第48話「23限目 : 体育祭②――卑劣なスイッチと二人三脚」
戦場となった灰色の通路は、強烈な緊張感で満ちていた。
「なんだ……そのスイッチは!?」
ブリッツはただ、不気味な笑い声を上げながらゆっくりと立ち上がる。
「なぁゲート、俺はテメェを本気で殺しに来てんだぜ……?テメェはさっきの攻撃で息の根を止めるべきだったんだよ。俺が反撃するっていう可能性を潰す為になぁ……!!」
余裕を取り戻したかのように、ブリッツが饒舌になる。
隠し玉を持っていますと言わんばかりの露骨さだ。
俺は冷静に最適解を探す。
(すぐにでも飛び掛かりたいが、奴が何を仕掛けてくるか分からない……!)
一歩、退く。
「どうした、ビビってんのか?それなら……」
それを見たブリッツは、口角を意地悪く上げる。
「教えてやるよ、このスイッチのこと」
スイッチがブリッツの指に掛かる。
「この後の二人三脚……混乱の最中、Bクラスの女子が棄権する。この意味、テメェならわかるよなぁ?」
俺は冷や汗を流しながら思考を巡らせる。
(混乱……棄権……認識改変……?いや、ヤツのスイッチの形状……マギアとは関係ない、科学の結晶……!?)
――直後、俺は最悪の答えを導く。
「まさか、爆弾テロか……!?」
ブリッツはヘラヘラしながら手を叩く。
「察しがいいなァ……想像してろ、これからテメェの女が木っ端微塵になる様をなァ!」
「正気か……!?学園でテロなんて、自分の首を絞めているようなもんだぞ!!」
「心配ねェよ!俺の代わりに罪を被ってくれる、友達がいるからなァ!!」
その言葉に、俺の血の気が急激に失せる。
脳裏に映る、事切れたマナの姿――。
ヤツの非道さに、俺は全身から鳥肌が立つ。
「ブリッツ……させるかぁ!!」
俺はとっさに指弾を放とうとする!
だが、突如出現した氷壁が、俺の射線を阻まむ!
「チッ……!」
傍観者だったアイが、こんなところで介入してくるとは……!
ブリッツの顔が狂気に染まる。
「ゲートォ!!手遅れでツメの甘いテメェに、盛大なプレゼントだぁぁッ!!!」
俺の劣勢を確信したブリッツが高らかにスイッチを押す。
「しまっ――!」
――一瞬、音が消える。
そして、通路の向こう側で爆発音が耳を劈いた。
「〜〜〜!!」
俺は言葉にならない声を上げた。
会場が騒めき出す音と、ブリッツの笑い声――。
そんな不快な音が、逆に放心状態の俺の体を叩き起こした。
(見るのが怖い……でも動かないと……確認しないと……!)
唇を噛み、俺は氷壁を突き破って爆心地へ走る!
「おっと、行かせねぇよっ!」
だが、ブリッツがイラつく声で俺の眼前に立ち塞がる。
「さっきのお返しだァ!!ソラッ!」
――焦り故に、判断が遅れた。
直後、赤雷の拳が俺の顔面に直撃する。
そして、そのまま反対側に吹き飛ばされた。
「ぐはっっ!!」
灰色の土煙が舞う中、俺は流れる鼻血を擦りながら顔を上げる。
この感覚……鼻が砕けたか。だがこのくらい……!!
立ち上がると、進行方向にアイとブリッツが構えている。
「アイ……」
彼女を静かに見据える。
謝罪の気持ちと、どす黒い感情が蠢く。
「必ず迎えに行くから、今は――」
拳を握りしめながら、歩みを進める。
「――どけ……どけぇぇぇッッ!!!」
俺は地面を思い切り踏みしめ、再び爆心地へと駆け出す!
そのとき――アイが自分から道を空けた。
「なっ……!?どういうつもりだ、アイ!!」
予想外の展開にブリッツが狼狽する。
無論、俺も驚愕する。しかし、すれ違いざまに見たアイの顔に確信を得た。
「……ありがとう」
小さくお礼を呟き、俺は一瞥もせず通路を抜けだしていった。
――アイが自分を取り戻しかけていたという、ほんのわずかな希望を抱えて。
※ ※ ※
<爆心地(推定)にて――>
「ハァ、ハァ……ッ、おかしい……」
マナの姿が見当たらない……だけじゃない。
「爆発跡が、ない……!?」
周囲が混乱状態なのは分かる。体育祭の真っ最中にテロが起きたのだから。しかし、救護班の一人も見当たらないのは不自然だ。
「わけが……わからない」
ただ茫然と立ち尽くす。
「どこいったんだ……マナ――」
俯きながら唇を嚙み締めたとき――
誰かが、俺の両目を手で塞いだ。
「だ~れだ?」
その声と言葉に、俺は目が潤む。
そして……およそ一分間、その人物が耳元で話続けた。
話を聞き終えた後、俺は後ろを振り向く。
「マナ……!俺、君と最後までやり切るから」
〈――二人三脚まで、あと10分――〉




