第33話「8限目 : 種目決め―レイコク ト アオハル―」
〈帝暦2030年 9月16日 14時30分 王都総合学園 高等部1-B教室にて〉
あれから2週間――。
俺達は……言うより、俺はひたすら、この学園に馴染めるよう努めた。
その点、俺は恵まれているのかも知れない。
隣に座る友達と目配せしながら、微笑み合う。
「授業に付いていけるのも、周囲からの印象が変わったのもマナのお陰だよ。ありがとな」
「どういたしまして。私、ゲート君の笑顔を見れて本当に嬉しいっ!」
彼女の真っ直ぐすぎる一言で、俺の顔が火照った。
「…?どうしたのゲート君、顔赤くして――」
マナが首を傾げる。
「い、いや……何でもない。窓際だから暑かっただけだ……!」
今まで仲間と話してドキドキすることなんて、ほぼ無かったのに。
「ふ〜ん……。確かに日差しが強いもんね、今日は」
興味無さ気な一言と共に、マナはそっぽを向いた。
(こ、この人垂らしが……!)
この時、俺は知る由も無かったが、マナはそっぽを向いた後、顔を真っ赤にして胸を押さえていた。彼女の鼓動が、激しくなる――。
(いつもはあんな顔しない癖に、何で油断してる時にっ……!ズルいよ……!)
ドキドキしている彼女を拝むことは無く、俺は恥ずかしさで悶々としていた――。
その時、教室の扉が勢いよく開かれた。
「遅れてまないな」
担任の先生が大股で入ってきた。
(やっべ、平常心……!)
冷静さを取り戻そうとしている間、担任がスライドを映す。
「今回皆にやってもらいたいことは、体育祭の種目決めだ」
スライドにはリレー、玉入れ、綱引き、借り物競走……などなど、興味をそそられる競技が揃っていた。
「種目決め……!」
学校行事とは長らく無縁だった俺にとって、これはアツすぎる!
「それじゃあ、どれに出場したいか話し合ってくれ」
担任の一言で、クラス全体が熱気に包まれる。
俺も話し合いに参加しようと腰を上げた瞬間、マナが裾を引っ張った。
「…っと、どうした急に――」
「ねえゲート君」
マナの声のトーンが、低い……!
(え、もしかしてさっきの……!?)
俺は身構えた。……って、何で身構えるんだ俺は!?
やがて、少し震えながらマナが口を開いた。
「に、二人三脚………、一緒にどう?」
マナが顔を隠しながら裾を強く引っ張る。
……へ?
「ゲート君……ダ、ダメ?(待って待って!何でこんな誘い方になっちゃうのーーっ!?)」
彼女の心の声など露知らず、俺は動揺で身硬直していた――。
「………ええええええ!?」
だがそれと同時に、不気味な寒さを隣の教室から感じたような気がした――。
※ ※ ※
〈14時58分 王都総合学園 高等部 1-A教室にて〉
「どういうことなんだ、アイさん……!?」
僕はメビウス。姉を奪還するため学園に潜入した、力無き皇子。
「何で自分からブリッツと二人三脚を……!?」
種目決めで起こったことが理解できなかった……!
虚ろな目をしたアイさんは、抑揚ない声で答える。
「私はブリッツ様のもの。アナタ、誰?」
一瞬、彼女の顔が姉様と重なる。
「その言葉……姉様も……!ブリッツ、君の仕業か――」
ブリッツの胸ぐらを掴もうと手を伸ばした途端、皮膚をつんざくような冷気が体中に襲い掛かった!
「なっ――!?」
なんと、アイさんが僕を凍てつかせたんだ……!!
「クッ!!まさか、本当に寝返ったのか……!」
それにしても、これは過剰だ。入学式の時とは違うんだ。問題に――。
だが、周囲を見渡して愕然とする。
誰も、何事もないかのように……いや、その光景が当然かのように種目決めを続けている。
僕は震えながらブリッツを睨む。
「……これもみんな君の仕業か、ブリッツ・レオニウス!?」
だが、彼はのらりくらりだ。
「さあ?知らねぇぞ、他の連中も」
(やはり、白を切るか)
氷を砕きながら、僕は思考を巡らせる。
その時、ブリッツが笑いながらある言葉を突きつけた。
「テメェの見てるモンが何なのか、二人三脚で勝てば教えてやるよ」
一瞬、耳を疑った。交換条件だ。
(だが、これは嘘だ……。ここは調子を合わせるだけにして……)
わざと考えるような演技をしながら、周囲に聞こえるように呟く。
「ゲート君……或いはルシファーさんに頼めということか」
もはやこれは競技じゃない、戦闘だ。
皆が異常なのか、僕が異常なのか――ハッキリさせてみせる。




