第35話 「10限目 : 牙を剥くGlacies―僕を忘れるな―」
その瞳は、敵に回ると厄介この上ない代物だった……!
「――アイ!」
しまった……!まだ何の収穫も得てないのにコレかよ!?
次の瞬間。2本の氷針が、俺達の眉間に迫りくる――!
「悪い、マナ!」
俺はマナを突き飛ばし、反動で横にかっ飛ぶ!
間一髪、氷針が頭を撃ち抜くことは無かった……が、壁に突き刺さったそれらを見て、俺は鳥肌が立つ。
「一切躊躇しなかった……!メビウスの言う通りだな、クソッ!」
このショッピングモールでまた騒ぎなんてことは、ホント勘弁してほしい。
その時、アイ達が突然腰を上げた。
「ブリッツ様、件のネズミは彼らですね。如何なさいましょう?」
俺の知ってるアイじゃない……無機質な声。
「……お姉ちゃん、盗み聞きする人は許せないな〜〜?」
始業式で聞いた、可愛らしい声……。だが今は鬱陶しいことこの上ない。
一瞬音が凪いだ後、野太い声がショッピングモール全体に響き渡る。
「クックッ……!そうだなァ……!」
「皆、よく聞けェ!このブリッツ・レオニウスが告ぐッ!!」
その声に、俺は吐き気を催す。
「反逆者ゲートがまたもや騒ぎを起こしたッ!取り押さえろォォ!!」
それはこの場所で起きた、忌まわしき扇動を思い出させた……!
周囲から、無数の声が突き刺さる。
「大司教様にやられても懲りないヤツ……!」
やめろ……違う……!
「もう来ないでよっ!」
違うんだ……!
「………」
「どうした反逆者、急に黙りかァ?」
ブリッツが一歩ずつ、近づいてくる。
「社会的弱者ってもんは、辛えよなァ?」
また一歩。ヤツの拳に赤雷が奔る――。
「だからこの俺が、楽にしてやらぁぁ!!」
目の前に止まる。そして赤雷の拳が、俺の顔面目掛けて跳んでくる――筈だった。
「違うよ皆……!」
俺の前に、天使が舞い降りた――。
「マナさん……!?」
「マナ様!?なんでここに?!」
世間から人望の厚いランドフェイト家のご令嬢の登場に、周囲は混乱に包まれる。
「ゲート君はそんな事をする人じゃないよ!バイオテロ事件のときだって、襲われている人達を助けたんだよ!?」
マナの声が、人々の心に浸透していく。
……そういや、そんなことを話したっけ。
「ここにいるはずだよ……!彼の本当の姿を、見た人が!!」
辺りが静まりかえる。
当然、誰も答えなかった――
――なんてことは、無かったんだ……!
「お、お兄ちゃん……、私のこと、覚えてる……?」
人混みの中から、一人の少女が姿を現す。
あの時、ゾンビに襲われていた女の子。後ろには母親らしき女性が心配そうにしている。
そうか……無事だったんだ。
「今まで言い出せなくて、ごめんなさい……っ!助けてくれて……ありがとう……!」
その子が俺に抱きついた。
次の瞬間。
次から次へ、助けられた……、ごめん……、ありがとう……と、温かい言葉が投げかけられる……。
俺は顔を上げて皆を見る。その顔は、微笑んでいたかもしれない。
反逆の道は辛い。それでも、たった一人でも救うことができるなら……!
「どういたしまして。さあ、皆離れて」
俺は少女を優しく見送る。
「皆さん、こっちです!大丈夫ですよ!」
マナが誘導をかける。
人々が離れていく中、俺はブリッツの正面に立つ。
「これがお前の振りまいた悪意か。正直辛かったぜ、アレは」
俺の目が、ヤツを捉える。
「ルナを人質に取った時に殺らなかったのは、ランドフェイト家のご令嬢だったからか?おかげさまでマナに救われた」
それを聞いたブリッツが、舌打ちする。
「テメェ……!」
そんなヤツの態度を気にすることなく、俺は中庭を指差す。
「ブリッツ・レオニウス、お前とサシで勝負したい」
ブリッツの眉間に、シワが寄る。
「……舐メてんのか?」
そう言いながらも、ヤツは中庭に向かっていく。
そうだ、コレでいい……!
(もう俺は、二の足なんて踏まない……!)
エルシア会長とアイも動こうとしたが、俺が剣を向ける。
「お前らに用は無い。ついて来るな」
虚ろなアイを見ながら、俺は冷たく答える。
「用があるのは、コイツらだ」
そう言って、俺は踵を返してこの場を後にする。
それと同時、入れ替わるように白銀の剣士が彼女らの前に姿を現す。
「メビウス・ディ・アルトリア、目標を奪還する……!」
メビウスの参戦、緊迫するショッピングモール。
だが……その光景を上の階から眺める2つの人影に、誰も気付くことは無かった。
「見せてもらうわ、黒薔薇の悪魔……いいえ、ディアボローザ」
青髪の女が、無邪気に笑う。
「……ずいぶんご執心ですね、”陛下”」
右目に眼帯をした黒髪の青年が、溜息をついた――。
※ ※ ※
〈帝歴2030年 ??月??日 木の下―― 〉
――胸が、瞬く間に赤く染まってゆく……。
「ハァ……ハァ……!…なん……、でぇ……ッ!?」
"悪意の眼差し"……それは彼を――。




