第37話「12限目 : 姉弟氷上決戦――ストリーム」
今回の話は、メビウスの過去についての回です。
「こ、これは……?!」
僕の脳内に流れたのは、ノイズの走った幸せだった過去とはらわたが煮えくり返るような別れの記憶。僕の意識はその激流に飲み込まれていった――。
※ ※ ※
<帝暦????年 春 アルトリア宮殿内 アミキティア庭園にて――>
(……う~ん…ここは一体……?)
視界に映るのは、澄み切った青空と温かい木漏れ日。さっきまでの殺伐とした環境はどこへ行ったのか……。
「あ~!やっと起きた!」
突如、可愛らしい声が僕の耳を撫でた。振り向くと、何故か幼い姉様が隣に寝転がっていた。
「メビウスったら、ほんとにお昼寝が好きよね。」
姉様が優しく微笑む。その笑顔は、まさに僕が取り戻したかった顔だ。
しかし、状況が余りにも急過ぎる。まるで今までの全てが夢だったかのような展開だ。
「なっ…なんで……!?ありえない……まだ何も果たしていないのに……!」
罠かもしれない。
僕は彼女から距離をとろうとする。
しかし……
「うわっ!」
足が思うように動かず、その場で転んでしまった。
「…いてて、なんで…って、嘘だろ?!」
僕は自分の姿に驚愕する。
足が小さい。手のひらも小学生みたいな小ささだ。
慌てて近くの水辺を覗き見ると、見事に体が縮んでいた。
「どうしたの、お姉ちゃんに何か付いてる?」
驚いている僕に、姉様はあり得ない一言を口にした……!
「え…今、お姉ちゃんて……?」
次から次へと……頭が混乱する……!
「当然でしょ〜?この私、エルシア・ディ・アルトリアは、あなただけのお姉ちゃんだよ。」
姉様は不思議そうに首を傾げる。
「まったくも〜、まだ寝ぼけてるの?」
固まってる僕を見て、彼女はからかうような笑顔を浮かべた。
「そんな弟くんには〜、こうだ!」
そう言うと、姉様はお留守になっている僕の両脇をくすぐり始めた!
「はえっ?!…ちょやっ、やめ、やめて〜〜!」
僕は必死に懇願する。
「だ〜め!ちゃんとお姉ちゃんを認識できるまでやめないよ〜。」
さらにくすぐられる。
も、もう限界……!
「うっ、うんっ!分かった、わかったからぁ!ねっ姉様、姉様やめてぇ〜
〜!」
すると、満足したかのように姉様の手が脇から離れる。
「ふふっ、よく言えました〜〜★」
そう言いながら、彼女は息を切らしている僕を見る。
「メビウス……」
彼女が再び腕を伸ばした。
そして――
「え……?姉……様……?」
姉様が、僕を優しく抱きしめた――。
あまりに唐突な状況に、僕は混乱が解けない。
「怖い夢でも見たのかな…?お姉ちゃんがいなくなっちゃう夢でも見た……?」
姉様の温かい手が、僕の頭を優しく撫でる。
「大丈夫だよ、メビウス。私は絶対弟くんから離れないから……!」
最愛の人の言葉を聞きながら、僕の感情はぐちゃぐちゃになってゆく……。
「……ねえ…さまぁ……!ずるいよ…こんなの……!」
僕の口に、しょっぱい雫が流れ込む……。
「ずっど……、ここに……!優しい姉様と…、一緒にいたいっ……!!」
これが本当の世界……もうつらくなる必要なんて――
【違うっ!!】
その時、僕の影が否定する。
その声を聞いた瞬間、ブリッツ・レオニウスの憎き笑み……虚ろな目をした姉様……皇帝の目が脳裏に映る……!
僕は唇を噛み締め、その声に応える。
『ああそうだ……分かってるよ……!…これは過去のことであって、まやかしに過ぎないってことは……!』
姉様をより強く抱きしめながら、僕は続ける。
『でも……!僕はこの世界にいたい……!だから僕はっ…!』
心の中でこう叫ぶ。
『このまやかしを現実にしたいんだ……!!』
その叫びに納得したかのように、僕の影は笑いながら消えていった……。
【奪還してみせろよ、僕……!】
蝶が舞い、色とりどりの花が咲き誇る美しい庭で――
僕は姉様の胸に顔を埋めて泣き続けた。
〈夕方――〉
目元を腫らした僕に、姉様は剣を見せる。
「ちょっとだけ、お姉ちゃんと練習しましょ。」
その後、姉様は神剣ルティウスを抜き、剣先を僕に向けた。
「ルティウスはね、斬りたいものだけを斬る剣なの。 こんな風にね。」
次の瞬間、反応もできない程のスピートで剣が僕を切り裂いた――ように見えた。
「……! あれ、何ともな――」
その時、僕の下半身に違和感が。
それと同時、僕の下着が、細切れになってシャツから落ちていった。
「なっ……!」
驚愕する僕を他所に、姉様はクスッと笑う。
「驚いた?誰にも見せたことのない秘伝の技だよ。」
「……驚くさ。なんで他は無傷なんだ……?」
こんな技、一度も見せたことがなかったのに。
すると、深刻な顔つきをした僕をほぐすように、可愛らしい声が耳に入った。
「メビウスも練習してみよ?必要なのは愛だからね、愛。」
愛……?
「抽象的だね……僕は姉――」
そう言いながら、僕が神剣ルティウスを取ろうとしたとき――
『――終わりだ――』
禍々しいノイズの走った声が、突如轟いた……!
「なっ……!」
それと同時、ドス黒い無数の手が僕を飲み込んでしまった――。
※ ※ ※
「くっ……!」
真っ暗な空間……。また飛ばされたのか……?
その時、誰かが僕の名前を呼んだ。振り向くと、
少し大きくなった姉様の姿があった。
「ごめんね、メビウス……。お姉ちゃん、もう……。」
悲壮な声で姉様が話す。
「あなたの傍にいられないの……!」
彼女から溢れた涙に、ブリッツ・レオニウスの顔が映っていた――。




