第50話「25限目 : 体育祭④――お疲れ様と、シャル・ウィ・ダンス」
「「せーのっ!!」」
掛け声とともに、俺達は一歩を踏み出す――
が。
「あっ……!」
直後、マナがバランスを崩す。しかも体勢が悪いせいで手をつくことが出来ない!
ところどころでざわめきが起こる。
転倒の瀬戸際で、嘲笑を浮かべながら追い抜いていくブリッツと目が合った。
以前の俺なら挑発に乗っていただろう。
だがな……今は優先すべきことがあるんだよ……!
「マナッ!!」
俺は崩れる体勢のまま、地面に滑り込む。
同時に、叩きつけられる音が鳴る。
「てて……ソウジ……?」
土煙の中、俺のマナの顔が重なる……
そう、キス――
ではない。だがこの構図は……!
「あの時と同じだね……ふふっ」
「――!練習中の……!」
学園のアイドルにこんな醜態を晒させる羽目になるとは……!
だが、そんなことは今はどうでもいい。
俺はマナを支えながら確認する。
「マナ、まだいけそうか……いや、いけるよな!?」
マナは大きく頷く。
「もちろんっ!!悔いのないレースにしましょ、彼氏くん!!」
そして、俺達は再び進み始める。
1,2、1,2……
ゆっくりと、でも堅実に進んでゆく。
俺達が折り返したのを見て、先にいたブリッツは青筋を立てる。
「なんで……ッ、なんであんな満たされた顔してんだッ、アイツらァ……!!」
――次の組にバトンタッチしたとき、観客席や他クラスの走者達の歓声が轟いた。
「ゲート君だよな、アツイぜ!!」
「反逆者だって聞いてたから、正直怖かったけど……かっこよかった。」
思わぬ称賛に、俺の頬が緩む。
「へ?あ、ありがとうな。」
――あれだけでかい口聞いてたのに、ブリッツ達に負けたのは……まあ、うん。
チラッと隣を見る。
満足そうな、マナの眩しい顔――。
(マナが笑顔なら、それでいっか……)
観客席にいたメビウス、ソニア、エルシア会長も静かに微笑む。
「入学時からこんなことになるなんて、誰が予想できた?」
「メビウスさん、流石相棒みたいな顔しちゃって……」
「あら~?ソニアちゃんも流石お兄ちゃんみたいな顔、しちゃってるわよ」
会長はからかいながらも、しんみりとした面持ちで頬杖を突く。
「みんなの心まで変えちゃうんだから、世界だって変えちゃうかもね……ゲート君は」
※ ※ ※
その後、お昼休憩を挟んで午後の部へ。
応援団とチアダンス集団のパフォーマンス……全員リレー……
俺もしっかり応援した。桃色の天使の隣で――。
――そして遂に全競技が終わり、エルシア会長が順位発表やらした後、彼女の締めが競技場中に響き渡った。
「お疲れさまでした!!!」
<18時51分 王都総合学園 大広間にて――>
「ダンスパーティー、だと……!!?」
学園が体育祭後の祝賀会で賑わう。だが、この反逆者ゲートは、今までこのようなパーティーに無縁だっだ。
「なに固くなってるんだい、相棒!」
振り向くと、優雅なステップで周囲を魅了しているメビウスの姿が。
「ダンスというのはね――」
流れるように女子の手を取り、回転する。
「――こうするのさッ!」
「いや、いきなりできるかぁッ!教えてくれるなら、もっとゆっくりやってくれ!!」
それににしても、手慣れてるな。コイツが王族だってことを改めて認識させられた……。
諦めムードの俺は、グラスをかざしてそれとなく振る舞っていた……。
その時。
「ねぇ、ソウジ……」
少し暗い声が呼びかけてきた。向きを変えると、ドレス姿のルシファーがただならぬ面持ちで目の前に立っていた。
「おっ、ルシファー……?その、負けちまったのは悪……」
「それはもういいの……他のやり方を探すから。それよりも……!」
彼女の額から、冷や汗が流れている。
「……?!どうしたんだよ、ルシファー。何があった……!?」
空気を読んで、小声で聞く。
「実は……」
だが、彼女はハッとしたように口をつぐむ。
「……ごめんなさい、またの機会に。」
なんだ……?! 何か俺に不都合なことなのか……?!
しかし、ルシファーが俺の手を取ったので何も言わないことにした。
「少しだけ、踊りましょ?」
「あ、ああ。」
俺はリードされるままぎこちないステップを踏んでいく。
――ああああッ、情けない~ッ!!
と、こころの中で叫び続けていると、突然ルシファーの手が離れる。
「……行ってあげて、彼女のところ」
ルシファーの目線の向こうには、こちらをじっと見つめているマナの姿があった。
「彼女さん、なんでしょう……?」
ルシファーは笑顔……というより、すごく怖い顔していたが……。ただ、俺のすべきことは理解できた。
「行ってくる。また2人で踊ろう、ルシファー」
「――!!」
そういって、俺はマナのところへ向かった。
残ったルシファーはグラスを取り、一息つく。
「そういうところよ、ソウジ……♡」
※ ※ ※
<19時01分 王都総合学園 庭園にて――>
俺はマナに連れられるまま、少し肌寒い屋外へと出た。
学園の敷地内にあるこの庭園は、まさに薔薇の楽園といった趣を感じる。
「こんな庭園があったなんて、流石だな。」
「そうね……ここで踊りましょ!」
感嘆している俺の手を取り、静かなダンスがスタートする。
ケガの影響もあるので、あまり激しい動きはできない。けど、今の俺にはちょうどいい。
ダンス中、マナが口を開く。
「きれいなお花よね……。世界がこんな風に美しくて、温かければいいのにって思っちゃう」
やけにしんみりした話だな……。
「……俺も、そう思うよ。そんな
世界を変えたくて、反逆者になったし。でも――」
マナを引き寄せ、よく見るあのポーズ――コントラチェックを取る。見様見真似の形だけで、すごくぎこちなかったけど。
「マナがいるなら、もう反逆なんていいやって思った。」
――薔薇の花びらが、二人の間を舞う。
マナは何も言わず……
―――。
疲れ果てるまで、俺とマナは踊り続けた。
――唇に甘い余韻を残しながら。




