第55話「30限目 : Birth of Diabo-Rosa」
<帝暦2030年 12月20日 18時45分 王都バス 廃れたバス停にて――>
俺の懐から、今更のように着信音が鳴り響く。真っ赤なその手でスマホを取り出すと、ルシファーからだった。
「ソウジ?やっと電話が繋がった……!今、どこにいるの?」
少し怒ったような、安堵したような声。
ソウジ――
その一言が俺を再び悪夢へと引きずり込んだ。
「うああああああッッ!!」
俺は乱心したまま、スマホを地面に叩き捨ててしまった。
その拍子に、スマホのスイッチが押されていた。
――数分後、ルシファーが息を切らしながらバス停に到着した。
あの時、緊急時の位置情報を送信していたらしい。
「ソウジ!」
だが、目の前の光景に、彼女の安堵の顔はすぐさま曇った。
血塗れの身体、涙でぐちゃぐちゃな顔、赤く染まったマフラー――。
ルシファーが思わず息を飲む。
「どうしたのよ、そのキズ……?!何があったの?」
マギアで俺のキズを癒しながら、彼女は焦り気味に問いかける。
「……ねえ、マナさんは……?みんなとパーティーをしようって……。あなたと一緒に回ってた筈でしょ……?」
違和感を感じたのだろう。心配そうに辺りを見回す。
だが、俺はただすすり泣くだけだった。首に巻かれたマフラーを握りしめた俺の手と、隣の椅子に残る血痕――。
ソレらは惨劇を察するのには、十分過ぎる程だった。
「……!!」
「マナ……さん……ッ」
彼女は静かに目を伏せた。
――そして震える俺を、優しく抱き寄せた。
何も言わず――体に伝わってくる熱がすべてを吐き出したくなるような気持ちを湧き上がらせる。
「マナは……!!俺のせいで……あああああッッ!!!」
堪えきれなくなった俺は、叫びとともに吐露する。
「……ごめんマナ、君が許してくれても俺は自分をどうしても許せない……」
「俺がもっと強ければ!優しいだけじゃ何も守れやしないって……!!」
「ソウジ……」
「……でも優しさを捨てるのはマナが悲しむ。」
――“甘さ”と”優しさ”は、似ているようで異なる。
「俺は反逆する……し続ける。どれだけ穢れを喰らってでも……マナの願う世界へと変わる、その時まで……!」
その時、黒薔薇の剣から禍々しい波動が流れ込む。
ああ……これが憎しみ……。
心のなかで叫ぶんだ。
自分を呪い続け、憎み続けろって――。
これが、黒薔薇の剣の強さの源――。
「ルシファー……俺を抜いてパーティーに行ってくれ」
俺はゆっくりとルシファーから離れ、バス停を後にする。
「どこに行く気……?!それにパーティーですって……?この状況で呑気に催しなんて出来るわけないでしょ!」
ルシファーが必死に呼び止める。
「俺はこれから……アイツを取り戻す準備をする。心配してくれて、ありがとう。ルシファー」
そう言って、雪がしんしんと降り続ける冷たい道を踏みしめながら、俺は闇に消えていった。
去り際、俺は気付かなかったが――
ルシファーの瞳に映った俺の瞳は、悪魔のような禍々しい紅に染まっていた――。
※ ※ ※
〈帝暦2031年 1月11日 9時25分 王都総合学園 校門前――〉
「アイ……何故俺が不快か分かるか?お前が言われた通りに振る舞わないからだ!」
電気がバチバチと音をたて、男が少女の胸ぐらを掴む。
「申し訳ございませんブリッツ様……!」
新年早々、気持ちの沈むような光景が広がる。
首に巻いた、赤いマフラーが、キュッと締まる。
「わかってるよ、マナ」
男の電撃の拳が、少女に触れるその寸前……
俺は瞬時にその拳を掴み、捻り上げた。
「やめろよ、怖がってるだろ。ブリッツ・レオニウス」
突然の乱入者。その存在に男は驚きこそすれど、誰なのかを認識すると、すぐさま余裕を取り戻した。
「ハッ、ゲートか。人殺しの反逆者が、ヒーロー気取りか?」
ブリッツが手を振り払い、ヘラヘラと笑みを浮かべる。
「テメェはこの学園に来ることすらおこがましいんだよ、邪魔すんじゃねェ!!」
ヤツが再び拳を振り上げた。
「ああ……そうだ、俺は人殺しだ。」
俺は動かない。
あの時…、やっと理解できた……。
俺はあるべき姿……
俺は口角を上げ、黒薔薇の剣を抜いた。
次の瞬間――
「は……?」
ブリッツの振り上げた筈の拳が、腕ごと宙に吹き飛んでいた。
「――ぐあああッ!!?痛っ〜〜〜!!
」
ブリッツに、初めて苦悶の表情が浮かぶ。
「これが俺のあるべき姿……」
紅い悪魔の瞳が、ヤツを捉える。
「俺は……黒薔薇の悪魔。この世界を壊し、染め上げる者だ。」
「だから、お前はその世界の養分となれ」




