第49話「24限目 : 体育祭③――ロジックと二人三脚」
※ ※ ※
マナが教えてくれた出来事。それを聞いた俺は、安堵と感謝の気持ちでいっぱいになった。
さて、マナは何故助かったのか。
話によると、マナがあの時ぶつかった男子に小型爆弾を取り付けられていたという。
そして、それを察知した、ルシファーのアバターともいえるマギアのロボット“シュバリエッタ”のビット兵器が、ルシファーとシュバリエッタ本体を呼び寄せ、爆発の直前にマナから引き剥がしたそうだ。
だが、ここで一つ疑問が湧いてくる。
「なんでビット兵器が察知できるんだ?しかも爆弾って、よく分かったな……。」
すると、マナがにんまりしながら上を見上げる。
「ルシファーさん、答えてあげて。」
マナが叫んだ瞬間、上からルシファーが舞い降りてきた。
シュバリエッタを従え、どこか荘厳な感じで着地する。
……ラスボスかよ。
彼女は俺達二人の間に入るとマナを見て少しムッとしたような、そしてどことなく申し訳なさそうな顔をする。
「マナさん……あなたと馴れ合う気はないのですが……ソウジのために、仕方なくですよ?」
マナは少し控えめに笑う。
「うん、ありがとう」
ルシファーはプイッと踵を返して俺の方を見ると、優しく会釈する。
――ちょっと目が怖かったけど。
「……質問に答えてあげる。第一に、シュバリエッタは私の固有マギア。子機のビット兵器も、私の目となり体同然なのよ。”ホーリーナイトメア事件”のときも、命中精度が高かったことに驚いてたでしょう?」
……確かに、あの時ルシファーを看破した推理にも、さらに説得力が増す。
「第二に、私はその爆弾を見たことがあったこと。あれは暴虐の大司教が使う、拠点破壊用の小型爆弾って分かったから、すぐにブリッツの差し金って察したわ。」
「ただ、ブリッツ達を欺くために、ギリギリまで爆弾を引き剝がさなかったせいで……」
ルシファーがマナの右足を躊躇いながら見る。
「これは……ッ!」
俺は思わず二度見する。彼女の右足が赤く腫れているのだ。
「上空で爆破させたのだけど、引き剥がした衝撃で捻ってしまったの。ごめんなさいね、マナさん……。」
その言葉を聞いて、俺は胸のあたりが熱くなる。
ルシファーがマナにそんなことを言うとは……。
「全然大丈夫だよ!ルシファーさんがいなかったら、捻挫どころじゃなかったもん。むしろ私がお礼を言うべきっていうか……」
「い、いえ……とんでもないわ」
「とんでもなくないよ」
な、なんだこの応酬は……?
だが、時間がない。
二人三脚の開始10分前のアナウンスが鳴り響く。つまり、混乱こそあれど競技は予定通り進めるということだろう。
「い、一旦話は後にしよう!だがマナの足……」
俺は状況を鑑みる。彼女は腫れた足を、添え木で固定している。
「やっぱり、二人三脚は……」
マナのどこか諦めたような、悲しげな表情。その顔が、距離を縮めた種目決めの記憶を思い起こす――。
「……やるぞ、マナ。」
「え……?」
「俺を相方にしてくれたマナの体育祭の思い出が、俺のせいで不完全燃焼になるなんて、納得できるか!!」
熱く語る俺の様子に、マナは呆気にとられる。
「でもどうすれば――」
「簡単だ!マナの右足を俺に括り付ければいいんだ!」
俺は必死だ。そして大きく息を吸って、心の底からこう叫ぶ……!
「俺と最後まで走り切ろうぜ!マナ!!」
――秋のそよ風が、沈んだ空気を入れ替える。
「……ちょっとかっこいいの、やめてよ……」
マナは頬を紅潮させる。
「わかった……!走り切ろうね、ソウジ……!」
エントリーを決意した俺達の様子に、ルシファーはコホンと咳払いする。
「……ソウジ、マナ、酷だけど勝ってね。以前言った、ブリッツをAクラスの暴君から引きずり下ろすためにも。」
そう……Aクラスの異変。以前ブリッツは、メビウスに俺達が奴らに二人三脚で勝てば、異変がなんなのか教えてやるといった。
「……ブリッツに何のメリットもない提案。しかも口約束だ。約束を無かったことにする気がする。」
俺は静かに推測する。
「だがな……約束云々抜いても、大切な人を巻き込んで競技を台無しにしたアイツには、何が何でも勝つ……!!」
それを聞いたルシファーは、満足げに手を振って見送ってくれた――。
俺たちがグラウンドに入った後、彼女は踵を返して立ち去る。
が――
「それは、候補生に対する敵意か?“恋慕”。」
無機質な声に、ルシファーはこれまでにない程の冷や汗をかく。
「……何の用でしょうか?」
見られてしまっていたんだ。しかもよりによって……
(――“追葬”の、大司教に……!)
※ ※ ※
<11時03分 総合競技場 グラウンドにて――>
「マナ・ランドフェイトが……ほぼ無傷だと……!!?」
棄権したはずの憎きコンビ。その健全な姿にブリッツは顔を歪ませた。
「確実に潰せたハズなのに……!!クソが……ッ!!」
「も……申し訳ございませんブリッツ様。」
「うるさいッ!謝罪は後だッ!」
(アイの洗脳が揺らいでいる……?!こんなときに……ッ!!)
想定外の連続で、メンタルが不安定なブリッツ達に対し、俺とマナは悠然と走順を待っている。
短期間でここまで積み上げてきたんだ、俺とマナの信頼を……!
前の組が折り返してくる。
「いくよ、ソウジ!」
「ああ、マナ!」
前の組がラインを踏んだと同時に、俺達は括り付けられた足を踏み出した。
(マナ……俺、お前と最後までやり切るから……
体育祭の後、俺と一緒にしたいこと全部……!)
――次回、体育祭編 完結。




