第36話「11限目 : 姉弟氷上決戦――ビギニング」
〈帝暦2030年 9月26日 17時08分 商業施設“ワルキュリア・シティモール” 内広間――〉
「待たせたな」
噴水を中心に広がる花園で、俺はブリッツと対峙する。
「おいおい……笑わせんなよ。罪人が花に囲まれて死にてぇのか?」
奴のニヤついた顔が、俺の瞳に映る。
どうやら奴は先程の調子を取り戻したようだ。
「そうだな……こんな場所で最期を迎えるのも悪くない。けど、俺は死ぬつもりなんて無い!」
俺の言葉に、ブリッツの口元が歪む。
「……はあ?俺のスピードにヒビってたテメェが、急に同じ土俵に立てるとでもいいてぇのか?」
奴の身体が、赤雷を纏う……!
その姿はまるで赤鬼のようだ。
だが、それに気圧される事なく、俺は黒薔薇の剣を握り、居合の構えをとる――!
「土俵に立てなきゃ……終わるんだよッ!」
こいつを、メビウスの所には行かせない……!
花の揺れが一瞬、凪ぐ――。
『獅子赤雷拳……石火雷電!』
『テージウィンド!』
ブリッツと同時に、俺は地面を蹴り上げた。
その瞬間、花弁が舞い上がった――。
※ ※ ※
〈同時刻 ワルキュリア・シティモール カフェテリア付近にて――〉
僕の名はメビウス。今この瞬間、正念場を迎えている男だ。
(ゲート君がブリッツを引き離してくれた……。これで……!)
剣を突き出しながら、エルシア会長―姉様とアイさんに一歩ずつ歩み寄っていく。
「エルシア会長……いえ姉様、この剣を覚えていますか……?」
それは白い鞘に金の装飾が取り付けられた、絢爛な剣。
「僕が幼い頃、姉様はこの剣……神剣ルティウスを使って、剣技を教えてくれました。ブリッツ・レオニウスではなく、この僕に……!」
僕は彼女の目を見ながら、必死に訴えかける。
「……何の話をしてるの?その剣も、君のことも全然知らないよ」
虚ろな瞳で、姉様が返す。
「私の弟くんはあの子……ブリッツだけだよ」
またその言葉……!こんなの姉様じゃない……!!
「またそれですか……?答えてください、奴はいつから――」
僕の体の中で、ドス黒い衝動が迸る。
口を開けばブリッツ、ブリッツ……いい加減にしろ……!
「ブリッツはいつから、アンタの弟だったのか答えろォォ!!」
衝動のままに、彼女に斬りかかろうとルティウスを振り上げた。
だが、次の瞬間。
突如生成された鋭い氷壁が、僕をカフェテリアの奥へ吹き飛ばした……!
「ガハッ……!」
それと同時、引き抜かれた剣を見て僕は我に返る。
「な、なんで僕は姉様に……!?」
理由を考えたかった……でも、今は冷静さを取り戻さないと。もうこんなことにはならないように。
立ち上がると、アイさんが氷の剣を突き立てて至近距離にいた……!
「ブリッツ様のご家族に危害を加える者は、許さない」
彼女は冷たく言い放つ。
「くっ……!」
剣の力で回避する。
射程圏外に光速のバックステップを踏んだ……筈だった。
「……バカな……!」
胸に触れた掌が、赤く染まっていた。
そう……凍てつく刃が、僕の身体を斬りつけていたんだ。
噴き出した血すら凍りつくような、凄まじい冷気――!
「ぐっ……!」
何でだ、完全に避けた筈なのに……!?
必死に距離を取る。そこで僕の瞳に、厄介なものが映り込んだ……!
「成程……あなたがバフ要員というわけですか、姉様!」
そう……アイさんの後方で呪文を唱え続け、彼女に力を流し込んでいる姉様の姿が……!
僕は冷静に思考を巡らせる。
(戦うのは分が悪い……。ゲート君が持ち堪えられる時間も少ないだろう。ならば……!)
僕は剣を鞘に収め、目を見開く。
(最速で、2人を正気に戻すまで……!)
――それを上から見つめる、謎の二人組。
「あの子はやっぱりダメね……悪意が獰猛すぎるわ」
青髪の女があくびをした。
「陛下……あなたという人は本当に、愛が無い」
眼帯の青年が溜息をつく。
「あら、あなたにはあるのかしら?」
女が意地悪な笑みを浮かべる。
「あるに決まっているでしょう。それに……」
男の目が、女を睨みつける。
「私は下品な男が嫌いだ。場合によっては、メビウスに手を貸すのもやぶさかではありませんが?」
それを聞いた女の目から、ハイライトが消える。
「……その下品な男が、私の部下であっても?」
そして……彼らは介入を始める。
その瞬間、僕の頭に悍ましい何かが流れ込んできた――。




