第32話「7限目 : 氷をどうする / チャンス・オブ・メビウス」
〈帝暦2030年 9月2日 20時34分 下宿先 居間にて――〉
「ちくしょうッ!!」
俺の拳が、テーブルを震わせる。
「何もできなかった……ッ!もう、何度目だよ!!」
ほんと、自分の不甲斐なさに心底腹が立つ。
頭に血が上り続ける……が、穏やかな声がその血を押し戻した。
「アイさんなら大丈夫さ。それに、今の君は違う。心強い仲間がいるんだよ」
事情を聴いたビウスがフォローしてくれた。
「それでーー……、隣にいるのは君の友達……かい。ゲート君?」
「はじめまして!私、ゲート君の友達のマナ・ランドフェイトです!」
マナは彼の方を向き、頭を下げた。
メビウスが朗らかに笑いかける。
「はじめまして、マナさん。僕はメビウス、ゲート君の相棒です。よろしくね!」
それを聞いたマナが、こちらを向いて頬を膨らませた。
「ゲート君……私以外にも、いい友達を持ってるじゃない」
ヤキモチ(?)が、俺の心臓をブチ抜いた。
ず、ずるいだろ……!
てか、出会って1日だっていうのに、俺と来たら……!
(でも、何でこんな態度をとってくるんだろ……?)
だがルシファーが話し始めたことで、その思案は打ち止めとなった。
「さて、皆に紹介しなきゃいけないわね。おいで、ルナ」
すると、部屋の影から小さな女の子がピョコッと顔を出す。
「わぁ……!」
ソニアが目を輝かせる。女の子はオドオドしながらもぺこりと頭を下げた。
「はっ、はじめまして……!おねえ……ルシファーのいもうとのっ……ルナ・レイス・ナイトメア……ですっ!」
ルナはまさに、ルシファーのミニチュア版といった外見の美少女だ。
――が、突然、その顔がくしゃくしゃになる。
「ごめん……な…ざいっ……!!わっ、わたしのせいで……!、あのおねえちゃんがっ……!」
皆が静まり返る。部屋に響き渡るのは、ルナの鳴き声だけ。
でも俺は、ルナが自分をを責めていることが許せなかった。
「違う」
ルナの鳴きじゃくる声が、ピタッと止まる。
「ひっぐ……、え……?」
「ルナは悪くない……!アイは――あのお姉ちゃんは、最初から君を救いたくて特例教室に行ったんだよ」
彼女の前にしゃがみ、顔を見る。
「君が無事なんだ、アイツも本望だ……と思う!」
ルナの呼吸が、落ち着きを取り戻し始める。
「わたし……あのひとに、お、お礼をいいたい……!」
彼女の手を掴む。
「ああ、言いに行こう……!」
そうだ、これは言わなきゃならねぇ……!
「アイは必ず俺が……いや!」
俺は皆を見て、ハッキリと断言する!
「ここにいる、皆で取り戻そう!」
それを見ていたルシファーが、俺とルナに抱きつく。
マナも、ソニアも……ちょっと距離を置いていたメビウスを引っ張って抱きついた。
「う……あ、アツい……でもっ…!」
ルナの顔がパッと輝いた。
そう、一歩ずつでいい。
一歩ずつで――。
「ああ、言い忘れてたけど来月体育祭があるわよ」
ルシファーの唐突すぎる報告に、全員硬直する。
「な、何で今その話を……!?」
だが、彼女は俺の質問に対して、毅然として答える。
「アイ、ブリッツ、そして……生徒会長とも接触できる機会よ?早い内に知らせて置かなきゃと思ったのよ」
「いや、絶対今じゃないでしょうが!!」
ガヤガヤする居間。その中にたった一人、憎しみの形相で俯くメビウスの姿があった――。
「姉様……!」
※ ※ ※
〈同時刻 レオニウス邸にて――〉
赤い絨毯、黄金の壁画……豪華絢爛な部屋でくつろぐ男が一人……
そして、虚ろな目をした美少女が、隣に腰掛けている――。
「どうだ。ここの雰囲気にも慣れてきたか、アイ?」
男の問いに、少女はこくりと頷く。口元に小さく笑みを浮かべ、彼の前に跪く……。
「はい、ブリッツ様」
これまでとは比べ物にならない程、冷たく無機質な響き――。
少しずつ、絶望と悪意の種が芽吹いてゆく――。




