第53話「28限目 : 全部ぜんぶ アナタのせい」
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〈帝歴2030年 12月20日 18時17分 モミの木の下で―― 〉
マナの胸が、瞬く間に赤く染まってゆく……。
「ハァ……ハァ……ッ!なんッ……で……ッ!!?」
は、早く手当てを……!
抱きかかえたマナに突き刺さる黒薔薇の剣を掴む。
だが、無理を押したツケだろう。俺の口から、鮮血が溢れ出る。
「ガフッ……!」
「ソウ……ジ……」
マナが心配そうにこちらを見る。
こんな状況でも他人の心配を……!
「……ッ!大丈夫だ、今手当てを……!」
そうだ、絶対に死なせない。死なせやしない――!!
『グッ……!!ペンデール……ッ、ロザリオ!』
茨を自分の身体に突き刺し、生命力を注ぎ込む。
――だが、吸われていく感覚が無い。
「――!? な、なんで傷口が塞がらないんだッ!?」
もう俺には、吸える生命力も残ってないというのか……!?
その時、俺はハッとして周りを血眼になって見渡す。
ない。
「ユグドラシルが、ない……!?」
それだけじゃない、人気も……!
「クソッ!何で気づかなかったんだ!!」
自分の視野の低さに、嫌気が差す。
「早く、早く病院に……!」
俺は剣を抜かずマナを抱え、立ち上がろうとする。
身体に刺さった刃物を抜いてしまうと、内臓を傷付けるだけでなく、大量出血で悪化してしまう恐れがあるからだ。
「グッ……!」
しかし、無理をし過ぎたツケが回り始めた。眩暈とともに膝をついてしまった。
「こんな時に……!チキショウ、動けよ……ッ、バカ野郎!」
己の不甲斐なさに、俺は拳を地面に叩きつけた。
乾いた音が、痛みとともに小さく響いた。
(早く、別の手を……)
その手で、俺は携帯を取り出した。特別製とはいえ、あの激闘で壊れなかったのは救いというべきか。
病院に連絡を取ろうと画面を開いた。
「今病院に――」
――救いだった、筈なのに。
――あろうことか、『圏外』と表示されていた。
「嘘だろ……!?何で……何で、なんでなんでなんで!!?」
最悪の連続に、俺は頭を掻きむしった。
瀕死のマナ……役立たずの俺の身体……繋がらない電話……。
そんな俺に追い打ちをかけるかのように――
マナの身体が少しずつ、光の粒子に変わり始めた……。
まるで、天に召されるかのように。
「マナ……!?嫌だ、嫌だ!!」
その時、不意に現れた青髪の女が、何食わぬ顔で俺の前に姿を現した。
「……!!皇帝レクエリアム……ッ!!」
俺は殺意を込めた眼でヤツを睨みつけた。
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ヤツはまるで先程の攻撃が無かったかのように、平然と口を開いた。
「諦めなさい。その子はもう手遅れよ。」
淡々と、他人事のように。
「……手遅れ……?ふざけるなッ!!マナがこんなことになったのも、マナと人気の無い場所に転送したのも、電波が繋がらないのもッ……ガフッ!!全部お前のせいだろうが!!」
「いいえ、違うわよゲート。」
同時に、レクエリアムが俺の鼻の先に迫った。
「悪いのは、全部あなた。」
一切の冗談のない冷酷な口調で、俺に浴びせた。
なんだよ、ソレ――
俺は一瞬頭が真っ白になる。
「大切な人が血に染まったのは、あなたの不手際。」
「妨害を打ち破ることが出来なかったのもあなたの実力不足。」
追い打ちをかけていく。
「その子はもう助からない。あなたのせいで」
「違う……違う!理不尽だッ!!言いがかりだこんなのッ!!」
俺は否定するように激しく手で空を切る。
だが、その直後。見えない質量が、俺を容赦なく吹き飛ばした。
「グハッ……!!」
「いい?ゲート。理不尽に思うのはね――」
レクエリアムの顔が、再び眼前に迫る。
「――あなたが弱いからよ。全部ぜんぶ、アナタのせい」
――その言葉は、俺に余りにも効き過ぎた……。
「身から出た錆」
「やめてくれ……」
「人殺し」
「やめろ……聞きたくないッ……!!」
「悪魔」
「ああああッッ!!!」
自暴自棄になり殴りかかるが、なすすべなく足でねじ伏せられる。
「……ッッ!!ウウッ……!!」
「弱いアナタを、誰も助けない。私も助けない」
「――その情けないザマを一生、憎み続けなさい。」
そう吐き捨て、俺をマナの傍まで蹴り飛ばした。
「皆も足止めご苦労様。手加減するのも骨が折れたでしょう?」
レクエリアムが、労いのの言葉を辺りに響かせる。
すると、物陰で待機していた追葬の大司教達がゆっくりと姿を現した。
「いえ、めっそうもございません。それより陛下、雪が降り始めました。今晩は冷えるのでお戻りになられては。」
「ええ、そうさせてもらうわ」
レクエリアムは踵を返して一行と共にノイズを残して消えたのだった。
「ハッピーバースデー……」
「黒薔薇の悪魔」
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――俺は、涙と憎しみで顔をクシャクシャにして、マナに謝り続けていた。
「ごめんなさい……ごめんなさい……ッ!」
雪が積もり始めた頃、俺は刺さったままの黒薔薇の剣に手を添えた。
その時――
俺は気づいていなかったが、マナの粒子化が、緩やかになった。
「ソウジ……最後に……ッ、温かいところに……連れて行って……」
――息も絶え絶えなマナが言った、“お願い”。
――俺は、ただ頷くしかなかった。




