はない。何故なら……
無傷の俺――反逆者ゲートが、そこに立っていたのだから。




