第56話「31限目 : 赤雷の叫び」
「ひ、人殺し……っ!!?」
新学期。悪魔の起こした惨劇に周囲はパニックに陥る。
俺が起こした惨劇。だが、それはまだ序の口に過ぎなかった。
ブリッツ・レオ二ウスという男は今まで、このような苦境に立たされたことが無かったのだろう。右腕を斬り飛ばされた奴は、苦悶に顔を歪ませながら情けなく叫び声を上げ続けている。
「何故俺が……!こうもあっさり腕を斬られる……!?」
まさに、わけが分からないといった様相だ。
俺はブリッツの髪を掴み、無理やり目を合わせる。
奴の目に映った俺のそれは、悪魔のような赤い目であることをようやく認識した。
「――嫌なな目だ」
その時、ブリッツが突然自分の頭を抱え、唇をみるみる青くしていく。
(へ、陛下――!?)
ブリッツの脳内に、皇帝の言葉が入り込んでゆく。
――認めなさい、ブリッツ。あなたが今対峙しているのは、正真正銘黒薔薇の悪魔。世界を変える破壊者足りうる特異の存在――。“私が求めていた、12人目の悪魔”――!!
「あああああッ!!!」
数秒後、ブリッツが髪を掴まれたまま赤く発光、電撃を放とうとする。
だが、何故だろう。
これまでは、少なからず恐れを感じていたはずなのに、今はこの男がどうしようもなく小さな虫に見える。
「遅ぇよ」
一拍も与えず、俺は奴の頭を校門の壁に思い切り叩きつけた。
その衝撃は伊達ではなく、奴の頭ごと俺の腕が壁を突き破ってしまった。
「ガハッ――!!」
「ハッ!!」
鼻血を垂らしたブリッツに追い打ちをかけるように、
俺は奴の脇腹を殴り、馬乗りになった。
入学当初から強欲の限りを尽くした赤雷の暴君――
そんな男が、周囲から煙たがれていた悪魔によって完全に打ち負かされたのだ。
悲鳴と、わずかながらの歓喜の声。
周囲の教師の誰かが、スマホを取り出し通報する素振りを見せていたが、突然携帯を落として膝から崩れるように倒れた。
「恋慕の大司教の名において、無粋な真似は許しません」
聞き馴染んだ声……ルシファーか。
彼女が野次馬を制御してくれてる間に、決着を付ける。
「なあブリッツ。随分と情けない顔になったな。さんざん舐め腐っていた反逆者に手も足も出せずに……ああ、片腕はもう無いんだったか」
俺は馬乗りになったまま、淡々と言葉をぶつける。プライドをズタズタに引き裂かれたブリッツは、もう虫の息だ。
「こ、降参だ……。アイも返す……今後一切、お前らには関わらないから……見逃してくれぇぇ……!」
心が折れた奴からの、敗北宣言。
懇願するような弱々しい目に、俺は一瞬躊躇した――。
その瞬間、後ろから優しい声とともに、首元に腕がマフラーの如く巻き付いた。
――甘さと優しさは、違うんでしょ?自分を曲げないで――
俺の救えなかった、天使の声。
ソウジ――
……そうだった、な。
「マナ……」
彼女は小さく微笑むと、再び光となって消えていった――。
「言ったはずだろ?ブリッツ・レオ二ウス」
我に返った俺は、潤んだ奴の右瞼を乱暴にこじ開ける。
「お前は新しい世界の養分だって。」
「待っ――!」
「ハアッ!!」
静止を無視して、奴の右目を――
――ブリッツの言葉にならない叫びとともに、ブリッツの右半身が、顔を含めて全て血で赤く染まった。
「……生まれ変わったら、今度は優しい方法で手に入れるんだな」
静かにそう呟いたとき、ブリッツは何かに気づいたのか、一回だけしゃくり上げた。
――次の瞬間、黒薔薇の剣が“彼”の心臓を貫いた。彼はその後、一切声をあげることは無かった。
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次回、王都総合学園編ラストです。
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