第51話「26限目 : 季節は冬へ――鐘の祭典と最悪の邂逅」
<帝暦2030年 12月2日 8時20分 王都総合学園 1―B教室にて>
「あ~!!やっと期末テスト終わったぜ!!」
俺の名はソウジ。地獄の定期テストを終え、清々しい気になっている高校生だ。
「ゲート君、お疲れ!」
鞄を持って廊下に出ると、メビウスが待ち構えていた。
ただ、何故か令状みたく、左手にチラシを持っている。
「ああ、お疲れ。……そのチラシは?」
見ると、冬のイベントの案内だった。
「ああ、“鐘の祭典”か。一年も早いもんだ」
俺はニヤリと顔を見合わせた。
「そうだよ。今月20日に行われる鐘の祭典!しかも今年は決定的に違う……!姉様がいるからね!」
彼は気持ちが抑えられないような笑顔を浮かべる。
“このシスコン皇子”という言葉を喉でグッと飲み込み、俺はチラシをまじまじと眺めた。
鐘の祭典と言えば、12月20日の日暮れから翌日の夜明けまで行われる世界共通の祭典。毎年、装飾された巨大なモミの木を中心に特別な市場が展開される。
そして――
「“一番大切な人とプレゼントを交換すると、その二人は幸せとともに結ばれる”……なんてベタなジンクス。休み時間はその話で盛り上がってたよ」
その時ふと、マナの顔が浮かび上がる。
「――マナへのプレゼント、考えなきゃな」
俺は思わずそう呟いたとき。
「あっ、ソウジ~!!」
噂をすれば、だ。鞄を持ったマナが急ぎ足で駆け寄ってきた。
「今日は急いでて一緒に帰れないの、ごめん!」
な、なんだそんなことか……
「ああ、いいんだ。気をつけてな」
俺は手を振りながら見送る。メビウスもさりげなく。
ところが、マナが去り際にこんなことを言った。
「あ、そうだ。鐘の祭典,二人で回ろうね~!!」
ちょ、おい……!
周囲にいた男子達の目つきが変わる。
しかし、返事をしないわけにはいかないだろう。
「お、おう!楽しみにしてるよ!」
彼女はそれを聞いて満足そうに廊下を駆け抜けていった。
……案の定というべきか、周囲の男子は妬みと羨望の嵐だ。
「そんな交際宣言みたいなことしなくても、メールでいいだろ……」
バツの悪い顔をしていると、メビウスが背中をバシッと叩いてきた。
「学園のアイドルと祭典を共に過ごす……まあ頑張りなよ、相棒」
「まったく……お前も楽しそうだな」
溜息をつくと、俺は鞄を肩に引っ掛けて歩き始めた。
「俺達も帰ろっか、メビウス」
何にせよ、これ以上廊下にいるのはごめんだ。
俺達は瞬く間に下宿先へと帰るのだった。
――道中、俺はアイのことを考えていた。
体育祭以来、彼女とブリッツは一度も学校に来ていない。20日の祭典はヤツと過ごすのか……?ものすごく嫌な光景が、鮮明に浮かび上がってくる。
ただ、体育祭のあの日。アイはブリッツの支配に抗っていたような気がした。
だから……もしかすると、なんて考えてしまう。
(アイも、マナも……何とかして見せる……!)
そう心に、決めたのだった。
※ ※ ※
祭典までの間、其々の思いが嬉々として馳せる。
「ソウジへのプレゼント……手作りって、ちょっと重いかな?」
白いマフラーを編みながら、マナは自宅で悩み続ける。
また――
「フフフ……このGPS装置をプレゼントに仕込んで……♡」
ルシファーは実家で、ケーキ作りに勤しんでいた。
「お姉ちゃん、顔が怖いよ……」
キッチンの陰から見守るルナが、引き気味に呟いた。
※ ※ ※
<帝暦2030年 12月20日 18時05分 王都ワルキュリー中央広間にて――>
瞬く間に時は流れ、鐘の祭典当日――。
日が暮れたことで、立ち並ぶ売店の賑わいが趣深く感じる。
また、広間一面には金の鐘が取り付けられ、電灯の光を温かく拡散させる。
そして何より目を引くのは、色とりどりの装飾で祭典を象徴する巨大なモミの木――通称“クロッシュイグドラシル”。
え?名前負けしてるって?……そこは突っ込まんといてくれ。
片手にプレゼントを持った俺は、イグドラシルの方へ走る。
一分ほど移動すると、近くの噴水に腰かけているマナの姿が。
俺は少し申し訳なさそうに彼女のところに駆け寄った。
「悪い!遅くなった、マナ――」
その時……周囲の空間が、突如歪んだ。
「なっ……!?」
視界から、マナがいなくなる……。
気が付いた時、俺の周りにはマナもいなければ、祭典の景色も無かった。
だが、辺りはゴシック風な街並み――見覚えがある。
「広間の外……文化財群か。」
警戒を強めた……その時。
「初めまして、ゲート。」
かつて聞いた、圧倒的な支配力を持つ甘美な声が耳を埋め尽くした。
――圧倒的な存在感と共に、白と紺色の衣装に身を包んだ青髪の女が、目の前に現れた。
大げさではないにせよ、位の高い装飾をしている。
――だがそれ以上に、俺は目の前の存在に絶句していた。
感覚で分かる――これまで相対した者とはケタが違いすぎる……!!
(……テレポート能力持ちの存在、なんてレベルのものじゃない……!!)
「ずっとこの日を待っていたわ……」
体が硬直している俺に、女が一歩ずつ歩み寄っていく。
「……ッ!答えろ!お前は、誰なんだッ……!?」
(動きを見ろ……!動きを……!)
できるだけ冷静になろうと努める。
だが、思考がろくに働かない……!!
「誰って……ふふっ、おかしな子」
すると、女は不敵な笑みを浮かべ……
気づくと、ヤツの掌が俺の胸に触れていた……!!
「なっ………ッ!!?」
「私は、あなたがもっとも狙う存在――」
ヤツの掌が、静かに握られる。
「――アルトリア帝国皇帝 "レクエリア厶・ザン・アルトリア"」
――その言葉と共に、俺の全身から血が噴き出した。




