第32話「7限目 : 氷をどうする / チャンス・オブ・メビウス」
〈20時34分 下宿先 居間にて――〉
「ちくしょうッ!!」
俺の拳が、テーブルを震わせる。
「何も……できなかった……!!…もう何度目だよ……!」
ほんと、自分の不甲斐なさに心底腹が立つ。
頭に血が上り続ける……!
その時、穏やかな声がその血を押し戻した――。
「アイさんなら大丈夫さ。それに、今の君は違う。なぜなら心強い仲間がいるからだよ……!」
事情を聴いたビウスがフォローする。
「それで……隣にいるのは君の友達……かい、ゲート?」
マナは彼の方を向き、頭を下げた。
「はじめまして!私、ゲート君の友達のマナ・ランドフェイトです!」
メビウスが朗らかに笑いかける。
「マナさん、はじめまして。僕はメビウス、ゲートくんの相棒です。よろしくね!」
それを聞いたマナが、こちらを向いて頬を膨らませた。
「ゲート君、私以外にも、いい友達を持ってるじゃない。」
ヤキモチ(?)が、俺の心臓をブチ抜いた。
ず、ずるいだろ……!
出会って1日だっていうのに、俺と来たら……。
(でも何でこんな態度をとってくるんだろう……?)
だがルシファーが話し始めたことで、その思案は打ち止めとなった。
「さて、皆に紹介しなきゃいけないわよね。おいで、ルナ。」
すると、部屋の影から小さな女の子がピョコッと顔を出す。
「わぁ……!」
ソニアが目を輝かせる。女の子はオドオドしながらもぺこりと頭を下げた。
「はっ、はじめまして……!おねえ……ルシファーのいもうとのっ……ルナ・レイス・ナイトメア……です。」
ルナはまさに、ルシファーのミニチュア版といった外見の美少女だ。
だが突然、その顔がくしゃくしゃになる。
「ごめん……な…ざいっ……!!わっ、わたしのせいで……!、あのおねえちゃんがっ……!」
一同、沈黙。部屋に響き渡るのは、ルナの鳴き声だけ。
だが、俺はルナが彼女自身を責めていることが許せなかった。
「違う。」
ルナの鳴きじゃくる声が、ピタッと止まる。
「ひっぐ……、え…?」
「ルナは悪くない……!アイは――あのお姉ちゃんは、最初から君を救いたくて特例教室に行ったんだよ。」
彼女の前にしゃがんで顔を見る。
「結果、君が無事なんだからアイツも本望だと思う…ぞ?」
ルナの呼吸が、落ち着きを取り戻し始める。
「わたし……あのひとに、お…お礼をいいたい……!」
「ああ、言いに行こう……!」
彼女の手を掴む。そうだ…、これは言わなきゃならねぇ…!
「お姉ちゃん…アイは必ず俺が……いや!」
俺は皆を見て、ハッキリと断言する!
「君を含めた俺達みんなで取り戻そう!」
それを見ていたルシファーが、俺とルナに抱きつく。
マナも、ソニアも……ちょっと距離を置いていたメビウスを引っ張って抱きついた。
「ぐっ…あ、アツい……でもっ…!」
ルナの顔がパッと輝いた。
そう、一歩ずつでいい。
一歩ずつで――。
「ああ、言い忘れてたけど来月体育祭があるわよ。」
ルシファーの唐突すぎる報告に、全員硬直する――!
「な、何で今その話を……?!」
彼女は、俺の質問に対して毅然として答えた。
「アイ、ブリッツ、そして……生徒会長とも接触できる機会よ?早い内に知らせて置かなければと思ったのよ。」
「いや、今じゃねーだろ!!」
ガヤガヤする居間のムード――。その中にたった一人、憎しみの形相で俯くメビウスの姿があった――。
「姉様っ……!」
※ ※ ※
〈同時刻 レオニウス邸にて――〉
赤い絨毯、黄金の壁画……豪華絢爛な部屋でくつろぐ男が一人……
そして、虚ろな目をした美少女が、隣に腰掛けている――。
「どうだ、ここの雰囲気にも慣れてきたか…?アイ……!」
男の問いに、少女はこくりと頷く。口元に笑みを浮かべ、彼の前に跪く……。
「はい、ブリッツ様。この館に酔いしれております……。」
これまでとは比べ物にならない程、冷たく無機質な響き――。
少しずつ、絶望と悪意の種が、芽吹いてゆく――。




