第42話「17限目 : 姉弟氷上決戦――ターミネーション」
<帝暦2030年 9月26日 17時15分 商業施設“ワルキュリア・シティモール”中庭にて――>
「ハァ…ハァ……!」
俺の体中は青紫に腫れあがっていた。
呼吸が、辛い……。
「タフさは認めるぜ……だがなァ……!」
それと同時、俺の鳩尾に赤雷の拳が突き刺さった。
「ガハッ……!!」
そのまま噴水に衝突し、大量の水が振りかかる。
「……弱ェ、テメェから吹っ掛けといてこのザマか。」
10数メートル先から、ブリッツが腹立たし気に吐き捨てる。
俺は水しぶきをあげながらゆっくりと立つ。
やられてはいるが、たった数分だけでも得られるものは大きいな…。
「スピードは驚異的でも、パワーは思ったほどじゃないな……。強いのは態度だけか?」
精一杯の挑発。だが、ブリッツが鼻を鳴らしながらせせら笑う。
「ハッ!こっちのセリフだ、チキンが。」
「テメェ、さっきから攻撃する素振りが一切ねェ。どうした、来いよ?それとも……」
奴が地面を踏みしめる。
「人に危害を加えんのにビビってんのかァ?」
は……?
俺の手から黒薔薇の剣が離れる。
何を言って……
事実、奴の体は傷一つない。強いて言えば、赤くなっている拳だけ。
「やる気のないイキりはここで死――」
その時だ。
『退きなさい、レオニウス。』
圧倒的存在感を放つ謎の声が、頭に直接響き渡る……!
「お、女の…声……?」
なんだこの声……。頭を優しく撫でられるような――
俺の体から、力の糸がゆっくりと切れていく……。
『“あなたの”エルシアは死んだ。アイも戦闘不能。あなたの負けよ、ブリッツ・レオニウス。』
途端、ブリッツの顔から余裕が消える。
「……クソッ!!」
――エルシア……アイ……?
――!
その報告を聞いて我に返る。
「メビウス……!」
声が消え去った後、水音が俺達二人を囲う。
「……人生が延びたな。」
ブリッツが呟く。ただ、さっきと決定的に違うのは……
「……体育祭が終わるまで、せいぜい悔いが残らねえようにな……。どんな手を使ってでも、俺がテメェを潰すッ!」
……親の仇のように、俺を見る目がドス黒くなったことだ。
奴は踵を返し、赤い軌跡を描き消えていった――。
※ ※ ※
〈帝暦2030年 9月26日 17時11分 商業施設“ワルキュリア・シティモール” カフェテリア付近にて――。〉
「悪い、遅くなった!」
青アザだらけの体にムチ打ち合流地点に向かうと、既に全員揃っていた。
「あっ、ゲートく――だっ、大丈夫そのケガ?!」
マナが駆け寄る。
「ああ、問題ない。それより……」
俺は光る鎖に縛られているアイを見る。
「……コイツは、まだなのか?」
メビウスが、ゆっくりと頷く。
「……いいんだ。アイの鎖を、解いてやってくれないか……?」
「すまない……ゲート君。」
彼が剣の鍔を二回弾くと、鎖が粒子となって消えていく。
「……何のつもりかしら?」
アイが訝し気にこちらを見た。
「早く主様のとこに帰れ。あいつ、機嫌悪いから。」
俺は敢えて彼女から目を逸らした。
でないと……!
「…言われなくても帰るわよ。何いい子ぶって……。」
アイが冷たく言い放つ。
しかし――
「……またね、ゲート。」
去り際にボソッと呟き、消えていった――。
「さて……」
一段落ついた後、俺はメビウスに歩み寄る。
彼の顔は、憑き物が落ちたかのように、晴れやかだった。
「メビウス、お疲れ様。」
たった一言、これだけは言いたかった。
メビウスは一瞬、キョトンとする。そのあとすぐ指で頬をつついてきた。
「それはお互い様でしょ、相棒?」
こいつ……!
思わず、笑みが零れる。
――その光景を遠くから見る、2人の男女が話していた。
「……いい友人を持ちましたね、メビウスは。どうです陛下?」眼帯の男が横を向く。
「……今は何も言わないわ。」
陛下と言われた女は、ある一人を見つめながら思案していた。
――悪魔の生贄に相応しいのは、あの子かしら……?
「……何をお考えで?」
眼帯の男が、低い声で聞く。しかし、女はさらりと流した。
「いいえ、行きましょう。」
そういって、彼女らは突如噴き出た黒い霧の中に消えていった――。
――俺は、生徒会長の方に体を向ける。
「初めまして、俺はゲート。メビウスの相棒です。」
お辞儀をする。顔を上げると、彼女は嬉しそうな笑顔でお辞儀し返す。
「はじめまして!私はエルシア・ディ・アルトリア。」
彼女が顔をあげる。
「メビウスの、お姉ちゃんです!!」
姉姉弟氷上決戦、いかがだったでしょうか?
気づけば想定よりかなり長い戦いになっていましたが、その分ゲートやメビウスの感情を書ききれたと思います。
そして、王都総合学園編もいよいよ後半へ。 物語に一つの区切りをつける第4章、ぜひ最後まで見届けていただけると嬉しいです!
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