第57話「終限 : さようなら学園生活 そして究極の反逆へ――」
〈帝暦2031年 1月11日 9時39分 王都総合学園 校門前――〉
ブリッツ・レオニウスの死――。
それは教師生徒問わず、あまりにも思いがけないことであった。
「何事だ、この騒ぎは……!?」
騒然とした現場の野次馬を押しのけながら、重々しくも渋い声が響き渡る。
「……校長」
「校長先生……!」
息を切らしながら、校長が俺達の前に姿を表した。
俺はブリッツの亡骸を両手で抱え上げ、静かに事情を話す。
「……俺が、殺しました」
俺が話している間、校長は険しいような、感嘆しているような複雑な顔を浮かべつつ、静かに聞いていた。
全てを話し終えた後、周囲は凍りつくような沈黙に覆われた。
誰一人声を上げなかった。
世間では行方不明扱いだった、マナ・ランドフェイトの死……皇帝や大司教、ブリッツとの因縁……。
そんなものをいくつも聞かされては、何も言えなくなってしまう。
「そうか……そうだったのか」
校長によって、ようやく沈黙が破られた。
「それで、これから君はどうする?」
咳払いをし、周囲を見渡しながら静かに問いかける。
「理由がどうであれ、相手が誰であれ、君のしたことを世間は罪と断ずる。無論、それを責める者がほとんどだろう。そして、もう普通の生活は送れなくなるかもしれない」
マナの仇として俺を刺す視線や、罵倒。ブリッツに目をかけられていた生徒たちが暴れ回り、抑え込まれている光景――。
心臓がきつく締め付けられるような痛みが奔る。
それでも――
「俺は……ただ、両親にもう一度家族として接してほしいって理由で反逆を決意しました。世界をどう変えたいのかなんて、初めは考えもしませんでした。」
所々から、再び罵倒が起こる。
「ですが……」
アイ……ルシファー……メビウス……ソニア……そしてマナ……。
「色んな人たちと出会って、分かったんです。悪意に苦しんでいたのは俺だけじゃなくて、俺が知らないところでも小さな悪意が蔓延っていて……。だから、一つの大きな悪意……この不変で歪んだ世界をつくるカテナ教会と皇帝の悪意は全て……」
あまりの気迫に、辺りが凍りつく。
それだけ真剣に、俺はこれからすべきことをこう締めた。
「……破壊します」
それを聞ききった校長は、納得したように深く相槌を打った。
「……それが、君の進む茨の道か」
その後に続く彼の言葉に、この場にいた俺たち全員が腰を抜かす。
「副校長、聞こえていますか?これより、私の役目の全てをあなたに引き継ぎなさい。私はゲート君たちの反逆に同行します!」
嘘だろ……本気で言ってんのか……!?
「なんでですか!?」
「嘘だろ!?冗談じゃない!」
困惑の声が広がる。
だが、現場に駆けつけた一人の男が、まるで校長の言葉を待っていたかのように悠然と答える。
「お任せください、ヴィダーランド。この副校長アルカナがあなたの代理として学園を指揮します」
依頼された本人が快諾したなら、誰も文句は言えない。
「さあ、皆さんは一旦教室で待機しなさい!はい!」
みんな、縮こまりながら門をくぐり抜けていった。
「ヴィダーランドが見届けると決めた君の道を、私も信じているぞ。ゲート君」
そう言って、副校長も校舎へと帰っていった。
――残ったのは、ルシファー、メビウス、ソニア、エルシア会長、校長、俺……そして呆然としているアイ。
「……なんで校長先生は俺達に?」
「それは移動しながらでいいだろう。それより気になっているんだろう?彼女のことが」
鋭いな……
俺はアイに歩み寄り、彼女の目を見る。
反逆って手段を教えてくれたアイ――共に戦ってくれたアイ――忌々しい悪意で心が変わってしまったアイ――。
「なんで……残ってくれたんだ?やっぱり、俺が憎いからか?」
洗脳されているとはいえ、主であるブリッツを殺したのは事実だ。
アイは胸に手を当て、目を瞑る。
「――憎いはず、なのに」
「心の中で”ありがとう”って喜んでる私がいて……”ゲート”って叫び続けているの……」
その告白に、メビウスがハッとしたような顔をする。
「ゲート君がブリッツと戦っていたとき、見張っていた1-Aクラスの生徒達も同じようなことを口走っていた……!」
何だと……!?
「やっぱりブリッツのしかけた洗脳が原因だったわけね」
ルシファーも頷く。
「僕が精神世界で数多の悪意を断ち切った時、”黒珠”というワードが出てきた。恐らく……それが洗脳装置だと思う」
「アイ……」
俺はブリッツに仕える者としての彼女と、反逆の案内人である彼女がせめぎ合っていることを悟り、険しくなっていた。
「私はどうしたらいいか、分からないの……」
アイがそう言うと――ゆっくり目を開け、俺と目を合わせた。
「だから、アンタにとりあえずついて行くわ……。もう一人の私と決着をつける為に」
アイのその透き通った瞳は、嘘偽りがないことを物語っていた。
聞き終えた後、俺はみんなを見回す。
……って見るまでもないよな。
「ありがとう、アイ」
そう言って俺は踵を返し、歩み出した。
「じゃあな、王都総合学園」
俺たちは茨の道を進む。それがどれだけ辛くとも。
「さあ、始めようか……」
後ろに続く確かな足音とともに、俺は両手を広げた。
「世界を壊す、反逆を!!」
――第4章「王都総合学園編」 完――
※ ※ ※
〈帝暦2031年 同時刻 アルトリア宮殿にて――〉
――玉座に腰掛けた青髪の女性が、眼帯の青年に笑みを送っていた。
「12体目が覚醒したようですね。これもあなたの予知夢通りですか、陛下」
青年が女性の頬を撫でながら、淡々と話す。
「ふふっ、その予知夢の通りなら、近いうちにこの宮殿に彼らが来るわ」
皇帝・レクエリアムが妖しく笑う。
「……遂に計画『リアライズレジェンド』の最後のピースが、揃ったわ」
――皇帝の陰謀……世界の歪み……そしてこの反逆の果てに、ゲートは何を見出すのか。
――次回、最終章「ブレイキング・レジェンド」――




