第47話「22限目 : 体育祭①――染まるタイヤとブリッツ再戦」
<10月5日 未明――>
ある一家の住宅が破壊され、市街地に似つかわしくない排気音が相対する者達に恐怖を与える。
周囲の住宅はカーテンを不自然な程に締め切っていた。
「だ、大司教様!?いきなり何のつもりです……!?」
「とある筋から、お前達が皇帝を侮辱していたことが判明した。故に処刑する。」
冷徹な女の声が、残酷な宣告を言い渡した。
「とある筋……!?納得できるか……そんなことぉ!!」
中年の男が銃を構える。手が震えていて、お世辞にも腕が立つ者とは思えなかったが。
「やめて!この子は関係ないわ、だからこの子だけはぁぁ!!」
男の背後には、赤子を抱えた女性が頭を下げて懇願する。
だが、それをあざ笑うかのように、アクセルを踏みしめる音が正面から鳴り響く。
「親の罪は子の罪。」
無機質な声の方角にいたのは、フォーミュラカーに乗った仮面の人物。そのシルエットを、月明かりが照らす。
「呪うなら、赤子に反逆の罪を負わせた自分の口を呪うんだな」
フォーミュラカーが一家をめがけて突っ込んでいく。
「いや……いやああああ――!!」
「あ、悪魔め……!!」
――男の銃の乱射も意味を為さなかった。
赤い血とピンクの何かが、男女のいたところを染め上げる。
「……赤子を残してしまったか。」
仮面の人物が、静かに呟く。
振り向くと、血塗れの赤ん坊が大声で泣き叫んでいる。
「……ヨルズ、任せる。」
そう言ってバックで去っていくのだった。
遠くなっていく排気音を背に、残った女は赤ん坊にゆっくりと近づいていく。
月夜に照らされた彼女の姿は、まさにレースクイーンそのものだ。
「許してちょうだい……」
ヨルズが手をかざす。
それ以降、赤ん坊が泣くことは終ぞ無かった――。
小さくため息をつき、彼女が踵を返す。
が、大男が眼前に立ち塞がる。
「ひゅ~!やり口がえげつねェな、追葬?」
「……暴虐の大司教様でございますか。追葬様の後始末に?」
すると、暴虐が豪快に笑う。
「ガハハハハッ!!察しがいいな、アンタは!」
ヨルズは一瞥もせず横切っていく。
「あの“ランペイジフォーミュラ”は、近いうちに数多の血でタイヤを染め上げます。その様を、どうぞご覧下さいませ。」
夜が明け、惨状を照らす。
現場に残った赤いタイヤの跡が、新たに吹く嵐を物語っていた――。
※ ※ ※
<9時30分 競技場にて――>
「Aクラス、勝つぞぉぉ!!」
「おおっっ!!」
体育祭当日。天気に恵まれ、帝国最大の総合競技場は大賑わいだ。
「ゲート、そこに屋根を張っておいて」
「わかった、すぐ行く」
俺もクラスの仕事に忙しい。本を仕舞い、エリア中を駆け回っていた。
「ふぅー……」
その後、開会式が始まり、ラジオ体操や校歌斉唱……一般的な学校と、そこらへんはあまり変わらない。
そんな中、俺は校長の話を聞かず本の内容を反芻していた。
第一種目が始まり、観客席から歓声をあげつつも頭の中では何度も何度も……。
「――ジ、ソウジ!」
だが、耳元で名前を呼ばれた俺は、ハッと我に返る。
横を向くと、マナが不服そうな面持ちで見つめていた。
「も~う!ずっとむつかしい顔をしてたよ、ソウジったら。」
俺はバツの悪さに口を尖らせた。
「わ、悪い。」
すると、マナがスッと立ち上がった。
「じゃあ、私用事あるから先に行ってるね。」
「あと!二人三脚は11時からだよ、ソウジ!」
彼女は手を振って、観客席をそそくさと去っていった。
俺も手を振り返し、マナを笑顔で見送った。
――途中、マナが生徒とぶつかって、支えてもらっている光景を目にしてムッとしたが。
マナがいなくなった後、俺はボンヤリと空を見上げた。
……恋人って、こんなもんなのか?
上を向いて、理想とのズレに悶々としていた。
――が、その時。
青髪ハーフアップの凍えるような女子が、目の前を通り過ぎる。
それは、俺の気を引き締めるのには十分すぎた。
「アイ……!?」
敵の手に堕ちた俺の案内人を追うべく、後を追う。
(まだ、お前を救えてない……!)
コンクリートの通路に入っていくアイに続いて、俺も中に足を踏み入れた――その瞬間。
赤雷を纏った礫が、眼前に飛び出してきた。
「ハッ!」
俺は裏拳でそれを砕く。
拳がヒリつく、この痛み……。
「……まんまと乗せられたってワケか。」
俺は静かに前方を睨みつける。
「ブリッツ・レオ二ウス、用があるなら直接言えよ。恥ずかしがり屋か?」
因縁の男がアイを退かせ、口角を上げる。
「随分と偉そうな口が利けるようになったようだなぁ、雑魚。」
そう言った奴の体から、赤い閃光が迸る。
「ここは人気が無くていい……。」
奴の足が隆起する。豪快な構えだ。
(足……)
俺は奴の力の入れ具合を見据える。
「テメェはここで殺す。アイは渡さなねェ……!!」
何言ってんだ、コイツは……!
「俺は死なない。アイは必ず取り戻す。」
俺も負けじと全身に力を……
入れなかった。
「あ……?」
ブリッツは俺の脱力に一瞬驚いたようだが、すぐ平常を取り戻す。
「やる気がねェなら、とっととくたばれェェ!!!」
それと同時、赤い軌跡が高速で突っ込んでくる。
(大丈夫だ、落ち着け……!)
だが、俺は待つ。
待ち続ける!
(最初の挙動で二手先を……だが、急所を狙ってはならない……)
頭の中で、本の内容を再生する。
奴の拳があと30センチ……15センチ……10――。
「ここだ!」
俺は掌を迫りくる拳にそっと添える。
「ハッ!」
続けて流れに任せ、ブリッツの体を往なした。
「なんだと……!?」
壁に激突したブリッツは今起こったことが理解できなかった。
奴は即座に立ち上がり、多少の貫手の構えを取った。
再び、赤い閃光が駆け回る。
フェイントを混ぜている……なるほどな。
「読める……!」
俺は緊張の汗を流しながらも、マギアの準備に入る。
(足の力を抜いて、右手を固く握りしめろ……!)
『シザロリッカー!』
その瞬間、ブリッツの視界から俺の姿が消えた。
「は……?また――」
直後、奴の腹に鉄塊の拳が突き刺さる!
「ゴハッ……!!」
天井にクレーターを作り、悶絶する。
戦いを見ていたアイも目を見開いていた。
「ウソでしょ……!?なんで急にこんなことが……!?」
「カウンタースタイル……短期習得だとこんな感じか。」
――昨日ルシファーが言っていた。俺は突出した分野はない。逆に言えば、どんな分野にも対応できる柔軟性がある。それが俺の強さだと。
俺はブリッツを見下ろす。
「ブリッツ・レオニウス……これがお前を倒せる俺の“型”だっ!!」
前回とは真逆の展開に、ブリッツは歯ぎしりする。
「クソッ……!」
だがその手には、怪しげなスイッチが握られていた――。




